オカナガン =世界一美しいワイン産地=オカナガン =世界一美しいワイン産地=

FALL in WESTERN CANADA

絶景 秋の西カナダ

オカナガン 
=世界一美しいワイン産地=

カナダ西部、ブリティッシュコロンビア州の内陸部に位置するオカナガン。この峡谷は「世界一美しいワイン産地」と呼ばれている。

なだらかに下っていくブドウ畑の先にはオカナガン湖が広がっている。対岸に連なる山々は、青く澄んだ空との間で絶妙のコントラストを描き出す。

絶景の中から生まれる極上のワインは今、そのレベルの高さから世界の注目を集め、峡谷は好みのワインを求めて散策するワイン・ツーリズムの人たちが行き交う。

極上のワインを静かにグラスに注ぎ入れると、かぐわしい香りが立ち昇る。ふと目をあげると、世界一の峡谷に包まれていることに改めて気づかされる。ワインを口に含み、贅沢すぎるこの瞬間を存分に味わいたい。絶景のオカナガンから、「心輝く旅」を始めよう。

文:平間俊行/写真:多賀茂里生

01 実りの季節は足早に

この峡谷は太古の昔、氷河が大地を削り取ることで誕生した。南北に細長く伸びるオカナガン湖の左右に連なる山々は、まだ波立つことのない早朝の湖面にその姿をくっきりと映しだしている。

冷え切った空気が比較的あたたかい湖面へと流れ込み、静かに押し黙っていたはずのオカナガン湖から、湯気のような霧が沸き立ち始めた。

オカナガンの秋。湖を取り囲むようにして広がる畑には、世界が注目するワインを生み出すブドウが、今まさに実りの季節を迎えている。

オカナガンの秋は、実りの季節であると同時に、あっという間に冬へと足早に向かっていく、少し儚(はかな)い季節でもある。

だから豊かに実ったブドウは早朝から急いで収穫しなければならない。数日遅れただけで、ブドウが霜におおわれてしまうだろう。

ただし、極上のワインに生まれ変わるブドウを機械で摘むことはしない。人の手でひと房ひと房、丁寧に収穫していくのだ。

だからこの時期、ブドウの収穫を担う人たちは極めて多忙だ。あちこちのワイナリーから呼ばれ、まさに「ひっぱりだこ」なのだ。

たくさんの「手」で摘まれたブドウは大きなケースに集められ、いっぱいになったところで車に乗せられ、ワイナリーへと運ばれていく。

既にワイナリーには大量のブドウが集められていた。ここからいよいよワインづくりの工程へと進んでいくのだ。

破砕されたブドウから放たれた香りが、峡谷を立ち昇っていく。今年もまたオカナガンで、極上のワインづくりが始まった。

02 アナホリフクロウの
ワイナリー

そのワイナリーには「ザ・ソノラ・ルーム」という名のレストランが併設されていた。テラスから見えるのは視界一杯に広がるブドウ畑だ。

厳しい寒さの冬がある一方、ここでは夏の気温が40度にも達する。懸命に生きようとするブドウが生み出してくれるのが、極上の「赤」だ。

オカナガン峡谷南部の地、オリバーを進んでいくと、広大なブドウ畑の中にぽつんとレンガ色の建物が見えてくる。それが「バローイング・オウル・エステイト・ワイナリー(Burrowing Owl Estate Winery)」だ。

「バローイング・オウル」は、日本語なら「アナホリフクロウ」。ワインのラベルにも、穴を掘って暮らすこの不思議なフクロウが描かれている。

絶滅が危惧されるこの小さな鳥を愛してやまないオーナーが、ワイナリーの名前にとった。ワイナリーめぐりの人たちがテイスティングをしながら、次々と好みの「赤」を選び出していく。

旅を終えて家に帰るまでコルクを抜くことができないのは分かっている。しかし、どうやっても待ちきれない。「ザ・ソノラ・ルーム」で早速、地元のオーガニック食材と合わせてみよう。

このワイナリーにはレストランのほかにホテルも併設されている。わずか10室しかない人気の部屋を予約できた人たちの過ごし方を聞くと、スタッフは平然と「何もしないよ」と答えた。それがここでの時間の流れ方なのだ。

