ウィニペグ③ 人権博物館

カナダ - 150年 街道をゆく

お気に入りに追加

ウィニペグ③ 人権博物館

人権の話でいえば、ウィニペグでは2014年に、カナダで初の国立の人権博物館が開館している。

移動のときに乗った飛行機で知り合ったカナダ人夫婦が、「今度、ウィニペグに旅行しようと思っている。人権博物館ができたからね」と言っていたように、カナダではかなり有名な存在になりつつある。

canadian-museum-for-human-rights-1332545_960_720

↑右が国立人権博物館

VIA駅の裏に、斬新なデザインで目立つ建物が、人権博物館だ。すべてバリア・フリーになっており、7階建ての建物の上まで階段なしでスロープを歩いてのぼっていけるようになっている。もちろんエレベーターもあるので、上にのぼってから下に降りながら見てもいい。

IMG_2973

↑この回廊を通りながら上の階へと展示を見ていく。かなり斬新なデザインだ。

カナダの国立博物館は大体どこでもそうだが、とにかく広くて展示が充実している。カナダ国内だけでなく、海外の人権問題も扱っている。ただ展示してあるだけでなく、クイズ形式だったり、遊んで学べるようになっているので、子供連れでもじゅうぶんに利用できる。

IMG_2985

↑自ら遊んで見せてくれる博物館のガイド

なぜウィニペグに、しかも国立の人権博物館なのだろうと思っていたのだが、もともとウィニペグ出身の資産家が企画したのと、ウィニペグは先住民やメティスの問題があり、また歴史的にルイ・リエルの話なども聞いていたから、なるほどと納得できた。こういう施設があまりトロントなどの都市部に集中するよりは、ある程度は分散して建てた方がいいだろう。

IMG_3000

IMG_2993

日本に関係するところでは、アジアでの従軍慰安婦問題や南京大虐殺が取り上げられているということで、日本国内でも一部で問題視されニュースになった。

それで実際に見てみたのだが、思っていたよりも展示スペースが小さいので、ほとんど目立たない。よほど注意して見て行かないと、通り過ぎてしまう。どちらかというと、世界各地で同じような問題が起こっているというような話の一つとして取り上げられていた。

それよりも日本人関連でいうと、やはり日系人の話について大きくスペースを割かれている。

カナダとアメリカの日系人は第二次大戦中、強制収容所に入れられていたからだ。現在はカナダ政府はそのこそを公式に謝罪し、賠償している。「理想主義国家カナダ」らしいエピソードだ。

IMG_2982

↑当時の日系人の身分証明書

私が気になったのは、第二次大戦中のドイツによるユダヤ人虐殺については、1つのフロアを占めるほど大きく取り上げているにも関わらず、比べてパレスチナ問題はあまりに小さいということだ。数百年以上ものあいだ迫害されてきたユダヤ人が、今度はパレスチナの人々を迫害している。このパレスチナで起こっている100年戦争は、まさに世界的な難問である。

しかしこの点は、博物館の出資者がユダヤ系であったということと、国内のユダヤ人への配慮もあるだろう。また国立という限界もある。わかってはいるが、実際にパレスチナ・ガザ地区に片足を突っ込んだ者としては、もう少しバランスが欲しかった。

IMG_2994

↑希望すれば、ガイドとともに回ることもできる。とにかくよく歩く。このガイドさんが試しに一度測ったところ、3団体を案内して、一日合計15キロほど博物館内を歩いていたという。 

日本でも問題になったように、世界各地の各団体から意見や抗議が来ているというので、一言で「人権博物館」といっても、バランスをとってやっていくのは難しいし、ある程度は限界がある。ただ「ないよりマシ」だし、大まかな目で見れば人権全般の勉強になるのは間違いない。

女性館長と話す機会があったので、日本の大阪にも同じような人権博物館(リバティ大阪)があるが、現在、閉鎖の危機に陥っていると話すと、「それは大変残念なことだ。何とかならないのか」と言う。

「財政難から、大阪府・市が補助金を切ったのです。今は何とか自主運営でやっているようです」

「国としてなんとかできないのか。存続の取り組み運動をしたりとか」

「日本には同和問題という、まあ言ってみれば極東カースト制度のような問題があり、その運動団体が中心になって運営してきた経緯があるから、以前から展示内容の公平性の面で問題があると指摘されていた。国立にするのであれば、今後の展示内容についてさらに議論が起こるだろうから、さらに複雑になり難しいだろう」

「運動団体には、それぞれの方針がありますからね」

「このウィニペグの人権博物館の成り立ちとは、まったく違いますからね。ここでも展示内容について、人々の考えも一人一人違うでしょう」

「この博物館にとっての問題は、まさにそこにあります。今後も展示については議論を重ねて、いろいろと工夫していくつもりです」

「まだ開館して2年ですよね。それにしても国立の人権博物館は世界的にも珍しいし、展示方法はたいへん工夫されていて子供はもちろん、大人の私でも楽しめました」

「ありがとう」

このウィニペグの人権博物館ように、ある地元の資産家が資金を投入して、このような巨大な博物館をつくるということは日本では珍しいことかもしれない。ただ思うのだが、いろいろ問題があるとはいえ、大阪人権博物館が閉鎖の危機にあるのは、世界的に見ても、ちょっと残念なことだと思う。

私個人の考えだが、日本で国立の人権博物館ができるのは理想ではあるけども、現実には無理だと思う。比較的新しい国であるカナダ(来年、建国150周年)と違い、日本にはタブーが多すぎるから、展示内容がどうしても無難なものになってしまうだろうからだ。

日本における人権博物館は、それぞれの運動団体がつくりながも、見る人のことを考えて、冷静にバランスを心がけるという方向が、もっとも適しているのではないだろうか。私設博物館というのは運営が難しいものだが、たとえば群馬の「相沢忠洋記念館」も私設だし、人権関係では熊本県の水俣に公害関係の施設博物館があるし、奈良には水平社博物館もある。

そうした意味では、ウィニペグにある国立人権博物館は、カナダがおこなっている壮大な「実験施設」とみることもできる。「理想主義国家カナダ」が、国立でどれだけ人権についての展示を充実させることができるのか。そして運営していくにはリピーターが必要だが、どうやってそれを作り出し維持していくのか。

日本には国立の人権博物館はないが、参考にする点は大いにあると思う。

 

つづく

 

コメント

  • 田原サチエ

    いつも楽しみに拝見しています。日本の人権資料館では東京都に国立ハンセン病資料館がありますが、原爆資料館は広島も長崎も自治体が運営していますね。いろいろな立場があって難しいことだとは思いますが、日本でも過去の歴史を踏まえ、幅広く学習できる場所があるといいなと思います。世の中がきな臭くなっているので、よけいにそう思うのかもしれません。

    • 上原善広

      コメントありがとうございます。確かにそれが理想だと思いますが、今の日本ではちょっと「心の余裕」がないのかもしれません。また、展示などをきっかけにそこから議論する、という「大人な姿勢」がもう少し必要かなと思います。最近は特に感情的に走りすぎるようですからね。ドライでなく湿っぽい(感情的)のはアジア人の長所だと思うのですが。。。 とにかくこのカナダの旅では、いろいろ考えさせられています。

コメントを残す