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寒空に歓声上がる子供らの パック入りたる湖上のネット

アルバータ州

寒空に 歓声上がる 子供らの パック入りたる 湖上のネット

カナダとアイスホッケーは日本と野球と同様、切っても切れぬ間柄である。氷が張るのは寒い土地柄と言う事もあろうが、事実ホッケーの発祥地はイギリスとも言われ る。しかし、ホッケーの室内競技場が出来たのはカナダが初めと言われるのは一寸矛盾を感じる。多分戸外は寒すぎるせいかもしれない。

子供達は歩き始めると同時に、冬にはスケートを始める。お年寄りの歩行器のような器具を使って滑るので、転ぶ危険も恐怖もなくごく自然にスケートを楽しむ。もちろん全部の子供が氷上歩行器を持っているわけではない。兄弟達と又は両親に手を引かれて技を身に付ける子供も多くあろう。男の子は殊に3、4歳からホッケーのチームに属し滑ることのみならず、ルール、スポーツマンシップを学ぶ。コーチは子供らの父親がボランティアで参加する。幼子がホッケーをするのを見るのは可愛くもあり、滑稽でもある。規則がきちんと理解できる訳でも無く、相手のゴールに入れるべきパックをうっかり自分のゴール入れてしまうこともある。疲れたら転がる子もいるし、バランスが未だ良く取れないので、二、三歩で転ぶこと往々にしてある。しかし中には、3歳ぐらいから、スピードと技を身につけるというか生まれつきの天才児もいる。こんな子らが将来ウェイン・グレツキーの様なスーパースターとなるのであろう。

アイスホッケーの用具は全部揃えるとなるとかなり高くつく。だが、田舎であろうと都会であろうと、毎年育つ子らのための用具交換日があり、小さくなった用具をアリーナに持っていって、大きな用具と交換する。一年そこらで成長するので、新品でも、古くても、丁度良ければ 子供達は当然の事として受け入れる。もちろん高校生となると話は違ってくる。高校生でホッ ケーを続ける様な子供はプロになるべく練習に打ち込む。しかし二、三人男の子ばかりの家庭では大変喜ばれる用具交換日である。あっちこっち試合の都合で幼い頃から旅をしたり、アリーナを借りたりする費用もあるので、前に言ったように比較的高くつくスポーツであるが、貧富を問わず誰でも子供時代に一度は出来る様に工夫されている。親達はカジノのような所で子供の為に資金集めのボランティアもする。私もタバコが現在の様に禁じられていない頃、タバコの煙のもうもうと立つビンゴ会場で他の母親達と資金集めに参加したことがある。男親はコーチ、女親は資金集めというところであろう。他の町や村のチームとの試合が多いので、宿料や、食事の費用などにこれらの資金は当てられる。

家族全部で毎週子供の試合を見に行くこともあるし、練習の日は出張などのある父親もいるので、母親が二、三の近所の子らのアリーナへの送り迎えを引き受ける。中学生ぐらいになるとその汗臭いこと耐え難い。サッカーや野球の様に真夏のスポーツは車の窓が開けられるが、マイナス10~20度となると、いくら臭くとも窓を開けるわけには行かない。

子供達が小学校上級に達する頃にはプロのアイスホッケーに興味を示し始める。子供達が、息も止まるような swear words (キリストや神の名をみだりに使う)や、four letter words (四文字からなる汚い言葉)を覚えるのも、ホッケーチームであり、NHLの試合のテレビ放送でもある。家庭にまでそのような言葉を持ち込む子供は少ないが、仲間同士では珍しいことではない。しかし母親の前では極力その様な言葉を避ける傾向がある。

