アルバータで恐竜の話 恐竜研究者・田中康平さんインタビュー

カナダ - 150年 街道をゆく

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アルバータで恐竜の話 恐竜研究者・田中康平さんインタビュー

カルガリーといえば、やはり私にとっては、ドラムヘラーのロイヤル・ティレル博物館である。

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↑ドラムヘラーの観光案内所。この恐竜のモニュメントは、体内を通って口の中から町をのぞき見ることができる。

世界的に有名なこの恐竜博物館には、世界中の人々が集まってくる。特に子供たちには大人気だ。展示品のいくつかは、日本の恐竜展でも貸し出されているので、一度くらいは目にしたことがあるかもしれない。

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↑ドラムヘラーの奇岩。この辺りは砂漠気候が混じっているので、このような奇観がうまれやすい。

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↑ロイヤル・ティレル博物館の入口。

ロイヤル・ティレルを見学した翌日、カルガリー大学に日本人の恐竜研究者、田中康平さんを訪ねた。

田中さんは1985年、愛知県名古屋市生まれの31歳。2008年、北海道大学理学部地球科学科を卒業後、カルガリー大学に留学。在カルガリー歴はもう8年ほどになる。

上原 最初に、なぜ恐竜を研究しようと思ったのですか?

○田中さん 幼い頃にヒサクニヒコさんの『恐竜はなぜ滅んだのか』という本を読んだのきっかけですね。それで高校生のときに福井県にある恐竜博物館に電話して、進むべき大学を教えていただいたんです。その中に北海道大学があったんですね。それで北国も好きだったので、特に抵抗なく進学しました。

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高校生のときに、すでに進路を決めていたんですね。しかし、日本に恐竜を研究できる大学があったんですね。

○ええ、けっこうありますよ。それに北海道大には小林先生がいたので。

<※小林先生とは、日本における恐竜研究の第一人者である小林快次(よしつぐ)氏のこと。1971年、福井県生まれ。アメリカの大学に進み、日本人で初めて恐竜研究をテーマにアメリカで博士号を取得。北海道大学総合博物館准教授、大阪大学・総合学術博物館招聘准教授>

○しかし、そういう高校生たちからの電話って、恐竜博物館に結構かかってくるらしいんですね。小林先生も当時は福井の恐竜博物館に勤められていたんですが、先生は厳しい方なので、恐竜研究したいと電話がかかってきても「はい、東大かハーバードッ!」と言って切ってしまうらしいんです(笑) しかし、私が電話したときは、たまたま違う学芸員の方でしたので、親切にいろいろと教えてもらえてラッキーでした。

うーん、それは手厳しいですね。まあ、それほどやってくのが厳しい分野だということなんでしょうね。しかし東大でも恐竜研究しているんですね。知りませんでした。

○はい、やっています。研究自体はけっこういろんなところでやっているんですが、それで食べていくという意味では、難しいですね。

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ちょっと素人質問で恐縮なんですが、結局、「恐竜は鳥に進化した」ってことでいいのでしょうか?

はい、一部の恐竜のグループが鳥に進化したということです。ただし鳥は恐竜なので,『恐竜は鳥に進化した』という表現は正確ではないですね。

大型恐竜は、隕石の衝突で消滅したと聞いていますが。

○はい。6600万年前に隕石の衝突により、大型はほぼ絶滅して、鳥に進化したものが生き残ったということですね。

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ではあのー、ワニみたいなのも恐竜時代にいたと思うのですが、あれは絶滅しなかったんですか。あれはそのまま現代のワニになったのでしょうか?

○ワニのグループも恐竜時代にいましたし,大量絶滅を生き延びて現在も生きていますね。恐竜はワニとは近縁なのですが別系統のグループで,恐竜の一部である鳥類が大量絶滅を生き延びました。

ああ、そのままワニになったのもいたわけですね。ところで田中先生は、恐竜の卵の研究をされているそうですが、恐竜の卵から何がわかるんですか?

