カナダ式エンジョイ・ベースボール ~トロントでMLB観戦~

カナダ式エンジョイ・ベースボール ~トロントでMLB観戦~

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カナダのスポーツと言えば、まずアイスホッケーを思い浮かべる人は多いだろう。カナダ人はアイスホッケーの「本家」を自負する。確かに、NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)傘下のチームが目指す優勝トロフィー「スタンレーカップ」の名は、19世紀のカナダ総督、スタンレー卿から取られているし、アイスホッケーのルールを定めたのはモントリオールにあるマックギル大学、殿堂だってトロントのエア・カナダ・センターにある。アイスホッケーは、ラクロスとともに、法律で定められたカナダの国技なのである。

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球場にやってきたブルージェイズファン

しかし、カナダはスポーツ大国。楽しめるのはアイスホッケーだけではない。例えば、カナダ最大の都市トロントには、NHLのメープルリーフス、NHL下部リーグのマーリーズ、MLB(メジャー・リーグ・ベースボール)のブルージェイズ、NBA(北米プロバスケットボールリーグ)のラプターズ、さらにサッカー(MLS)やカナディアンフットボール(CFL)のチームもある。この町では、車のインディカー・シリーズやプロテニスのロジャーズ・カップなど、さまざまな国際試合やスポーツイベントも目白押しだ。

地元ファンに交じってのプロスポーツ観戦は、一味違う旅の思い出になるに違いない。トロントに行くなら、ムネリンこと川崎宗則選手が在籍するブルージェイズの試合観戦に行かない手はない。

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CNタワーの隣にロジャーズ・センターがある

世界初の開閉式ドーム型スタジアム、ロジャーズ・センター
トロントのランドマーク、高さ553.3mの「CNタワー」はじめ、トロント水族館、鉄道博物館などが並ぶダウンタウンの南。オンタリオ湖からの少し湿った風が心地よく吹き渡るこのエンターティメント空間の中心にそびえる「ロジャーズ・センター」が、ブルージェイズの本拠地だ。

トロント・ブルージェイズは、1977年にメジャーリーグの球団数拡張により創設され、現在、米国以外に本拠地を置く唯一のチームである。所属するアメリカンリーグ東地区には、田中将大投手のいるニューヨーク・ヤンキースや上原浩治投手のいるボストン・レッドソックスなど、人気、実力、伝統を兼ね備えたチームが揃っている。そんな強豪ひしめく中、1992年、1993年には、2年連続のワールドチャンピオンに輝いた。

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ブルージェイズ通り

その功績がカナダの野球人気を押し上げたかもしれない。平日でも熱心にファンは詰めかける。平日のデーゲームは、学校の課外授業になっているようで、スクールバスが試合の前後に大挙してスタジアム脇に駐車する。通りの名前には「Blue Jays Way」まである。
ごひいきの選手の背番号のついたユニフォームやTシャツに青いキャップをかぶった顔はどこか誇らしげにも見える。本気で野球を楽しみにやってきていることが伝わる。
ところで、「ブルージェイズ」というチーム名は一般公募でつけられた。オンタリオの州の鳥、青カケスのことで、頭頂部、背中、尾羽が青い羽毛でおおわれている。だから、試合当日は青色がスタジアム内外に溢れる。この盛り上がり方、球場の外から見ても、かなりのものだ。

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お天気なので、屋根を開けてプレーボール

カナダ式エンジョイ・ベースボール①
ロジャーズ・センターは世界初の開閉式屋根付き球場で、収容人数は野球の場合、4万9千人強。周辺のすべての建物が大きいので、感覚としてピンと来ないが、屋根の高さは地面から約95メートルもあり、開いた屋根の向かいにはCNタワーがそびえ立つ。屋根が開いていたので、スタンド席から背の高いタワーを見上げることができた。逆に、CNタワーの床がガラスでできた展望台からは、試合を眺めることもできる。というか、少なくともフィールドは見える。

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夏に欠かせないビーチサンダルもブルージェイズマーク

眺めるといえば、この球場にはホテルやレストランが併設されており、センターのスコアボードの両脇あたりには、部屋で洋服を着替えながら、窓越しに試合を見学しているような人影が見える。1泊するのに最低でも1部屋350カナダドルはするというが、一生のうち1度は、こんな部屋に泊まって、野球観戦をしてみたい。
こんな風に、ブルージェイズの試合を生で味わう方法はあの手この手とあるが、チケットは、アイスホッケーな どに比べると、通常は簡単に取れるので。ご安心を。
また、ブルージェイズグッズの買い物をしたい人は、ユニフォームやTシャツばかりでなく、スーツケースからブーツやバッグまで取り揃えてある。試合後はレジが混むので、試合前にお目当てのものを買ってしまうほうが確実かもしれない。

