本物のカウボーイ

カナダ - 150年 街道をゆく

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本物のカウボーイ

「ヘッド・スマッシュド・イン・バッファロー・ジャンプ」という長ったらしい名がついた、巨大な崖を見に行った。

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ここは6000年以上前から、先住民たちにとって「天然の罠」になっている。つまり、バッファローの追い込み猟をしていた遺跡なのだ。山間までバッファローを誘導したら、そのまま一気に崖まで突進させて墜落させ、何十頭も一気に獲るのである。だから崖下からは無数のバファローの骨の堆積物が出ている。その堆積層は11メートルにもなるそうだ。この猟は19世紀まで続けられていたという。

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この猟をしていた先住民ブラックフット族は、なぜブラックフット族と呼ばれるようになったのだろう。実際にブラックフット族の末裔がいたので訊ねてみた。

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「靴(モカシン)の裏に炭を塗って保護していたのさ。それで足の裏が黒かったので、ブラックフットと呼ばれるようになったというわけなんだ」

ブラックフット族は比較的大きな集団で、カナダの中央三州からアメリカにまで勢力が及んでいる。現在、カナダでは1万6000人、アメリカ側で1万5000人ほどが暮らしている。

 

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↑今は使われていない、古いタイプの穀物エレベーター。建物内に小麦などを積み上げて、そのまま列車に積み込むために使われていた。

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↑プレーリー地帯もそろそろ限界に近付き、起伏が出てきた。一面の菜の花畑。菜種油の英名「キャノーラ」Canolaは、「カナダ」が語源だ。それほど多く作られてきたということ。写真を撮っているのは通訳兼ガイドのH氏。

 

ところでカルガリーは「カウ・タウン」と呼ばれるほど、カウボーイ文化が盛んだ。実際に今でもカウボーイ・ハットに、投げ縄をもって牧場を管理している者も少なくない。

本物のカウボーイに話を聞くことができた。

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会ったのはスティーブン・ヒューズという牧場主、48歳。主に肉牛を育てている。

「カウボーイ」と言う単語が会話に出てくると、「オレはカウボーイじゃない。経営者だからな。ランチャー(牧場主)か、キャトル・マン(肉牛の飼育人)と呼んでくれ」と言われた。確かにカウボーイというのは、牛の面倒を見る牧童たちのことで、彼からすれば従業員である。

スティーブンは車に乗って、いろいろと牧場内を案内してくれた。

「オレで三代目になる。ルーツはイングランドだ。祖父さんによると、イングランドは狭すぎたのでこっちに来たということだ。祖父さんは1928年にここにきて、1950年代に開墾して牧場を持った。それまでアルゼンチンやニュージーランドとかの候補もあったようだけど、アルゼンチンは社会情勢が不安定だったし、ニュージーは社会主義的すぎるってことで、カナダになったらしい。」

ところで、カルガリーのあるアルバータといえば、「アルバータ・ビーフ」が有名だ。この広いカナダの中でも、なぜアルバータの牛肉が有名なのか、その理由を知りたかった。キャトル・マンのスティーブンなら知っているだろうと、アルバータ・ビーフがなぜ有名なのか、訊ねてみた。

「この辺り、つまりアルバータ南部は何千年も前からバッファローが育ってきた。ヘッド・マッシュト・イン・バファロー・ジャンプの遺跡があるのも、もともとこの辺りにそれくらいバファローが多かったからなんだ。この辺りは冬でも生草を食べられるからね。

シュノック・ランチと言うんだけど、冬でも時々温かい風が吹くんだ。だから冬の間、干し草を食べさせるのは子牛だけで、それ以外はもともと生えている草を食べて育つ。

アルバータで牛肉が有名なのは、まず第一に冬でも生えている草があるっていうこと。気候も肉牛には最高だ。暑すぎず、寒すぎない。それと水がいいんだ。そうした良い条件が重なって、肉牛の繁殖がこの辺りでは盛んなんだよ。もちろん肉質の良し悪しには、牛の種類も重要だけどね。

