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絶景 絶景

風と波に揺られながら、夏のオーロラに包まれる

「wilderness」のロッジに集まる人たち

ノースウェスト準州

オーロラが出た後の朝は、皆、ニコニコ笑顔で話しかけてくる。どこか得意げで、「ほら、言った通りだろう!」と言わんばかりだ。

滞在3日目ともなるとスタッフやボランティアの名前も覚え、会話も交わすようになっていた。なにせ外界と切り離された場所に一緒に過ごしているのだ。ひとり気難しい顔をしていた日本人がとうとうオーロラを見たとあって、その日からより打ち解けた感じになった(ように思う)。

もしオーロラを見るためだけにここへ来たとしたら、目的を果たした後はダラダラとつまらなく過ごしていたかもしれない。

実は今回の訪問では、シェフのジャニスに再会したいという、もうひとつの目的があった。彼女が作る食事はバラエティに富んでいて美味しく、毎回、食事の時間が楽しみだったのだ。

東洋系の顔立ちをしたジャニスは、厨房にいない時間は滅多に姿を見せず、たまに誰もいないラウンジでヨガをしているようなミステリアスな女性だった。前回はろくに話をせず、ちょっと後悔していたので、是非もう一度会いたいと思っていたのだ。

そしてこの夏も彼女はロッジで働いていた。

久しぶりに会う彼女は、変わらずミステリアスな雰囲気をまとっていたが、3年前のことはあまり覚えていない様子だった。うーん、残念。

「人々がやって来て、そして去って行く。私はただここにいる」。仙人みたいなことを言いながらも、悪いと思ったのだろうか。今回の滞在中はよく声を掛けてくれ、会えばやさしく微笑んでくれるのだった。

こんな感じでスタッフ・ボランティアとゲストの距離感が近いから、毎日が面白く過ごせたのだと思う。

フランス人のフロはモーターボートの操縦が得意で、乗せてもらうといつも湖をかっ飛ばしてくれた。ドイツ人のマルセルは釣りの名人で、連れて行ってもらうとランチ時間も忘れて夢中になっていた。ハイキングのガイドをしてくれたオーストラリア人のジェイデンはとにかく働き者で、「何かしていないと落ち着かない」と朝から晩までいつも動き回っている。

その他にもコリーン、ベン、マーティン、アロン、キャメロン、ティボ、ディミトロ・・・。今でも彼らの名前が思い浮かぶくらい、気持ちの良い若者たちがここには集まってきていた。

オーナーのマイクに、何故このロッジを作ったのか?と聞いてみた。
「若いときに世界中を旅したとき、いろいろな国の人に歓迎されたのがとても嬉しかったから」と彼は話す。だから同じように人を幸せにするロッジを作りたかったのだ、という。

先住民の土地を借り、少しずつ手を入れてきた。いずれはトイレ・シャワーを備えた個室がある宿泊棟や、ソーラー発電設備も考えているのだそうだ。

そうやってゲストが居心地良く過ごせるロッジを作っていくが、「wilderness」からは離れないようにしたい、とも彼は話した。「wilderness(原野)」=あるがままの環境、というのだろうか。

ボランティアたちもそんな環境に魅力を感じて、旅の途中にやってくるのだろう。
人里離れたロッジで働きながら特別な時間を過ごし、やがてここを離れていく。

その日はイエローナイフから飛んでくるブッシュ・プレーンで、ボランティアの一人がロッジを去る日だった。

香港人のアスタは、ここに来たばかりの頃は誰とも話ができなかったという。やがて同じボランティアのフロと仲が良くなり、親友と思えるほどになった時には、誰からも可愛がられるマスコットのような存在になっていた。

朝から落ち着かない様子の彼女は、「寂しい、寂しいと思っていたのにねぇ」と笑いながら、仲間からもらった寄せ書きを「卒業証書」と呼んで、カバンに入れた。

ブッシュ・プレーンが桟橋に着くと、彼女も最後の荷物運びに加わる。その中には彼女の荷物もある。

そして、いよいよ彼女が飛行機に乗ろうとした時、ボランティア全員が彼女を取り囲み、両手を広げて重なり合った。肩を抱きながら何重もの別れのハグ。中心には涙を流すアスタがいる。釣り名人のマルセロも泣いていた。

皆で別れを惜しむ様子は美しく、とても愛おしい時間に感じられた。

ブッシュ・プレーンが動き出し、窓から覗く彼女の顔が遠ざかっていく。飛び立った飛行機のエンジン音が聞こえなくなるまで、皆、ずっと空を見上げていた。

「あなたがここを離れるとき、どうしてほしい?」コリーンが聞いてきた。

そう言われて、少し気持ちがざわつく。

そう、ここを離れる日が近づいてきていたのだ。

文・写真:多賀茂里生

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