マニトバ ― Heart of Canada

05. ここだけの博物館がここにある理由(わけ)

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ウィニペグの中心部、ザ・フォークスには、世界でもここにしかない博物館がある。2014年、カナダで5番目、そして初めて首都オタワ以外にオープンした「国立カナダ人権博物館」がそれだ。

「人権」という壮大なテーマ自体、かなり珍しいけれど、デザインもなかなか個性的だ。いまやウィニペグの新たなランドマークになっている。

正面のガラス張りの壁面は、マニトバ州などカナダ中央部の広大なプレーリーを表現し、その形は平和の象徴である鳩が羽根で博物館を抱くような姿をしている。

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建物の下部には4本のスロープのような構築物があって、この博物館が豊かな歴史を持つザ・フォークスに根をはる木のようでありたい、との思いが込められている。

そして後ろ側、方角で言えば北側はうす茶色のつくりで、カナダの雄大な“山々”をイメージしている。展示品は太陽光から保護するため、すべて建物の北側、“山々”の方に置かれているそうだ。

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さて、「人権」というとなかなか距離感が難しいテーマで、僕なんかは見学前に博物館のレストランでケールとビーツのサラダとか、サーモンのグリルとかを頬張りながら、「うーむ、カナダ人権博物館をどう受け止めたらいいのだろうか」などと考え込んでしまった。まあ、ついでにビールも飲んでしまったけれど。

見学を終えてみれば実にすばらしい展示だったと思うし、いろいろ考えさせられたけど、「人権」をめぐっては人によって立場によって、見え方が全く違ってしまうので、意見の違いや対立が先鋭化しがちだ。だから発言すること自体、神経を使う。

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そもそもオープンにあたって、この博物館では何をどのように展示するか、多くの議論が交わされたそうだし、今もその議論は続いているという。

なにしろナチスのホロコーストや黒人差別、カナダの先住民やメイティ、日本がらみでは従軍慰安婦の問題など、とにかく世界中の「人権」を扱っている。そのすべてに「当事者」がいるのだから意見が対立しないはずがない。

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でも、こうしたことは博物館側も分かっていて、この人権博物館とは、数々の展示をもとに「人権とは何かを考える場所」なのだと説明してくれた。

だから僕は、自分が見た数々の展示ではなく、博物館の内部にある「考えるための空間」を紹介しておきたいと思う。

例えばこのスロープ。建物中央の塔「タワー・オブ・ホープ」の真下、2階から7階までずっとこの坂道が設置されている。

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「アラバスター」というスペインから取り寄せた石が使われていて、なかば透き通った白い石を光が通過することで、不思議と落ち着ける空間を作り出している。

各階の展示を見終わるたびに、ここを歩きながら、見たばかりの展示を自分自身がどう受け止めるかを「考えるための空間」となっているのだ。

あるいはこの「Garden of Contemplation」。「沈思の庭」とでも訳せばいいのだろうか。内モンゴルから運ばれてきた600トンもの「バサルト」という火山岩が並べられていて、そこに腰かけて休憩することができる。

座っている人、立っている人、それぞれが好きなスタイルで、ここまで見てきた展示についてもう一度、思いを巡らせることができるスペースなのだ。

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そして僕が唯一、カナダ人権博物館の展示の中で紹介しておきたいものがある。それがこの博物館で最も巨大な「トレース」という作品だ。

建物のまさに真下、「レッド川」が運んできたザ・フォークスの赤い粘土を使い、地元の人たちが「握りあと」をつけて10000個のピースを作り上げた。

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ウィニペグ、そしてザ・フォークスは、古くからたくさんの先住民、そしてメイティやスコットランド人などが集まる場所だった。様々な人がいたからこそ、人と人の軋轢もまた生まれたのだろう。

だからここにはペミカンをめぐる対立や、ルイ・リエルらの蜂起など、考えるべき過去がたくさんある。

赤い粘土の10000個のピースは、ウィニペグで暮らす人たちが悲しい過去に正面から向き合おうとする決意を示しているようだ。そんな“Heart of Canada”だからこそ、ここにしかない博物館がここにあるべきだ、というのが僕の正直な感想だ。

文・写真:平間俊行

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