太陽のもと、手にはアナホリフクロウの「赤」が注がれたグラスがある。そして、広大なブドウ畑に囲まれながら「何もしない」という過ごし方。この新しいワインの楽しみ方が一番のお土産になる。だから旅は楽しい。ほんの少しだけれど、いつも自分の中の何かが変わった気がするのだ。

03 フルーツの峡谷

オカナガンはフルーツの峡谷でもある。上質のワインで世界的に知られるようになった今でも、果樹栽培は変わらず人々の暮らしを支える産業の1つだ。

だからオカナガンでは行く先々で果物の収穫風景を目にするし、あちこちで果物が売られている。夏は甘酸っぱいベリー類が中心。秋ならリンゴや洋ナシが店頭にズラリと並べられるのだ。

オカナガンの果物に出会いたいなら、幹線道路沿いにあるフルーツ・スタンドがお勧めだ。農家が自分の果樹園で収穫した果物を山のように積み上げ、車で走る人たちを絶えず「誘惑」してくる。

フルーツ・スタンドは見ているだけで楽しい。どれもこれも買って味見をしてみたくなる。ところがとにかく山盛りだし、おいしいと言っても一度にそれほど食べられるものでもない

もちろん、日本にそのまま持って帰ることなどできないから、オカナガンにいる間に食べられるだけ食べるしかない。だからオカナガンで果物に囲まれていると、うれしいだけではない、何とももどかしい気持ちになってくるのだ。

実りの季節は農家にとって、自慢の野菜や果物、ジャムなどを披露できる楽しみな時でもある。オカナガンの中心都市、ケロウナでも、ファーマーズ・マーケットが大にぎわいだ。

実りというのは日本でもカナダでも、なんだか人をワクワクさせるものなのだろう。だからここは、豊かな実りを喜ぶ人たちの笑顔にあふれている。

フルーツ・スタンドもファーマーズ・マーケットも、単にものを売ったり買ったりするだけの場所ではない、ということだろう。実りの喜びを分かち合えるから、見ているだけでも楽しいのだ。オカナガンを旅しながら、ふと、そんなことに気づかされるだろう。

04 ブドウ踏みとフードバンク

オカナガンをめぐる旅では、ケロウナの街がその拠点となる。ケロウナとは先住民の言葉でグリズリーベアのこと。ブドウが実り、ワインづくりが始まるころ、ケロウナの街も徐々に黄色に染まっていく。

太平洋に面したバンクーバーから、飛行機で1時間ほどの距離。車を運転してやってくる人もたくさんいる。リタイアした後はこの街に移り住みたいという人が多いというから、ここはよほど暮らしやすい土地なのだ。

ワインづくりが始まるころ、オカナガンには「ブドウ踏み」を楽しむ人々の笑い声が響きわたる。ワインをつくるにはまず、ブドウをつぶしてジュースにする。だからブドウは古くから、人によって踏まれ続けてきた。

もちろん、今もこの方法を続けているワイナリーもあるけれど、ここでのブドウ踏みはワインづくりの始まりをみんなで喜び合うお祭りのようなもの。みんなで楽しくブドウを踏むこと自体が目的なのだ。

ご高齢のおかあさんも赤ちゃんも靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、列をつくり、自分の順番が来るとブドウで敷き詰められた巨大な樽の中に、そろりそろりと足を入れる。こんな楽しい体験、誰だって笑顔になってしまうのは当然だ。

ブドウ踏みを楽しんだあとは、好みのワインを購入し、芝生の上に並べられたテーブルとイスでワイワイ始める。素敵なレストランで飲むのもいいけれど、太陽の下でグラスを傾けるのもすごくいい。

かつては果樹園だったワイナリーも多い。ここもそうなのだろう、おいしそうなリンゴが実っている。ブドウ踏みについてちょっと補足しておくと、その目的は「フードバンク」でもある。ブドウを踏むには困っている人のために食料を持ち寄らなければならない。ただ騒いでいるわけではないのだ。

実りの季節には、体を真っ赤に染め上げたベニザケが生まれ故郷の川を目指して遡上してくる。産卵のために海から戻ってきたベニザケは、クマたちが冬を越すための食料ともなる。オカナガンで過ごす時間は、すべてが自然のサイクルとともに流れていくように感じられる。