私の住むカルガリーにはFlamesと呼ばれる北米のプロチーム NHL(National Hockey Leagues)がある。アルバータ州には二つのプロチームがあり、一つはエドモントンに属する。かの有名なウェイン グレツキーで知られたチームである。子供のある親達は子供を御取りにホッケーの試合のシーズンチケットを断腸の思いで買い求 める。かなり値が張るので、若い両親には重荷になる。シーズンチケットを数人の友人と分け合うのが中流家庭ではノームである。それでも1シーズンに10回ぐらいは行かれる。どうしても片親が同伴せねばならないので、夫が出張すると妻が行くことになる。カルガリーは観客の殆どがFlamesのシャツを着て参加する。会場はシャツの色で sea of read(赤い海)と化す。エドモントンや他の州から来ている人はそれぞれのシャツで直ぐわかる。エドモントンとカル ガリーは同州でありながら氷上の敵と化す。

ちなみにカナダは7チーム、アメリカは24チーム、計31チームある。多くの卓越した選手はカナダ出身であるが、アメリカは高く払うのと弱いチームが優れた選手を手に入れるルールもあるので、カナダの選手がアメリカのチームに流れる例が多い。ウェイン・グレツキー、マリオ・レミュー、シンディー・クロズビーなどが良い例である。ルールを覚えるとゲーム自体はスピード感があり、非常に面白く、興奮し、没頭できる。私も一時は夢中になった事がある。数回子供とプロの試合に同伴したが、試合もさながら、休憩時間にチーズにハラピニョの入ったとてつもなく辛いソースのかかったナッチョウを売店で買って食べるのも目的であった。

貧富の差が当然現れるのはNHL指定のアリーナでの席である。NHLはプロのホッケーで、選ばれた選手の収入は貢献度により何億ドルもの高級である。会社が得意の取引先を招待する席、子供が興味を示す頃、カルガリーはオイル産業の盛んな時 期であったので、大富豪などの席は駐車場と同じ階にあり、休憩時間には席の後ろにある高級なバッフェで、飲んだり食べたりできる。私も夫の会社や友人に招待されて何度か上等席を経験したことがある。私は飲めないので、そういう席に連れて行っても無駄だと夫はあからさまに言ったことがある。でも私は雰囲気が好きだ。たまには大富豪の気持ちになれるのも悪いものではない。

一番安い席はNose Bleedと呼ばれる席で、息切れがするほどの階段を上り詰めた席で、カルガ リーは海抜が1000キロもある上に天井にくっつきそうな場所にあるので、鼻血が出そうになるという意味でこの名を持つ。カルガリーのアリーナは柱が無くどこに居てもよく見えるので、本当に好きな人はそのような席でも満足して大声を上げて応援する。子供達は目も眩むような席の方が返って面白く、得意でもある。

ホッケー好きで時間のある父親は裏庭に子供の為のホッケーリンクを作るか、湖岸にある家は 張り詰めた氷をならしたり、氷上の雪をかいてリンクをつくる。湖水のあるコミュニティーでは、管理人がリンクを作るのが常である。 週末には普段多くの子らがスケートを楽しんでいる。COVID-19の影響で、今シーズンは裏庭のプライベートのリンク以外はホッケーリンクの作成は禁止されている。2メートルの間隔が試合中に意識して取れないからである。公共のスピードスケート用のリンクの巾を広めて、ホッ ケーファンはステッキの扱いなどを個人で練習している姿を見受ける。NHLはプロの選手が観客の居ないアリーナで試合をし、ホッケーファンはテレビ中継で満足し ている。丁度日本の相撲の試合と同様である。

COVID-19の影響が何処にでも及ぶカナダの冬のアイスホッケーである。だが、カナダの冬の自然は美しく、自然に囲まれた湖上のリンクからは子供らの歓声が聞こえ、 寒さもコロナも忘れさせる一瞬でもある。

ライリー洋子

成城大学卒業、大学院を修了して、カナダに渡る。
オタワ大学卒業。オタワ、モントリオール、トロントを経てカルガリーに永住。
カルガリー大学にて日本文化、文明、日本映画、日本語など日本研究の土台を同僚と共に設立。
2005年モントリオールブルテン歌壇に属し、以後詠草を続ける。
井上靖、「風林火山」英語翻訳、「ファウスト」400年際に「日本の漫画家の視点からの『ファウスト』」など数々のエッセイを記す。
2012年カルガリー大学隠退 2020 旭日単光賞 叙勲
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