何もないのがよいところ カムループス

カナダ - 150年 街道をゆく

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何もないのがよいところ カムループス

ブリティッシュ・コロンビア州に入り、その入口の町カムループスにやってきた。

カムループスはもともと先住民たちが住んでいて、二つの川の合流地点にあたり、交易所としてにぎわった。その後はバンクーバーからロッキーなどへ行くときの中継点として有名だが、実際には見所も沢山ある。

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↑カムループス産のブドウをつかったワイン「ハーパーズ・トレイル」。ぶどうもぎのところから、試飲はもちろん、食事のもちこみもできる。カナダでもなかなか見かけない希少ワインだ。

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↑百年前のSL。観光用に週二回程度、運航している。地元の人の参加も多い。この日はあいにくの雨だった。カムループスは雨が少ないことで知られているが、私が訪れた二回とも雨だった。

 

現在、カムループスがお薦めしているツアーが、隔離病棟跡にできた「肝試しツアー」である。数十年前に使われ、数千人が亡くなった隔離病棟が廃墟となり、ちょっとしたゴーストタウンと化しているのだが、そこに残っている建物群はすべて、地下通路でつながっているのだ。これは冬が寒い地域だからということもある。

そこがいま再開発され、地元の学校などで、たとえばハロウィンの時期などに肝試しで使われているのだという。

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↑農場の近くに病院群があり、それぞれ地下道でつながっている。なぜ犬がいるのかと思ったら、ここに住む人の犬だということ。怖すぎる。

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↑ハロウィンに向けて、さまざまな大道具・小道具を製作中。これを病院の地下に置くというが、子供は多分、泣き叫ぶだろう。

私は最初、そこに連れてこられたとき、いったいこれは何なのか、まったくわからなかった。通訳が付いていなかったので、何度説明を受けても、なぜ自分がこのようなゴーストタウンの地下通路に連れてこられたのか、わからなかったのだ。

そこで後日、出会えた通訳に聞いてようやく概要がわかった。私はべつに幽霊などは信じていない方だが、怖がりだ。だからこれには本当に参った。怖いのが好きな人、若い人たちがツアーで来るにはいいかもしれない。一方で、負の歴史でも何でも観光地にしてしまおうというカムループスの人たちのバイタリティには脱帽だった。日本では考えられないだろう。

カムループスには観光資源があまりないので、こうしたことも町おこしとして頑張っているのだが、歴史的なホテルもあるし、どこがどうというわけではないが、私は気に入って二度、ここに立ち寄った。

カムループスに滞在中、私はようやくまともな日本食にありつけた。二ヶ月もカナダを旅していると、さすがの私も日本食が恋しい。さいわいカムループスには「サンビキ(三匹?)」という日本食&食材店があり、私はそこに毎日通って弁当を買っていた。弁当だとチップもいらないし、ホテルで原稿を書いていると食事に困るので、大変に助かるのだ。

それである日、いつものように弁当を買いに行くと、その若大将が「これもどうぞ」と、カルフォルニア・ロールを付けてくれた。3ドルほどのものだが、私が嬉しかった。少し遠慮したのだが、とうとうそれを戴いてしまった。私は三十代までの半分を海外で生活しているが、無料で寿司をいただいたのはさすがに初めてだったのでラッキーだなあと思ったのである。実はカナダの日本食の9割は韓国か中国人オーナーなのだが、この「SANBIKI」は店名からして立派な日本人オーナーである。私は異国で苦労しているであろう、日本人オーナーの好意が素直に嬉しかった。

しかしホテルへの帰り道、自分の姿が店のウィンドウに映って気づいたのだが、髪は伸び放題でぼうぼうだし、Tシャツに自転車用の七分丈のズボンに、サンダルのつっかけスタイルだったので、どうも貧乏旅行者と間違えられたらしい。それに原稿をしているときの私は、一日中誰ともしゃべらないので、日本語もモゴモゴとなって訥弁になってしまう。英語ならさらにひどいことになっているだろう。それでよほど困っているように見えたのだろうと思うと、恥ずかしくなってしまった。しかしこのカムループスの日本食&食材店「SANBIKI」は、弁当も充実しているし安いしうまい。カナダ各地の日本食レストランは、日本人旅行者の減少もあって年々減ってきているので、こうした良い店はできれば残ってほしい。カムループスに来たら、ぜひ「SAMBIKI」に寄ってほしい。