○主に「繁殖戦略の進化」をテーマにしていますが、例えば、先ほどの話でいうと、ワニは卵を泥に埋めたらそのままなんですね。鳥は温めます。

ああ、ワニは卵を泥の下に埋めてしまうんですね。

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↑埋めるタイプの恐竜の卵の化石(見本)

○そうです。この卵を埋めていたかどうか、外に産んでいたかどうかというのが、重要になってきます。泥などに埋めるタイプの卵は、湿度が高くて酸素が乏しいので、酸素を取り入れる穴が大きくなり、大型化していくんです。逆に外に産めると、空気穴が少なくて済むので小型化する。簡単にいいますと、進化型は卵を埋めない、従来型は埋めるんです。

外に産んだ方が有利ということですか?

○そうなりますね。外に産めると、いろんな場所に産めるでしょう? ほら、鳥もいろんなところに卵を産んでますよね。

しかし、あれだと外敵に狙われやすくなりませんか。

○確かにそういう難点もありますが、外に産むタイプは埋めるタイプよりも条件を選ばないので、生き残りやすいんです。例えば現在、鳥類はだいたい1万種いるといわれていますが、ワニはたった22種類しか生き残っていません。

確かに、卵を砂浜に埋めるウミガメなんかも、絶滅の危機にありますものね。

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↑化石を修復中のスタッフ。ロイヤル・ティレルでは、こうした作業風景も見学できるようになっている。

○あと「半分だけ埋める」というのもいるんですが(笑)

それは生存していくうえで、有利なんでしょうか。

○いえ、やっぱり外に産むほうが有利ですね。卵を埋めるには、それが半分だけであっても、埋めるのに適した場所を探さないといけないんです。そうしたことを踏まえて、ワニや鳥の卵を徹底的に観察研究して、では恐竜はどうだったか、ということを研究しているんです。例えば顕微鏡で卵の空気穴を調べると、この卵はどちらのタイプだったか、というのがわかるのです。

なるほど、それは面白いですね。ところで、日本に「恐竜研究」という分野はあるんですか?

○ええ、ありますけど研究者も少ないですね。それだけで食べている研究者は、5、6人くらいでしょうか。

その中でも「恐竜の卵の研究者」っていうのは、日本ではさすがに先生だけなんじゃないですか?

○いえ、2、3人はいると思いますよ。ただ、恐竜研究はこれまで骨主体だったので、卵はあまり注目されてこなかったんですね。

しかし、発掘なんかは大変ですね。キャンプしながら、炎天下の中でするんでしょう。

○べつにそんな大変ではないですよ。ドラムヘラーには日帰りで行けますしね。研究者には発掘タイプとそうでないのがいて、私はあまり発掘しないですし。小林先生は発掘タイプです。

確かに考古学も、文献考古学とか、分かれてますね。

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○アルバータには化石ハンターが沢山います。素人なんですけど、すごい知識をもっていて、眼もいい。アルバータはどこでもよく化石が出ますし、最近ではウォルマートの裏で大きな化石が発見されました。彼らは発掘すると連絡をくれるので、それを見に行ったりもしますね。アルバータでは「化石は州のもの」という法律があって、州外に持ち出すのは禁止されているんです。

そういえば、ロッキー山脈の方でいろいろ化石が出るところがありますね。

○ヨーホー国立公園の方ですね。あそこはバージェス・シェール(頁岩=けいがん)が見られます。ハイキングで往復10時間くらいかかりますが、あそこはいいですよ。恐竜よりもっと古いカンブリア紀ですからね。

そうか、ロッキーの地層は、恐竜よりもずっと古い地層になるのか。

○ロッキー山脈で見つかる化石は恐竜時代よりもずっと古く,生命の歴史のもっと古い段階にありますね。

アルバータの化石は世界的に有名ですが、日本の恐竜化石は、もっと出ると考えていいんでしょうか。

○はい、まだまだこれからだと思います。今は福井、兵庫、北海道でよく出ていますが、発掘さえすればもっと出るでしょうね。恐竜の化石はまだ1000種くらいしか見つかっていないから、新種も出るでしょうね。日本は確かに恐竜研究では出遅れていますが、これからは期待していいと思います。

日本とカナダの研究の仕方というか、雰囲気というのはやっぱり全然違うものですか?

