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クリスマス背景の意味 忘れども 戸外に輝く愛の精神

アルバータ州

カナダのクリスマス

冬が長く寒暖の差が厳しいカナダに於いてクリスマスは人々の心を和ませ、寒さを楽しむ、無くてはならぬ行事である。カナダでさえも世界各国の移民のモザイク化に伴いクリスマスの宗教色が薄れてきている故、現在孫達にクリスマスの本当の意味を教える必要性を感じる。息子や娘が幼い頃公立の小学校でクリスマスの意味を習い、賛美歌を歌うのが常であったが、孫の世代に入り必修教育でキリスト教を教える事が避けられ、クリスマスは単なる伝統的なお祭りと化した。背景の意味 を語ることなくあらゆる宗教を信じる人々が、陽が短くなり不安に感じる12月にクリスマスを楽しむのは別に悲しむべきことでは無い。

コロナの猛り狂うこの冬は特にハロウィーンが終わるや否やクリスマスの飾り付けが11月の半ばから始まった。家の戸外の至る所に個人のユニークな趣味に従い豆電球の飾りが廻らされる。電気代がかかるのになどと心配するのはおそらく私ぐらいであろう。11月から4月まで半年近く冬とみなされるアルバータ州はオイルの不況、COVID-19と引き続く経済成長の止まる中、人々が如何にクリスマスを楽しみにしているかが戸外のイルミネーションだけでうかがわれる。

二十数年前に娘が日本外務省のJETプログラムで国際交流員として日本に行った。四国の太平洋岸沿いの小さな活気のある高知県芸西村に3年ほど滞在した。最初の年に若かりし娘はカナダから持って行った戸外用の豆電球を屋根に張り巡らした。二十数年前と言えば日本では都会以外にはイルミネーションは見かけない時代であった。村の住民が毎晩、娘の借りていた二階建ての小さな家にカナダのクリスマスを見にきたと言う。

私の住むカルガリーは例外なく11月頃から雪が降る。降っては溶け降っては溶けるので、原則としてあまり積もらない。それに乾燥している土地で、湿気の多いトロントから引っ越した時にカルガリーでは「雪は箒で掃くもの」と聞いていた。本当に雪はふわふわとして手のひらや窓に落ちると雪の結晶がはっきり見えてこの上なく美しいと思ったものだ。雪をつかんでフッと吹くと雪の結晶が飛び散る。話が逸れたが、クリスマス前には根雪となり、ホワイトクリスマスは殆ど保障されている。そこに各々の家が趣向を凝らした何百何十というイルミネーションが輝くのであるからその美しさを想像していただきたい。

今年はコロナの影響で、人々は戸外生活を楽しんでいる。自分の家の庭や玄関にある木や灌木、屋根の縁などを電球で飾るのは例年の習慣であるが、今年は我がコミュニティのFacebookと掲示板に「Adopt a Tree」という表示が現れた。コミュニティ内の自然の中に生えている木々を一本養子にし、自分の費用持ちで木を飾りつけようという試みである。COVID-19に辟易した人々を元気付けるアイディアである。散歩道のあちこちに其々の好みで飾りが現れた。自粛でエネルギーが有り余っている家族や若者、子供達が喜んで戸外活動に参加した結果であろう。

もう一つの試みは「Toy Mountain」恵まれない子らにおもちゃを集めて、クリスマス前に、救世軍や、ホームレスの施設などに届けようという張り紙が出され、これがコミュニティのFacebookに現れるや否や公会堂のベランダに山の様な子供のおもちゃが届けられた。 クリスマスの本当の意味を忘れてもカナダ人はキリスト教の精神、「汝の隣人を愛せ」がしっかりと身に着いている。慈善事業というより、当然のこととして僅かな寄付金などの為にポ ケットのお財布に手が届くのである。

