セントジョンズ③

カナダ - 150年 街道をゆく

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セントジョンズ③

セントジョンズの人口は10万に満たない。

かつてタラ漁で栄えたところだが、ここ数十年はタラが激減して、その文化も失われつつある。漁業が駄目になったセントジョンズの人口は減るばかりだが、郊外では逆に増えているという。海洋学はもちろんだが、地質学的に注目される土地だから、研究者関係者が多く移り住んでいるという。

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もともとニューファンドランド島はユーラシア大陸とつながっていたのだが、それが裂けて、いまのいびつな形の地形になったそうだ。それが北米大陸の一部となり、数億年前の地質が表面に出ている世界的にも稀な土壌となった。そのため世界中から研究者が集まるのだが、主に深海にいた古生物の化石が表面に出ている。また当時の地層が掘削しないでも観察できるため、古生物が活躍した時代に興味があると面白い。

また人間が来てからの島の歴史も興味深い。最初にここに住んでいたベオスック族は、ヨーロッパからきた白人の入植により絶滅している。最後の生き残りの女性は1829年にセントジョンズで亡くなっている。

ベオスック族の祖先がいたころには、コロンブスに先駆けてノース人(ヴァイキング)が入植している。これは後で訪ねるので詳細は省くが、定住したといっても三年ほどの話らしい。後のヨーロッパ人もそうだが、大量に獲れるタラを求めて、ここまでやってきたのだ。

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1490年代にジョン・カボットがニューファンドランド(ニューファン)を見つけてからは、主にイギリス、アイルランド、フランス人たちが相次いで入植して、戦争を繰り返した。ここからはカナダの他の東海岸の歴史と重なるところが多い。結局はイギリス系が勝ち、ニューファンはイギリスのものとなる。

興味深いのは、ニューファンがカナダに属するようになったのは、第二次大戦後の1949年であるということだ。

国の歴史としては、つい最近の出来事である。それまではイギリスの自治領だったので、まあ独立国に近かった。戦後、カナダとアメリカとでニューファンの争奪戦が始まったのだが、カナダは子供一人あたりに補助金を出すなどして優遇政策を前面に打ち出したので、選挙では51対49くらいの僅差で、カナダになることが決まった。

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そのような歴史があるので、ニューファンはカナダでもかなり特殊な事情をもつ島でもある。トロントからの時差が1時間30分あるのだが、この「30分」というところに、ニューファンの主張が出ている。1時間30分の時差というのは、かなり面倒な時差である。しかし、これも個性ということになるのだろう。ニューファンの歴史をかじると、この面倒な時差も味がある。

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↑スピア岬。「カナダはここから始まる!(または終わる)」と掲げられている。

大陸と隔絶されていたニューファンは、専門の辞書ができるほど言語も特殊だが、食べ物もかなり変わっている。

名物はタラ料理だ。日本でもタラは東北・北海道を中心によく食べる。私の育った大阪ではあまり食べないが、東京だと、どのスーパーにも置いてある。

だからべつにタラ料理など珍しくないと思ったのだが、なかでも「フィッシュ・アンド・ブルース」と「コッド・タン」が有名だという。Iさんが「召し上がりますか」と聞くので、私は「お願いします」とレストランで食べてみることになった。

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氷山の水をつかった地ビール「アイスバーグ」

まず「フィッシュ・アンド・ブルース」だが、これは乾パンのような固いパンと、タラの身をほぐしたものをあえたものだ。上から豚の脂カスと、サトウキビからとった甘いシロップをかけて食べる。

本来はタラを使っているのから「コッド・アンド・ブルース」だと思うのだが、セントジョンズでは「フィッシュ・アンド・ブルース」と呼んでいる。セントジョンズの歴史と文化からすれば、魚といえば、タラしかいないからだろう。

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↑フィッシュ・アンド・ブルース。左の小皿は豚の脂カス

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↑甘いモラセスをかけて食べる。モラセスはサトウキビから砂糖をとるときにできる副産物で、日本語では「廃糖蜜」と書く。最近は健康食として注目されているので、お土産にもいいかもしれない。

そして「コッド・タン」というのは「タラの舌」という意味だが、本当のタラの舌を食べるのではなくて、タラのノド元にあたる柔らかいゼラチン質の部分をカリッと揚げてある。

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↑中央がコッドタン。すごく脂がのっている。

その味だが、まず「フィッシュ・アンド・ブルース」の方は意外にいける。しかし、固いパンに合えてシロップをかけるので、今まで食べたことのない食感と味だ。Iさんは「オカラみたいでしょ」というのだが、確かに日本では「オカラ」としか形容できない味と見た目だ。

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驚いたのは「コッド・タン」だ。私は今まで、このような奇妙なカナダ料理に出会ったことがない。

外はカラッとしているが、中はブニュブニュで、苦手な人もいるかと思う。とにかく個性的な味だ。カナダを代表する料理の一つであることは間違いない。初めて食べると、かなりショッキングでもある。パブでタラとキスするのも面白いかもしれないが、コッドタンはじゅうぶんにカルチャーショックを与えてくれる料理である。しかし、よくこの「タラのノド元だけを揚げる」という料理を考えたものである。

「これはすごく難しい料理でしてね。下手な人がつくるとベタベタになってしまうんですよ。上手な人がつくると、カリッ、フワッとするんですけどね」

Iさんのいう通り、タラは水気が多いので、カリッと揚げるのは難しいだろう。冷凍ではなく生のタラでないとダメだという。

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つづく

 

 

コメント

  • 中本 聡

    「全身ノンフィクション作家」で旅の再開を知りました。梅雨入りして連日ムシムシする日本を離れて羨ましい限りです(^^) 地形のことを少し書かれていますが、そう言えば考古学に関するノンフィクションも出しておられますね。上原さんの興味関心の範囲の広さに驚きます。このブログも単なる観光案内になることはないだろうと期待しています。頑張って下さい。

    • 上原善広

      ありがとうございます。もちろん、ただの旅日記にはならないと思います(^^) ご期待にそえるよう頑張ります。また時々のぞいてみてくださいね。

  • 佐々木由紀恵

    旅のブログを楽しく拝見しています。
    氷山の氷のビールに「鱈の舌」。珍しい食べ物を教えてくださってありがとうございます。
    上原さんの食べ物レポートは本当に美味しそうですね。

    • 上原善広

      コメントありがとうございます。食いしん坊なのがどうしても出ているのでしょうね。お恥ずかしいかぎりです。

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