05 フルーツの王国

南北に細長くのびるオカナガン湖は、遠い昔に氷河が大地を削り取ったことによって生まれた。その西岸、ケロウナよりもう少し南に行ったところにサマーランドという小さな街がある。ここもまたワインとフルーツがいっぱいの土地だ。

ジャイアント・ヘッドという小高い山に登ってサマーランドを見下ろすと、ここが本当に自然いっぱいで、実り豊かな土地であることが一目で分かる。

サマーランドに足を運んだら、ぜひとも「サマーランド・スイーツ」というお店をのぞいてみてほしい。収穫したばかりのフレッシュなフルーツからつくったお菓子やジャム、フルーツソースなどが店いっぱいにあふれている。

日本ではあまり馴染みがないけれど、ここでは「フルーツ・レザー」というお菓子を試してほしい。新鮮フルーツをピューレ状にして平らにのばし、乾燥させると名前の通り「果物の革」のようになる。

それを丸く筒のようにしたり、シート状のまま小さく切ったり。リンゴをベースにアプリコット、ストロベリー、ピーチなどと組み合わせているのでいろいろな味が楽しめる。そしてどれもこれも、甘酸っぱいフルーツの味がそのままだ。

「ベリー」と名の付くフルーツだけでもいったい何種類あるのだろうか。だからジャムの種類も数えきれないほどある。お土産にいろいろなジャムを買ったら、自分が味わえないものばかりになってしまうから、配るのを躊躇してしまうかもしれない。

ストロベリーやブルーベリーを丸ごとチョコレートで包み込んだお菓子もあって、見ているだけでもカラフルで楽しくなってくる。ただし、口の中に入れるとやっぱり主役はチョコレートではなく、フルーツだ。

「サマーランド・スイーツ」で最初に作られたのは極めてシンプルなスイーツ、フルーツ・ゼリー・キャンデイなのだという。さらにここには「スリーピング・ジャイアント」というブランドのフルーツワインまである。この土地は、フルーツの味わい方が実にさまざまで、かつ、奥深いことを教えてくれるのだ。

06 ケトルバレー鉄道

かつて、内陸部に位置するオカナガンの物資をバンクーバーの港に輸送するため、ケトルバレー鉄道(KVR)という線路が敷かれていた。もちろん今は廃線になっていて、線路跡の道や岩山を穿ったトンネルなどが残されている。

鉱物資源や果物を港に運ぶという役割をずっと昔に終えたKVRの線路跡は今、「KVRトレイル」の名で整備され、ランニングやサイクリングを楽しむ場として地元の人たちに親しまれている。

このトレイルが賑わうのは、別に週末に限ったことではない。平日だって仕事を終えてから体を動かしたいと、夕方からたくさんの人が車の上に自転車を摘んだりしてやって来る。

ひとり黙々と走る人、家族でサイクリングを楽しむ人、犬といっしょに散策する人、など。かつての線路跡で何をするかは人それぞれだが、共通しているのは、ここでは素晴らしい絶景に囲まれながら静かな時間を過ごせるということだ。

山をぬい、谷を越え、峡谷から遠い海を目指した鉄道だった。だからそのルートは、こんなところにどうやって線路を敷いたのかという場所ばかりだ。それこそKVRトレイルが絶景に包まれている理由なのだろう。

トレイルに生まれ変わったケトルバレー鉄道には、実は線路が残され、今も観光客を乗せた蒸気機関車が走っている区間がある。その乗り場があるのが、あの「サマーランド・スイーツ」のすぐ近くなのだ。

ただし、観光用の列車だから、定期的に運行されているわけではない。「サマーランド・スイーツ」に行ったついでに蒸気機関車を見よう、というわけにはいかないし、実際に蒸気機関車に乗ってみたいなら必ず予約が必要だ。

蒸気機関車を運転したり、乗り場で働いたりしているのは、リタイアした元運転手など、ご高齢の方々。それが、やはり役目を終えたはずの蒸気機関車を動かして、今もオカナガンを訪れた人たちを楽しませている。大きな汽笛がピイーっと鳴り響いた。人も機関車もまだまだ元気いっぱいだ。

  • Facebook
  • Twitter
  • YouTube

SEARCH