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絶景 絶景

風と波に揺られながら、夏のオーロラに包まれる

ロッジでの6日間が始まった

ノースウェスト準州

「ブラッチフォードレイク・ロッジ」はイエローナイフから東南に100キロほど離れたブラッチフォード湖畔にある。ロッジへの移動手段は「Tindi Air」のブッシュ・プレーン(水上飛行機)のみで、一旦来てしまえば次の便を待たなければ街に戻ることができない。もちろん買い物をするような店もなく、スタッフと宿泊者だけがここで時間を共有することになる。

その日の同乗者は、ロッジでのミーティングのために集まったスタッフ以外ではカナダ人カップルだけだとわかった。

「いい人たちだったらいいな」。もしかしたら向こうも同じように考えていたかもしれない。もっとも独り旅の男に大して関心はなかったかもしれないが。

軽快に波を蹴ったプロベラ機は、湖沼と岩が広がる平原の上を30分ほど飛び、やがてロッジといくつかのキャビンがたたずむブラッチフォード湖に着水した。

着岸した桟橋に降りて、しばし深呼吸する。暖かい日差しの中、風がスーッと身体を撫でていく。湖を取り囲む木々の葉はところどころ黄色へと変わり始めており、夏と秋の境目であることがわかる。飛行機がエンジンを止めると、打ち寄せる波音だけの世界になった。

さぁ、今日から6日間、どんなオーロラが見られるだろうか。

桟橋には10人ほどの男女が待ち構えていた。ロッジで働くスタッフたちで、宿泊者の荷物や食料などを手際よくバケツリレーで運び出していく。

スタッフ、とはいってもほとんどがボランティアで、元々は彼らも旅行者だと教えられた。旅の途中でロッジのことを知り、働きながら1,2か月をロッジで過ごしていくのだという。この時はカナダ国内のほか、ヨーロッパやアジア、南半球からもボランティアが集まって来ていた。

到着してまず、ボランティアを束ねるカナダ人のアンソニーとベルギー人のキャロリンから滞在についてのレクチャーを受ける。二人はドミニカを旅行中に知り合ったカップルで、この時はマネージャー補佐のような仕事を任されていた。

「メインのロッジは1階が広い食堂で2階がゲストルーム。シャワーは共用でトイレはボットン式だけど清潔だ」
「朝食は8時、ランチは12時、夕食は6時。ビュッフェ形式でお代わりは自由よ」
「日中は釣りやカヌー、カヤック、ハイキングなどのツアーを催行している。気軽に参加してくれ」
「ジャグジーや簡易サウナはいつでも利用してちょうだい」
「ネットは繋がるけど通信量が増える動画鑑賞はダメ」
「何かあったら何でも聞いてほしい。自由に、リラックスして過ごして」

交互に話す二人を見ながら、なんだか先に泊まっていた旅行者からアドバイスを受けているみたいな気分になってきた。若いときに海外の安宿で過ごした時のような連帯感。客と従業員の関係よりもフランクで、これはこれでいい感じではないか。

何でも聞いてくれ、というので、「今夜はオーロラ出そう?」と問うてみた。いつも聞かれるであろうこの質問に、二人は「Nobody knows.(誰にもわからない)」とだけ答えた。

そう、このロッジに滞在中、いつ誰に尋ねても、オーロラについては誰もが慎重で、確信を持って答えてくれた人は、ついにいなかったのである。

文・写真:多賀茂里生

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