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カナダ国旗とWシリーズ連覇のフラッグが光る

カナダ式エンジョイ・ベースボール②
はるばるカナダにメジャーリーグ観戦に来たことは、スコアボードの上に掲揚されたカナダの国旗や、試合前に演奏される「オー、カナダ」の国歌でしみじみと感じる。また、確かにメジャーリーグなのだということは、北米の球場と同じく、MLB全球団の永久欠番である42番とジャッキー・ロビンソンの名前が球場に記されていたり、スタンドとフィールドの距離がとても近いことで感じる。おかげで、選手の動きがより迫力をもって迫り、すぐそばで渾身のプレーをしている選手に、つい声をかけたくなる。

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「ねぇ、ボールちょうだーい!」「はいよ!」

日本の球場は観客がけがをしないことが第一に考えられているようで、バックネットは巨大だし、1,3塁のそばに張り出した席には「打球が飛んでケガでもしたらどうするのか」と問題視する人もいる。確かにその心配はあるが、その人がロジャーズ・センターを見たら、びっくりするだろう。ネットは最小限に小さく、1,3塁側の席には、ファールが飛んできたら、自分のグローブに収めることを楽しみにしているような人たちが、選手の一挙手一投足に集中しているのだ。
応援するのはブルージェイズのみ。この日、相手はフロリダ・マーリンズ。あのイチロー選手が出場したって、イチローの登場にブーイングが起こることはあっても、拍手はまず起きないくらい、皆、トロント愛は強い。

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大好きなポップコーンはバケツ買い

イニングの合間には、誰もが立ち上がり、歌い、踊り、スクリーンに映れば、大騒ぎ。ベンチに帰る選手に声をかけて、ボールを投げ入れてもらう。なんだかとてもおおらかだ。
そして、彼らは観戦中も食べて飲む。一番人気はビールとポップコーン。カナダを代表するファストフード、「ティムホートン」にも長い列ができていた。

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大型スクリーンに映ると、またまた大声援が飛んだ

ムネリン登場!          
試合の後半、ムネリンに代走が告げられた。「Kawasaki---!」のコールがされるや、跳ねるようにベンチから飛び出した彼に、ひときわ大きい声援が飛んだ。
ここで、日本のメジャーリーガーについて、おさらいをしておこう。
1995年、野茂秀雄投手がLAドジャースと契約。村上雅則投手以来31年ぶり日本人メジャーリーガーが誕生した。以来30年。多くの日本人選手が海を渡り、イチロー外野手はじめ、現在も多くの日本人選手がMLBを盛り上げている。
川崎宗則選手は、1981年、鹿児島県生まれ。2000年に福岡ダイエーホークスに入団し、2004年には、盗塁王と最多安打を獲得するなどチームの中心選手として活躍。FAを取得した2012年、メジャーリーグに挑戦した。憧れのイチロー選手がいるシアトル・マリナーズでのプレーを希望し、マイナーリーグからスタートしたが、見事メジャーに昇格。2013年にはトロント・ブルージェイズに移籍。明るいキャラクターとスピードあるプレーが人気を集めていると聞いていた。

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ムネリンファンの女子に背中の66を見せてもらった

スタンドには66番の背番号をつけたユニフォームのファンがあちこちにいた。比率は女性が多少多いかもしれない。66番を見つけては、片っ端から「彼のどこが好きですか?」と尋ねてみた。
「明るさがいいわ」「スピードがすばらしいでしょ」「とにかくグレイト!」と、女性たちが言えば、「あのキャラクター最高だね。お立ち台でインタビューを受けても、『I am Japanese!』としか言わないのだけれど、それがまた笑いを誘うんだよね」と話してくれたのは、日本で1年間、英語教師をしていたという30代の男性だった。
「ムネリンのファンですか?」と聞いた途端、相好を崩して、とってもフレンドリーに話してくれる彼らに、同志のような親近感を覚えた。
著書「逆教を笑え」のなかで、「トロントもブルージェイズも好き」と書いているムネリン。カナダのファンも、あなたのメジャーでの活躍をいつも待っています。

カナダにおける日系人の野球の話
ところで、メジャーリーグのチームを作るくらいだから、カナダは野球と無縁な国だったわけではない。オンタリオ州セントメリーズには、カナダの野球の殿堂がある。4人の日系人の元野球選手が殿堂入りの式典に招待され、野球選手としての名誉とともに、強制収容所に入れられた日系人の名誉が回復されたのは2003年のことだった。
昨年、「舟を編む」の石井裕也監督、妻夫木聡、亀梨和也主演による映画「バンクーバーの朝日」(原作:「バンクーバー朝日軍」東峰書房2009年、著者テッド・フルモト)で、1914年から1941年まで活動していた日系カナダ人移民2世中心の野球チームが紹介されたが、そのバンクーバー朝日軍の生き残りこそ、殿堂入りの栄誉を手にした方々だ。
戦争が始まる前年から1941年まで、パシフィッ・ノースウェスト・リーグで5年連続優勝を含む8回の優勝を飾った朝日軍は、多くの人種差別や迫害を、フェアプレー精神の野球を通して克服し、周りの日系移民に勇気を与え、白人社会からも称賛を勝ち得た。