これは昨年のクリスマスの風景であるが、北西領土(ノースウエスト準州)に住む孫がクリスマスの時期に我が家に来た。大きなショッピングセンターに行くと必ず、物乞いをする人がいる。孫のハドソンのお小遣いは一週間に年齢の数の6ドルである。カルガリーに来る時は貯めたお小遣いをたっぷりお財布に入れて持ち歩く。6歳のハドソンの小さな手が自分のポケットに届く。お財布から20ドル出して、身体の不自由な女性に差し出す。女性はこんなに幼い子から20ドルものお金は貰えないと両親を探して、訴える。「でも僕が貯めたお金だから」とハドソンは両親を見上げる。両親は頷く。女性は感動して幼子を抱きしめる。カナダでは珍しい風景では無い。教会にも行かない子が如何にしてこのような精神を身につけるかが不思議である。

勿論今年はこの様な風景は見られない。息子夫婦も規律を守る良き民として、クリスマスにカ ルガリーに来るのは諦めた。北西領土にはごく僅かしかコロナウィルスは存在しない。 都会ではクリスマスシーズン中、両親や年老いた祖父母が皆ひっそりとクリスマスを過ごす姿 が目に浮かぶ。私もその一人である。子供達の訪問を期待して、暖炉の棚から手作りのストッキングを吊した。サンタクロースが、子供達が寝ている間にクリスマスの前夜にストッキングにプレゼントを詰める。子供達はお皿にトナカイの為の人参、サンタさんのためのクリスマスクッキーを載せてストッキングの下に置く。翌朝子供達は人参の尻尾とクッキーの屑しか残っていないお皿を見て、サンタとトナカイの到来を確かめる。12歳前後の子供ですら、妹や弟の夢を壊さぬよう、信じている振りをする。思いやりの気持ちがクリスマスの精神に現れる。

今年はストッキングも空のままで、孫らの狂喜する声もきけない。ショッピングセンターもクリスマスの賑わいはなく、アマゾンの配達車が忙しそうに住宅街に行き交う。夕闇が近づくと白く飛び交う雪の結晶が、樅木を飾る色とりどりのイルミネーションに映し出され、クリスマス精神を呼び起こすのである。忘れられたキリスト教精神が疲れ果てた人々の心に甦り、なんの抵抗もなく「汝の隣人を愛せ」という聖句がカナダの人々の脳裏をよぎる。

今宵も住宅街のイルミネーションが雪に映えてこよなく美しい。聖歌隊がコミュニティを巡ることも無く、公園で降誕劇を演ずる事もないCOVID-19のクリスマスであるが、人々のクリスマス精神は宗教如何に遮られることなく心の中に明々と宿るのである。北国カナダのクリスマス風景である。
Merry Christmas!

ライリー洋子

成城大学卒業、大学院を修了して、カナダに渡る。
オタワ大学卒業。オタワ、モントリオール、トロントを経てカルガリーに永住。
カルガリー大学にて日本文化、文明、日本映画、日本語など日本研究の土台を同僚と共に設立。
2005年モントリオールブルテン歌壇に属し、以後詠草を続ける。
井上靖、「風林火山」英語翻訳、「ファウスト」400年際に「日本の漫画家の視点からの『ファウスト』」など数々のエッセイを記す。
2012年カルガリー大学隠退 2020 旭日単光賞 叙勲
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コメント

  • pon

    カナダ人や海外の人がクリスマスを大切にする理由がわかりました♪

  • リキニウス

    日本のクリスマスとはちょっぴり違ったカナダのクリスマスの雰囲気がじんわり伝わってきて、心温まりました。カナダの人々のようにはっきりとクリスマス精神があるわけではないものの、日本人もうっすらとその精神を感じているのかもな、とも思いました。クリスマスの日に家族に会いたくなる、友人に特別な贈り物をしたくなる、恋がしたくなる、など、私たちの「クリスマスあるある」は、「汝の隣人を愛せ」というカナダのクリスマス精神と通じるものがあるのではないでしょうか。ひょっとしたらこのクリスマス精神は、世界共通なのかもしれないですね。

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