他の地域でも、もちろん肉牛はできるけど、マニトバ州は雨が多すぎる。サスカチュワン州は冬が厳しすぎる。

この辺りの草は「アルバータ・バーリー(草)」っていうんだけど、草の質がすごくいいんだ。私の仕事も、とにかく草と水、この二つが重要なんだ。だから私は雨が大好きだ。6月から8月までは草がよく育つので、その間に雨がどれだけ降るかが問題だ」

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↑カウボーイたちに指示を出す〝キャトル・マン〟スティーブン。

ところで、カナダやアメリカの牛の問題点は、ほとんどの牛に成長ホルモンを打つことだ。これは日本でも問題になっている。

その点を訊くと「うちの牛には打ってないけど、確かにほとんどの牧場では成長ホルモンを使っている。だけど成長ホルモンも悪いことばかりじゃないんだ。例えば成長が速いので草の保護にもなるし、出荷のときにはほとんど消えているからね。使うことで、いいこともあるんだ」と言う。

「うちの牧場では、出産なんかもできるだけ自然に任せている。双子で逆子だったりしたら、もちろん手伝うけど、そうしたケース以外はほとんど自然に生まれて育てる。だからアルバータ牛は健康でうまいんだよ。日本の和牛の方が、よっぽど不健康に育てられてるんじゃないか?」

 

ちょうど「牛を捕まえに行くので見に行こう」と言って、スティーブは車に乗って牧場を走った。見渡せる山々は、みなスティーブの牧場のものだ。

牧場の中心部にくると、牛が集まっていて、そこに本物のカウボーイたちがいた。

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↑カウボーイのダスティン。後ろの二人はスティーブンの娘さん。

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ダスティンという二十代くらいのカウボーイで、もう一人は、勝手に付いてきて居ついた男だという。他にも十代の少女が二人いるが、彼女らはスティーブンの娘さんだ。

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↑下の娘さん。まだ14歳。

投げ縄を使って、子牛を捕まえているところだった。あの映画などで見るように、くるくると投げ縄を回して、器用に投げて捕まえている。最近、眼病が流行っているので、その処置をするために捕まえているのだという。

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↑投げ縄をもって牛に近付くスティーブンの上の娘さん、16歳。

下の娘さんは投げ縄が少しぎこちなかったが、上の娘さんは見事に投げ縄で子牛を捕まえた。母牛が興奮して子牛に向かおうとするのを、他のカウボーイたちが防ぐ。

捕まえた子牛は、確かに、片目が赤く腫れていた。薬を付けた湿布のような布をその目に貼り付け、眼帯のようにする。布がうまく張り付いたら、牛を放してやっておしまいだ。

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↑子牛を捕まえたスティーブンの娘さんと、子牛を処置する助手のカウボーイ。

牛は茶色のまだらと、黒毛の二種類がいるが、どちらもアンガス種で、肉質に違いはないという。顔が白いのだけはハートフォード種だという。

牧場は全部で5500エーカーある。1エーカーがだいたい1000坪だから、かなり広大である。カウボーイは馬に乗って全てを見回りして、牛に異常がないかチェックしなければならない。呑気な仕事のようでいて、なかなかの重労働だ。

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↑カウボーイのリーダー、ダスティン。さすがに堂々とした風格だ。

スティーブンに礼を言って別れると、ロッキー山脈に向かうことになった。

つづく

 

コメント

  • 田路 斎

    初めまして。カウボーイというとアメリカ合衆国のイメージですが、カナダにも従事する人がいるのですね。「イングランドは狭すぎたのでこっちに来た」というおじいさんの言葉に、いろいろな思いが込められているような気がしました。牛や牧草の管理は、カウボーイの荒っぽいイメージと違って、なかなか繊細な仕事なのだと思いました。興味深いレポートでした。

    • 上原善広

      コメントありがとうございます。カナダの中でもアルバータは肉牛で有名なので、特にカウボーイ文化が残っているのだと思います。のんびりした仕事だと思っていたのですが、当たり前ですが日本でいえば「畜産農家」ですから、大変ですよね。カナダでも日本と同じように、この畜産農家の後継者が少なくなっており、問題になっていると話してくれました。カウボーイも一つの文化なので、これからも残していけたらいいなと思いながらレポートしました。

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