
STORY
メープルシロップ ワンダーランド
11. ビッキーさんの料理教室・その2

ビッキーさんがフライパンにオリーブオイルとバターをしき、そこに水で戻したドライマッシュルーム、さらに、この僕が刻んだタマネギが投入された。
ある程度、火が通ったところで、マスタードの風味がほどよく染み込んだ、あの豚ヒレ肉の登場だ。
ビッキーさんによると、ヒレ肉が固くならないよう、小まめにひっくり返して火を入れすぎないようにするのがポイントなんだそうだ。

自分が写っている写真がないのでなんとももどかしいけれど、実はヒレ肉をひっくり返すこの作業も実際に「体験」させてもらった。
ヒレ肉を3本もいっぺんに調理するのは、日本ではあまりやらないかもしれない。この豪快な感じに早くも食欲をそそられてしまう。

ヒレ肉の表面にいい感じの焦げ目がついたらフライパンから取り出し、アルミホイルでくるんで少し落ち着かせる。余熱で中まで火を通すということだと思う。
肉を取り出したあとのフライパンでは、“メープルリキュール”とメープルシロップでソースをつくる。
このリキュールはたぶん日本では手に入らないだろうけれど、メープルシロップと別のアルコールで代替は可能だと思う。

メープルシロップのボトルを手にしたビッキーさんが、日本語なら「ドバドバッ」という感じでメープルシロップをフライパンに注ぎ込んだ。
「分量は適当でいいの。きょうはそういう気分なの」とビッキーさん。このノリ、いい感じだ。
つけあわせは普通の白いポテトと、オレンジ色のスイートポテトを混ぜ合わせて作るマッシュポテトだ。
皮をむいて茹でるところまではビッキーさん。そこから先、たっぷりのバターといっしょにポテトをつぶしていくのが僕の役回りだ。

僕はもともと左利き、というか、子供のころに左利きから字を書くことなど部分的に右利きに直させられたので、実は右も左も使える。だから左手でポテトをつぶしながら右手でシャッターを切って、こんな写真を撮ることもできる。
さて、この豚ヒレ肉の料理は、あらかじめ漬け込んでおけば短時間で出来上がるのがいいところだ。
ビッキーさんは「30分もあれば十分」と言っておられた。だから仕事から帰ってから、ササッと夕食の支度ができるというわけだ。

アルミホイルから取り出したヒレ肉を切り分けると、内側はほんのりとピンク色が残っていて、柔らかく仕上がっているのが分かる。ちなみにビッキーさんの包丁は日本製だった。こういうことって、なんだかちょっとだけうれしい。
切り分けた豚ヒレ肉にさっきのソースをかけまわし、ちょっと赤みがかったマッシュポテトをそっと横に添える。
口に運んでみると、メープルシロップとヒレ肉に染み込んだマスタードが、甘さと辛さのいいバランスを生み出している。ヒレ肉もすばらしく柔らかい。本当においしい。

メープルシロップは肉に合う、それも豚肉が一番だと僕は思っている。日本のスーパーでも結構、カナダ産の豚肉を買うことができるから、この料理に挑戦する時は是非とも、カナダ産の豚肉を使ってみてほしいと思う。
カナダ特産のメープルシロップを使って、カナダのおいしい豚肉の料理をつくる。
ほら、これこそが砂糖やみりんの代わりなんかじゃない、すばらしいメープルシロップの家庭料理だ。
さて、ここで念のためことわってけれど、僕がカナダの豚肉をお勧めしているのは、別にカナダの農水省的なところから何かもらっているとか、そんなことが理由では絶対にない。ただ、せっかく作るのなら、とお勧めしているだけだ。
ただしだ、その農水省的なところが僕に何かご褒美をくれるとか、なんとか大使に任命したいというのなら、たぶん無下に断ったりしないと思う。この僕でも、そのぐらいの柔軟性は持ち合わせているつもりだ。
文・写真:平間俊行