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ブルージェイズ戦でイチロー選手は3塁打を放った

2002年5月には、当時「スカイドーム」とよばれていたロジャーズ・センターで行われたブルージェイズ対シアトル・マリナーズの試合「ジャパン・デー」の始球式に、5人の朝日軍の選手たちが一人ずつ、始球式を行っている。
イチロー選手は当時マリナーズに所属しており、80代から90代のおじいちゃんになった朝日軍の面々を、日本人メジャーリーガーとして称えた。今、「I am Japanese!」と胸を張って言うムネリンは、笑顔でカナダに受け入れられ、日本人のイメージもアップしてくれている。
時代が変わったのは確かだ。でも、イチロー選手やムネリンがメジャーで受け入れられ、賞賛されるのは、朝日軍の選手たちがひたむきに野球に打ち込み、当時の人々の心を動かしたのと同じ理由に違いない。

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洒落た店が集まるKing streetにあるHIRO寿司

*メジャーリーガーが通うホンモノの寿司店         
さて、野球選手は身体が資本。その上、日本を離れてい
れば、故郷の味が恋しくなることもあるだろう。
トロント在住のムネリンはもちろん、トロントに来たら、必ず立ち寄るという選手が多い店が、HIRO寿司である。洒落たレストランやインテリアショップが立ち並ぶキング・ストリートに立つHIRO寿司。通りに面したガラス越しに中をのぞくと、日本製の包丁や刃物をはじめ、「日本の良いものを紹介したい」というご主人の吉田宏隆さんのこだわりの品々が並んでいる。

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海外でこれだけのネタが出てくる店はめったにない

寿司は、奥のゆったりとしたカウンターとテーブルで食べさせる。しつらえはまったく日本に戻ってきたようだ。一般のお客様はもちろんのこと、日本の味を求めて訪れるメジャーリーガーたちのために、「どんな注文が来ても、涼しい顔をして出せるように、常に準備を怠りません」と語る吉田氏。ビジターチームの選手がトロントを訪れるのは、せいぜい年に1度だろう。だが、この味を求めて、10数年通い詰めている選手もいる。吉田氏も毎回、誠心誠意、心を尽くす。「握り」を介した静かなやりとりには、目指す世界は異なっても、プロとプロとの闘いのような厳しさがあるのかもしれない。
脳みそまでツンとふるえるような「わさび巻き」、日本でもなかなか食べられない粕漬けのお新香、ピカピカに光る新鮮なネタがのった小ぶりの寿司の数々は、「日本の高級なお鮨屋さんに来たみたい」と、久々の感動だった。

Hiro Sushi
住所: 171 King St. E, Toronto, Ontario, Canada
電話: 416-304-0550

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「Steam Whistle」ビール醸造所は試合後のファンでいっぱい

トロントで飲むのはビール?ワイン?
空気が乾燥した球場で飲むなら、やっぱりビールはうまい。トロントは「クラフトビール」と呼ばれる地ビールの宝庫。ロジャーズ・センターのななめ前にも醸造所があり、試合後は勝利の祝杯をあげるファンでごった返している。本当は、その人々の喧騒がビールの味をさらに引き上げてくれるのだとは思ったが、一人だけで立ち飲みするのは少し気が引けたので、町の酒販店で缶ビールを買い、部屋飲みを決め込んだ。

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今、トロントではさまざまなクラフトビールが生まれているらしい。
「最近の若い人はビールが好きみたいなの。まぁ、夏のバーベキューにはビールが定番でしょ。野球とアイスホッケーにもビールでしょ。それから、『グラスが割れたらビールを飲もう』と、うちの夫は言うわ。とにかく理由を見つけては、皆よくビールを飲むわね」と、親切な女性の店員さんが選んでくれたおすすめビールを3本買ってみた。

CANUCK PALE ALE
BONESHAKER
Mill St.

個人的にはCANUCK PALE ALEと、どっきりするようながい骨が自転車に乗ったイラストのBONESHAKERが好み。なぜかブドウの香りがする爽やかな味だった。ラガーのMill St.は少し焦がしたような香りが独特。まだまだたくさんの種類があったので、次回は違うクラフトビールを試してみたい。

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ところで、酒販店で大きなスペースを占めていたのはワイン。フランス、イタリア、米国のものが多いが、地元オンタリオ州のワインのコーナーもあった。昔、オンタリオ州を旅したときに、ナイアガラオンザレイク郊外に、たくさんのブティックワイナリーがあって驚いたことがある。有名なアイスワインではなく、白も赤も作っている。ワインには緯度が少し高い場所のような気がしたが、オンタリオ湖から上がる霧がワインブドウを育てる気候に適しているという説明を聞いた覚えがある。つまり、オンタリオ州には、海外市場に出回っていない良いワインがあるのだ。

普段はビール党という男性の店員さんも、オンタリオのワインの話となると熱心で、「この年は夏が暑くてね。だから、このワインも絶対に美味しいはず」と、高い身長をさらに伸ばして、上段の棚から、2011年のシャルドネを取ってくれた。
オンタリオのワインは、「幻のワイン」というふれこみで、お世話になっている方へのお土産にすることに決めた。

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