知られざる画家、ウィリアム・クレレク

カナダ - 150年 街道をゆく

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知られざる画家、ウィリアム・クレレク

カナダの画家といえば、グループ・オブ・セブンやエミリー・カーなどが知られている。そのカナダの中でも「知られざる画家」として一部で有名なのが、ウクライナ系カナダ人の画家、ウィリアム・クレレクだ。

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↑絵を描くクレレク

ウクライナ系カナダ人に「クレレクを知っているか」と訊ねると、多くの人が「もちろん」と答える。しかしカナダの中では、美術界に詳しい一部の人にしか知られていない。もちろん日本ではまったくの無名だ。

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↑車で寝泊まりしながら、プレーリー(カナダ中央部・大平原地帯)や空の雲をスケッチするクレレク自身。

クレレクを日本に初めて紹介したのは、カナダ史研究家の故木村和男(筑波大)だ。木村の紹介を元に、クレレクという「不世出の画家」を追ってみたい。

1927年にアルバータ州で生まれたクレレクは、移民三世にあたる(祖父の時代に移民)。父は生まれながらの農民で、イギリス系への反発心から英語をわざと話さないほどだった。画家になりたいという息子を父は許さず、仕方なくクレレクは家出して、大都市トロントに向かう。

トロントにしばらく滞在した後、メキシコ、イギリスなどで働きながら絵画を学ぶが、やがて精神を病んでロンドンで入院生活を余儀なくされる。14回もの電気ショック療法に耐え、ギリシャ正教からカトリックに改宗することで病を克服し、1959年にトロントに戻り、額縁職人となってイギリス系の女性と結婚する。

当初は病のために画業を諦め、額縁の職人として働いていたクレレクだが、トロントの有力な画廊経営者に認められて個展が開かれた。これが成功し、以後、クレレクは画家としてカナダでも知られるようになる。

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ちょうど1960年代から、カナダ政府が「多文化主義政策」を推し進めていたことも、クレレクにとって幸運だった。オタワでの個展は、当時のピアソン首相夫人からも賞賛され、クレレクは国民的画家として認められることになり、父とも和解するに至る。しかし1977年、ガンのためトロントで亡くなった。50歳だった。

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↑クレレクの自画像

クレレクの作品には本の挿絵や絵本などもあり、また狂信的ともいえる宗教画も多い。だからその作風は一概には語れないが、プレーリーの生活を描いた一連のシリーズは特に有名で、プレーリーを見たことがある人はもちろん、見たことがない人にも、何かを感じさせてくれる。

私もカナダに来るまではその存在を知らなかったが、クレレクの絵を見てすぐに好きになった。カナダ史研究の木村和男は、自身が北海道出身ということもあり、クレレクに傾倒して、ついには彼の絵まで購入するほどだった。

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↑美しいプレーリー地帯の四季を描きつづけたクレレク。緯度が高いため、カナダの冬は夜長だが、こうこうとした月明かりの下で遊びに夢中になる子供たち。

カナダ中央部に広がるプレーリーの開拓史は、北海道の開拓史とよく似ている。北海道では内地からさまざまな出身の人々が開拓団として赴いたが、カナダのプレーリーではウクライナ移民がその代表格にあたる。

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↑ウクライナ移民たちの生活風景。

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↑原野を切り拓く。

(c) Bethlem Royal Hospital Archives and Museum; Supplied by The Public Catalogue Foundation

↑子供と母親の昼食。右上に雨雲が見えているが、これもまたプレーリーの風物詩。 

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↑家畜のエサ用につくった草の小山の上で遊ぶ子供たち

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クレレクの絵は、主にカナダ中央部のさまざまな美術館で見ることができるが、プレーリー各地にあるウクライナ博物館でも展示していることがある。

また日本でも、Amazonなどで以下の絵本が販売されていて、手に入れることができる。

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↑「プレーリー・ボーイの夏」プレーリー地帯で暮らした少年時代の思い出を絵本にしたもの。

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↑「プレーリー・ボーイの冬」雪合戦にそなえて大量の雪玉を作っている世界共通のこの光景は、不思議と昔の日本を感じさせる。クレレク自身も「国際人」を自認していた。

クレレクを紹介した木村自身も嘆いていたが、いまだに日本で紹介されないのが不思議なくらいだ。例えば北海道などで個展が開かれれば、日本人でもだいぶん共感をもって受け入れられると思うのだけど。。。

ウィリアム・クレレク公式サイト

http://kurelek.ca/

 

つづく 

 

コメント

  • 佐藤 朔

    はじめまして。本当にいい絵ですね!クレレクの名前は聞いたことがありませんでした。絵本にぴったりの、緻密で愛情こまやかな作風ですね。ところで、麦畑を歩く農夫の絵、手に持っているのがスマホに見えてしかたないんですが(^^)

    • 上原善広

      うーん、ぼくもいい絵だと思うのですが、「暗い!」とか言われるんですよ。ご紹介した一連の絵は、べつに暗くないと思うんですけどね。その農夫は小麦の出来具合を確かめていると思うのですが、そう言われると、次回から「スマホ…」と思ってしまうから不思議ですね(^^)

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