バンクーバーが幸せな理由

05. 生活の豊かさとは

お気に入りに追加
05. 生活の豊かさとは-イメージ1

今はブリティッシュ・コロンビア州の州議会議員を務めるサム・サリバン元バンクーバー市長。

移動は電動の車椅子。手や指もあまり自由は効かないけれど、車椅子に取り付けたスマートフォンやタブレットを駆使して次々に仕事をこなしていく。理知的で、訥々とした静かな語り口がとても印象的な人だ。

バンクーバーは「アクセシビリティ」が非常に進んだ街だ。日本でよく耳にする「バリアフリー」は、障害者や高齢者などの“弱者”が対象だ。しかしアクセシビリティはずっと進んでいて、とにかくすべての人が快適な毎日を送れる街づくりを目指すという考え方だ。

05. 生活の豊かさとは-イメージ2

例えば、すべての交差点は歩道の縁石がきれいに削られていて段差がまったくない。だから車椅子の人だけでなく、ベビーカーを押している母親も安心して移動ができる。

スーパーでは当然のように、障害者用の駐車スペースが一番便利なように入り口のすぐ近くにある。

こんなことを書いていると、車椅子の市長がアクセシビリティの推進を前面に掲げて仕事をしたように受け取られるかもしれない。でも、サリバンさんの思いは違う。

05. 生活の豊かさとは-イメージ3

「自分が障害のある市長だからといって、そうした施策を中心にやりたくはなかった。市長がたまたま障害を持っていた、ということ。ほかの施策にも懸命に注力したよ」

スキーの事故で重い障害を負ったのは19歳の時。長い入院生活。将来に絶望して悩み苦しむ日々が続いた。そんな時期を乗り越えたサリバンさんは、障害を持つ身になって改めて気づかされたことがあった。

「段差をなくすとか当時でもアクセシビリティという環境は既にあったけれど、そこには生活の豊かさがなかったんだ」

05. 生活の豊かさとは-イメージ4

障害者だって外出はできる、移動がたやすいといったレベルではなく、障害者も当然のこととして豊かで充実した日々を送ることができるというアクセシビリティ。

そんな思いからサリバンさんは、障害者でもハイキングやヨットなどを楽しめるようにするための財団を設立した。

05. 生活の豊かさとは-イメージ5

「何かのため、誰かのためじゃない。自分がやりたいからと取り組んでいたら、ほかの人の役に立つことになっただけなんだ」

どうやったらイベントに人を集められるか、活動のためのお金を集められるか。財団運営に取り組む中、法律の壁にぶつかる経験をしたことで、政治の世界に足を踏み入れることになった。

市議を経て2006年から2009年までの3年間、市長を務めた。バンクーバー冬期オリンピックを前に落選したものの、2010年3月の開会式に聖火ランナーとして登場。五輪旗を振る車いすのサリバンさんに、会場からは割れんばかりの拍手が送られた。

05. 生活の豊かさとは-イメージ6

市長時代に、新しく作る建物、歩道、公園、駐車場など公共性の高い施設に対して、アクセシビリティを重視した整備基準を設けた。

バンクーバーの自動ドアは「観音開き」で、開けるにはボタンを押す必要があるが、そのボタンは車椅子の人が押しやすい高さに取り付けられている。

05. 生活の豊かさとは-イメージ7

バンクーバーのスカイトレインは、車両とホームの間にすき間も段差も一切ない。大きなすき間があってちょっとドキッとさせられる日本の電車とは大違いだ。

“弱者”のために特別な心配りをするのではなく、どんな人でも等しく、快適な暮らしができるのは当然のこと、というのがアクセシビリティなのだろう。

05. 生活の豊かさとは-イメージ8

サリバンさんが感じたこと、つまり車椅子だとどうして山登りやハイキングやヨットができないのか、我慢しなければならないのかという疑問は、言われてみると本当に当たり前のことなのかもしれない。

サリバンさんは語る。

「市長だった時、ある人から『あなたが市長になったからアクセシビリティの高い街になったんですね』と言われたけれど、それは違う。もともとそうしたカルチャーがあったからこそ、私が市長になれたんだ」

もちろん、それはサリバンさんの言う通りかもしれない。けれど僕は勝手に、この言葉をサリバンさんの「照れ」だと思っておきたい。

文・写真:平間俊行

コメントを残す