○違いますね。こちらは午後4時半になったらパッとやめて帰ります。日本では深夜、研究室に行くと、必ず誰かがいますが、カナダでそういうことは滅多にない。あと議論も比較的、自由ですね。日本はどうしても師弟関係になってしまいますが、こちらは学生でも先生でも、自由に議論します。私は日本人の勤勉さ、カナダ人のセンスの良さを得られれば完璧だと思っているんです。

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↑新進気鋭の恐竜研究者・田中康平さん。手前が「半分だけ埋まっている恐竜の卵」の化石(見本)

「来年には博士号をとって大学を移りますが、日本に帰るのかカナダに残るのかはまだ決めていません」と話す田中さん。ちょうどこの日はカナダデーのお祭りだったが、「今日はどこにも行きません、研究室にいます」とのことだった。さすが「日本の研究者」である。

つづく

 

コメント

  • Michiko Arisawa

    こんにちは。カナダの旅も日程の半分を過ぎましたね。
    今回はインタビュー形式の記事。質疑応答は恐竜の素人にもとても分かりやすく、また、田中康平さんの飾らない人柄がよく表れていて、いっぺんに田中さんのファンになりました。
    これからも面白い記事を楽しみにしています。
    日本はとても暑いので、これから北の方に向かわれると帰国したときのギャップがすごいですよ。
    残りの旅もどうか気をつけてください。

    • 上原善広

      コメントありがとうございます。私も、田中さんのファンになってしまいました。これからが楽しみな恐竜研究者ですね。カナダでの生活はいろいろとご苦労も多いかと思いますが、そんなことは一切感じさせない方でした。ところで、こちらもだいぶん暑くなってきましたが、日本ほどではないので、確かに帰国したら体調を崩すでしょうね。しばらく寝込むと思います(^^) また時々、このブログをのぞいてみてくださいね。

  • 益子 博

    初めてコメントします。上原さんと同年配(少し年長)のファンで、で中上健次のファンでもあります。
    上原さんの著作も「私家版差別語辞典」「日本の路地を旅する」等々、読ませて頂いてます。「全身ノンフィクション~」を時折覗き、カナダ紀行は以前から存じていたのですが、こちらのブログは未読でした。なぜカナダ?というのもあったのですが、夏休みを利用し、一気に読破しましたが、いやぁ~いい雰囲気ですね。面白いし、うらやましい。私は旅をほとんどしないというか無精者の年中懐寂しい甲斐性無しなので、なんというか伸び伸びとした旅の様子(もちろんお仕事ですが)うらやましい限りです。カナダの基礎知識はほとんどありませんが、自転車でのトレイルや、ユース利用など、上原さんらしいというか、原稿もやはり「ルーツ」を大切にされる基調に、画家や音楽家もまったく門外漢でも楽しく刺激を受けながら楽しませて頂いてます。一人旅にコメントは励みになるとあったので、一方的に書きましたが、これからもブログ、著作共に楽しみにしています。今はカナダを移動中でしょうか?(すみませんよくわかっていなくて)どうかご無事で充実した旅を過ごされますよう。
    追伸:写真の中でも、やはり上手く撮れている(?)食事の様子が楽しみです。自炊の様子も拝見したいです(笑)

    • 上原善広

      コメントありがとうございます。そうなんです。コメントいただけると大変、励みになります。今はカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州を移動中で、9月中旬には一旦帰国する予定です。このブログは大幅に書き直して、来年には本になる予定です。また「なぜカナダなのか」と言いますと、ぼくが北国カナダが大好きなのと、たまには違うテーマで書いてみたかったからです。また来年、カナダ建国150周年を迎えるということもあって、この機会にカナダの旅に出たというわけなのです。ぼくにしては珍しく明るい(?)レポートになると思いますので、また時々のぞいてみてくださいね。

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