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↑もちろんカナダ料理も充実している。レストラン&ブリュワ―(ビール工場)の「ザ・ノーブル・ピッグ」は、カムループスの地ビール7種類が飲めて、しかも面白い料理を置いてある。上はピックルスの揚げ物、下はヨ―キィ(ヨークシャー・プディング)。これは日本にはないだろう。味はふわふわした味付きパンという感じでおいしい。

 

一方、カムループスではまた、ある一人の日本人の老人に出会った。

彼は一年発起して、四十代になってから公務員を辞め、一家でカナダに移住してきた。それからさまざまな苦労をして30年ほどたつが、生活も何とか成り立ち、また子供たちも成人して独立した。私は縁があってその人と「SANBIKI」で話したのだが、突然、私にこう言うのであった。

「東日本大震災は、アメリカの仕業なのは明確です。なぜ日本人はそうした事実について書かないのですか?」

彼はいわゆる新興宗教の信者であるが、それはべつにしても、この「陰謀説」には驚いた。いや、こうした「陰謀説」自体はトンデモ本などに書かれているので存在は知っていたが、まさかカナダのカムループスで聞かされるとは思っていなかったのである。

彼はそれを本にして、今度自費出版するのだと言った。しかし「本当のことを書くと(米国などに)消されるので、遠回しに指摘するだけにしようと思う」と言った。

話を聞いてみると、彼は一日中、ヒマがあるとユーチューブなどで、そうしたトンデモ・ニュースなどを見続けているのだという。それで私が話題を変えようと思い、「カナダの政治はどうですか」と訊ねてみたのだが、彼は「私たちは永住権をもっているだけで、参政権はありません。だから私はカナダの政治には一切、興味はないんです」と答えるのみだった。

私はしかし、ではなぜこの人はカナダに移住したのだろうと思った。日本ではいろいろな対人ストレスがあり、体調も崩したこともあってカナダに移住してきたと言うのだが、せっかく苦労して家まで買ってカナダに住んでいるのに、彼の眼はいつまでも日本を向いているのだ。日本の政治から、日常にいたるまで、ひたすら日本を追っている。日本のニュースを見るだけでなく、時間ができるとユーチューブを見続け、スカイプで日本の友人たちと陰謀論について議論している。せっかくカナダに住んでいるのに、カナダの政治のことは何も知らないのだ。

いや、しかし、もしかしたら彼の方が自然なのかもしれない。かつての日系人たちも、大志を抱いてカナダに来たが、やはり望郷の念は捨てがたかったという。通信技術の発達により、今ではカナダにいても無料で日本のテレビやニュースを毎日でも見ることができるようになった。だとしたら、かつての日系人が現代にいたとしたら、多くはこの老人のように望郷の念に駆られても、不思議ではないのではないだろうか。

うまくいえないが、私は、人が異国で暮らすということは、思っていたよりもいろいろな難しさがあるのだと思った。彼は家族といても、孤独なのかもしれない。

考えが逡巡して、まとまらなかった。私にはなぜか、この老人が他人事には思えなかったのである。私はもう一人の将来の自分と会ったときのような、奇妙な感覚に捉われていた。

 つづく

 

コメント

  • 坂井 始

    こんにちは。ノンフィクションの方のブログを拝見して、帰国後体調を崩しておられると知りました。こちらのブログの再開も心配していましたが、また続きが読めるようになり喜んでいます。海外旅行をすると、日本人と同じような顔つきの中国人、韓国人によく出会います。そんな時に、表情や仕草で国の違いが分かることもあります。自分では意識していなくても、それが母国の文化、「我が家の味」ということなのでしょう。これからもお体に気をつけてご活躍されることを期待しています。

    • 上原善広

      ありがとうございます。長旅になると、以前は一週間ほどで取れていた疲れが、一、二カ月かかるようになりました。歳ですね! カナダ・ブログもまた更新していきますので、時々のぞいてみてくださいね。

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