バンクーバーが幸せな理由

04. Born again

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2010年冬に行われたバンクーバー冬季五輪。その開催に合わせ、市内に先住民料理を提供する1軒のレストランがオープンした。

「サーモン・エン・バノック」。壁に先住民アートが飾られた、こじんまりとした店だ。

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サーモンは、太平洋岸の先住民の生活を支えてきた重要な食材。そしてバノックは先住民の人たちのパンだ。ただし発酵させていないので、普通のパンのようなふんわり感はなく、もっちりとした食感だ。

五輪取材のためバンクーバーにやってきた記者たちにとって、「サーモン・エン・バノック」はサイドストーリーには格好のネタだったのだろう。各国メディアがさかんに店を取り上げることになる。

しかし一方で、店のオーナーであるイネス・クックさんに疑いの目が向けられてしまうことになる。彼女は先住民だと言っているが、嘘なのではないかー。

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イネスさんはニューフォーク(Nuxalk)という部族の出身。しかしイネスさんを疑ったのもまさに同じ部族の人たちだった。

彼女は1歳の時に両親から引き離されて白人の家の養子となった。

やがてエア・カナダの客室乗務員となり、世界各国の文化に触れるうちに自身の文化が「空白」であることに気づき、先住民料理の店を出すことを決めたのだ。

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一方でニューフォークの人たちにとって、イネスさんの記憶は定かではない。そしてある日、使者として部族の1人が来店し、イネスさんへの“質問”を始めたのだそうだ。

「同じ質問でも聞き方によって不愉快なものになる。尋問のように次々と質問されたわ」とイネスさんは振り返る。

自分が知っているすべてのことを語り、心の中に「苦さ」を感じながら席を外してお茶を手に戻ると、ニューフォークから来たその使者はイネスさんに笑顔を向け、両手を広げてこう語りかけたんだそうだ。

「お帰り」

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カナダ政府はかつて、先住民の子どもを親から引き離し、寄宿舎で教育する同化政策を推し進めていた。

政府は既にその過ちを謝罪しているけれど、イネスさんもこの政策に翻弄された1人なのだろう。

五輪の翌年に故郷ニューフォークの集落を訪れ、3日間にわたる盛大な宴会「ポトラッチ」でもてなされ、新しい名前ももらった。

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今振り返ってイネスさんは「すべてが運命的なものだと感じる」と語る。そしてイネスさんはこの体験を「born again」と表現してくれた。

「サーモン・エン・バノック」のスタッフはみんな先住民の人たちだ。耳が聞こえない女性も裏方として活躍していたし、イネスさんがみんなを明るくまとめあげていた。

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店に飾った先住民アーティストの作品も気に入った客に買ってもらうための仕掛け。食材の仕入れもまずは先住民から買う、なければ次に地元のもの、と順番を決めている。

僕の前に出された料理は熟成サーモンや、猪のプロシュート、スモークド・バイソン、サーモンのグリル、バイソン・リブなどなど。

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そして最後に出てきたのはソープベリーという“秘密の植物”を使ったデザートだった。

このベリーを水、砂糖、蜂蜜とともにかき混ぜると泡のようになる。少し苦味があるこの甘さこそ、先住民の人たちが長く受け継いできた味なのだ。

イネスさんは自分の背景にある文化を取り戻し、心から大切にしながら生きているように思う。

白人文化の中で育ち、先住民として他の先住民の力になろうとしているイネスさん。その姿が僕にはひどくバンクーバーらしいように思えてきた。

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サーモン・エン・バノック・ビストロ(Salmon n' Bannock Bistro)
わずか26席の先住民料理の店は、いつも地元の常連や観光客でいっぱい。店名にある伝統的なサーモン料理やバノックだけでなく、BC州の様々な先住民のユニークな料理も提供している。オカナガン産ワインは先住民が経営するワイナリーの希少な逸品。

営業時間
ランチ  月曜日~金曜日11:30~15:00
ディナー 月曜日~木曜日 17:00~21:00
     金曜日~土曜日 17:00~22:00
     日曜日休業

7-1128 West Broadway
TEL 604-568-8971
http://www.salmonandbannock.net/

文・写真:平間俊行

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