イヌクシュクは語る。

イヌクシュクは語る。

お気に入りに追加
イヌクシュクは語る。-イメージ1

石を人型のように積み上げた構造物、イヌクシュク(inuksuk)。
バンクーバーのイングリッシュ湾やウィスラー山頂をはじめ、カナダ各地で目にしたことのある人もいるだろう。そのイヌクシュク、ゴツゴツとした石から成るユニークなオブジェは、接着もしていなければ、装飾や彫刻も施されていない。もちろん、顔が描かれているわけでもない。本当にシンプルに石を積み上げただけのものだ。けれども目の前に立ち、じっと眺めていると、不思議な魅力があり、何か語りかけてくるようにも感じてしまう。

ようこそ、この地へ。
次に進む方向はあっちだよ。
ここから先は安全だよ。

イヌクシュクは語る。-イメージ4

イヌクシュクは、カナダ極北に住む先住民族イヌイットの言葉で「人のような」「人の機能をするもの」という意だ。その役割は「道しるべ」。「両手を延ばした方向が旅のルートを示している」といった説や「足の間から次のイヌクシュクが遠くに見え、それを繰り返し辿っていけば、目的地に着く」という説もある。

また、道しるべのほかにも、イヌクシュクはいくつかの機能を持っていたと言われている。土地にやって来た人を歓迎するためのシンボル、良質の漁場やカリブーを追い込むポイント、川の深さを伝えるポイント、食料庫に通じるポイントなど標識としての機能だ。狩猟や移動で広大な範囲を活動するイヌイットの、重要な情報伝達の役割があったと考えられている。

イヌクシュクの大きさは大小さまざまだ。中には1人や2人では積み上げられない5m以上あるものも存在するが、多数を占めるのは比較的小さいものだ。それは高木のないツンドラの大平原では、発見できる十分な大きさだったのかも知れない。歓迎のしるしや旅のルートを示すような、遠方からでも目立たせる必要があるものは大きく造られていたと言われている。

そんな、古くから共同体として生活していた様子を伺い知ることができるイヌクシュク。私たちがカナダ内でよく目にするのは人型のものだが、その多くここ100年ほどの間に造られたものだ。歴史を辿ると伝統的なイヌクシュクは、手足はなく一本の柱に石を積み上げただけのものが一般的だった。ちなみに、イヌイットが多く暮らすヌナブト準州の旗に描かれているイヌクシュクも、人型にも見えるが、よく見ると一本である。同州には古代のイヌクシュクが数多現存し、バフィン島には約3000年前に造られたものも存在している。イヌクシュクはイヌイット文化の象徴であり、歴史そのもの。古いイヌクシュクは崇拝の対象にもなっている。

長い、長い年月を強風に耐え抜き、何十年、何百年、さらには千年、二千年年と立ち続けているイヌクシュクは、どんな歴史を見てきたのだろう。昔のイヌイットたちは、毎日をどのように生きてきたのだろう。猛吹雪で方向を見失いそうになったり、雪の下が大地か薄い氷か分からなくなったりと、生命の危険や孤独と闘いながらイヌクシュクを見つけた時の思い。長旅の末やっとイヌクシュクに会えた時の安堵感。

イヌイットにとって、イヌクシュクは生と死、神と人とを結びつけるような存在だったのかもしれない。イヌクシュクを前にすると、いろいろな想いが馳せてくる。

ひとつとして同じものが存在しないイヌクシュク。それぞれが違う格好で、それぞれが異なった表情をしている。石にはパワーがあると言われているが、イヌクシュクに出会ったら、静かに眺めてみてはどうだろう。
あなたの人生の道しるべとなる、何かを感じられるかもしれない。

コメント

  • ゆきこ

    イヌクシュカワイイですね。

  • ゆきこ

    イヌクシュクカワイイですね。

  • なお

    イヌイットについてもっと知りたいです。
    カナダの大学でイヌイットのことが勉強できる場所はありますか?

コメントを残す