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イヌイットとつながりたい 「石の島」の物語

ジェームズ・ヒューストンの墓

ヌナブト準州
ジミーさんは街で一番美しい場所に案内してくれた

ジミーさんは街で一番美しい場所に案内してくれた

ケープ・ドーセットにいられる時間も残り少なくなってきた。そしてジミーさんは、ケープ・ドーセットで一番美しいという場所に案内してくれた。

とにかくジミーさんという人は、他人の面倒をみないと気が済まない性質らしい。ありがたいことだ。

石ばかりの丘に綿毛のような植物が生えていた

石ばかりの丘に綿毛のような植物が生えていた

連れて行ってくれたのは海岸近くの丘。そしてやっぱり、ここは「石の島」であることを改めて感じさせられた。ゴロゴロ、ゴロゴロと石が転がり、そこにホワリと白い綿毛のようなものが咲いていた。木も草も生えない地に、わずかに生える綿毛。何があるわけでもない。しかし、本当に美しい場所だと思う。

いちいち寝そべって遺跡の解説をしてくれるジミーさん

いちいち寝そべって遺跡の解説をしてくれるジミーさん

イヌイットは彫刻に使うあのソープ・ストーンで作った皿をアザラシの脂で満たし、そこにこうした植物を撚ったものを「芯」にして火を灯し、照明や暖房としてきた。何から何まで、自然の中から調達したものばかり。自然に対する畏敬や感謝の念が僕らと違っているのはしごく当たり前だ。だからイヌイット・アートが生み出されるのだ。

この丘にも大小、さまざまな石の住居跡が点在していた。それをいちいち案内し、すべての住居跡で「こうして寝ていたんだ」とジミーさんは説明してくれた。まったくもってお茶目な人だ。

さらにぎゅっと小さくなって寝そべってくれた

さらにぎゅっと小さくなって寝そべってくれた

小さな住居跡では、さらにぎゅっと小さくなって寝そべって見せてくれた。こんな定住生活をしていたイヌイットは、やがて移動しながらの狩猟生活を始め、再びケープ・ドーセットなどでの定住生活に戻った。そして、生きる術を失った。

イヌイットのエルダーが言っていたように、あの左利きの「サオミック」、ジェームズ・ヒューストンがやってきてすべてが変わり始めた。エルダーは「サオミック」を父と呼び、ジミーさんはテリー・ライアンらと同様、イヌイット・アートを続けていくため「生協」の運営に尽力してきた。

イヌイット版画には和紙が使われている

イヌイット版画には和紙が使われている

イヌイットを困窮させたのも「人」なら、アートという方法で助けたのもまた「人」だ。ケープ・ドーセットの版画には日本の和紙が使われている。2002年には高知県仁淀川町の手漉き和紙職人の一家がここを訪れ、その後ケープ・ドーセットからも版画アーティストが仁淀川町を訪問した。

その一家の娘さんは、イヌイットとの出会いを経て、躊躇していた和紙職人の道を歩む決意をしたと聞いた。気が遠くなるぐらい距離は遠いけれど、人と人はつながりあっている。

彫刻を製作するトゥーヌー・シャーキーさん

彫刻を製作するトゥーヌー・シャーキーさん

僕は、ケープ・ドーセットを代表する彫刻家、トゥーヌー・シャーキーさんに話を聞くことができた。トゥーヌーさんは言う。

「今までずっと、何が書いてあるのか分からない契約書にサインしてきた。説明を求めても教えてもらえない。自分が何にサインしているのか、ちゃんと知りたいんだ」。

ここに「サオミック」の遺灰がまかれた

ここに「サオミック」の遺灰がまかれた

イヌイット・アートが成功をおさめるにつれ、それに便乗しようという輩(やから)がたくさん現れたのだろう。

「教えてくれれば、自分たちは選択できる。もう中身の分からない契約書にはサインしたくないんだ」。今まで写真を撮られたりインタビューされたりするのは苦手だったが、これからは機会があれば応じていきたいという。

「もっと自分たちを知ってもらう努力をしなければならない」と語るトゥーヌーさん。僕らはその思いを知り、感じ、つながることができるはずだ。

ケープ・ドーセットで一番美しい場所

ケープ・ドーセットで一番美しい場所

ジェームズ・ヒューストンは2005年4月、アメリカのコネチカット州で84年の生涯を閉じた。その遺灰の半分はケープ・ドーセットに運ばれ、今立っている場所、この一番美しい場所に捲かれたことをジミーさんは教えてくれた。ケノジュアクさんら大勢のイヌイットが集まって「サオミック」を送り出したそうだ。

夕暮れを迎え、ケープ・ドーセットの小さな湾が赤く染められてきた。本当にきれな光景だ。ジミーさんの言う通り、この丘がケープ・ドーセットで一番美しい場所なのは間違いない。なにしろここは「サオミック」が眠る場所なのだから。

文・写真:平間俊行

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