STORY

自然体験 自然体験

風と波に揺られながら、夏のオーロラに包まれる

無人島で一泊

ノースウェスト準州

ブラッチフォードレイク・ロッジから湖を眺めると、数百メートル先にいくつかの小さな島が見える。

そのうちの一つ「セカンド・アイランド」、別名「ロイヤル・アイランド」は直径50メートルほどの、簡素な小屋がひとつ建っているだけの島だ。ボートやカヌーで湖の奥に行くときの道しるべにもなっていた。

2011年にイギリス王室のウィリアム王子とキャサリン妃がブラッチフォードレイクを訪問し、この島で時間を過ごしたのだそうだ。口の悪いフロは「その直後に夫妻に王子が生まれたのよね」とニヤッとしながら話す。実際には、ジョージ王子が生まれたのは2013年なのでそれはないのだが、フランス人はやはりイギリス人に何か言いたくて仕方がないらしい。

その夜はより湖を広く見渡せるこの島でオーロラを待つことにした。コーヒーを入れたポットとビスケット、毛布をボートに積んで、夕食後にフロとコリーンに送ってもらう。

10分もしないで夕暮れ迫る島に到着すると、ロッジが見える岸辺は絶え間なく波が打ち寄せているのに、反対側はしんと静まりかえっていた。島を一周しても10分とかからない。ロッジに明かりが灯るのが見えた。

「明日の朝、私たちが迎えに来なかったらどうする?」フロとコリーンが不気味なことを言いながら、何かあったら連絡してね、とトランシーバーを渡してきた。たまに熊が泳いで移動するのが目撃されているらしく、安全対策のためとのことだった。たがスイッチを入れても雑音しか聞こえない。島のあちこちでトランシーバーをかざしていたフロが戻ってきて、「夜になればきっときれいに聞こえるはずよ」と言った。

そして2人は手際よくたき火をおこし、ボートに乗って戻っていった。去って行く彼女がどこか薄ら笑いを浮かべているように見えたのは気のせいだろうか。

モーターボートの音が聞こえなくなると、風と打ち寄せる波、そしてたき火がパチパチと鳴る音だけの世界になった。

いつも聞こえるルーン(アビ)の鳴き声も今夜は聞こえない。雲が厚い空には光が漏れてくる隙間もなかった。

する事も話す相手もいないから、じっと火を見る。そういえば日本では自由にたき火をすることもできないなぁ。たき火に薪をくべるだけでもウキウキとしてしまう。

ときおり、持ってきたマシュマロを焼いてビスケットに挟んで食べてみる。キャンプファイアーの定番、カナダ人が大好きな「スモア」だ。本当はチョコレートも挟むのだが、とにかく甘い。

コーヒーを飲みながら天候が変わるのを待った。ひとりでいる寂しさも、オーロラが出ない焦りもなく、ただ、贅沢な時間を過ごしているなぁと満足感に浸りながら。

小屋で仮眠をしながら、たまに外に出て空を見たが、その夜は星が現れることはなく、オーロラが出る気配もまったくなかった。そして、雨がポツポツと降ってきた。

早朝、予定より早くフロがモーターボートで迎えに来た。

「あら無事だったのね」とニヤッと笑う。

「いやぁ、凄いオーロラが出たよ。熊も泳いできたし」

思いっきりの笑顔でこちらも答えた。

文・写真:多賀茂里生

string(0) ""

コメントを残す

  • Facebook
  • Twitter
  • YouTube

SEARCH