森の魂を描いた女性画家エミリー・カー vol.1

Emily Carr森の魂を描いた女性画家エミリー・カー vol.1

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カナダ西海岸のバンクーバー島ビクトリア。1871年(日本で言えば明治3年)、ここでイギリスからの移住者夫婦の間に生まれたエミリー・カーは、カナダの原初的な森の風景をテーマに独特な絵を描いた女性画家である。小さい頃から絵を描くことが大好きで画家になることを心に決めたが、家族や周囲に芸術を理解する雰囲気は乏しく、孤独に自分の絵を追求するしかなかった。

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写真は22歳の時のエミリー。5人姉妹のきょうだい右前がエミリー

絵の勉強にと、若い頃にはサンフランシスコやロンドン、またパリにまで出かけたが、彼女が生涯のテーマとして描いたカナダの森や先住民の文化であるトーテムポールなどは、ヨーロッパ風の絵画を中心とする当時の画壇からはあまりに遠く、姉たちでさえ冷ややかにしか見なかったという。

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晩年のエミリー

子ども相手の絵画教室を開いたり、バンクーバーで小さな展覧会を開いたりしたが、そのユニークな絵は評判にもならず、彼女は犬のブリーダーや下宿屋などで暮らしを立てながら絵を描き続けた。ある時は先住民の暮らす森を訪ね、ある時はビクトリア周辺の森や海岸を訪ねて。

馬車に足の親指をひかれて怪我したために不自由な歩き方で、猿など好きな動物を乳母車に乗せて歩くエミリー。生涯独身で絵を描きやすいようにネットで頭髪を抑え、意志の強そうな目を持った彼女を、周囲の人々はちょっと変わった画家としか思わなかったようだ。

■Art Gallery of Greater Victoria
その彼女の絵を評価する真の理解者が現れたのは1927年、彼女が55歳の時だった。それは、カナダの東海岸で活躍するグループ・オブ・セブンの画家たちで、中でもローレン・ハリスが彼女を見出したと言っていい。その時の話は後ほど書くとして、彼らの励ましを得た彼女は、その後も西海岸のビクトリアで一人孤独に独自の絵を追求した。

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1945年に彼女が74歳で亡くなった時、彼女の絵をまとめて収める美術館はなく、死後に彼女の絵を選んで美術館や博物館に買い上げさせたのもローレン・ハリスたちだったという。今では、多くのカナダの人々に愛されているエミリー・カーだが、その生涯でどのような絵を描いたのか。まずは、彼女の絵を収集している美術館の一つ、バンクーバー島ビクトリア市にある「Art Gallery of Greater Victoria」を訪ねた。

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この美術館は、1870年に建てられた実業家の邸宅を市に寄贈したもので、1951年に美術館としてオープンした。外観はごく普通の地方美術館だが、中に入るとかつての持ち主だったスペンサー家の居間や豪華な吹き抜けの玄関を見ることができる。エミリー・カーの絵のほかにもアジアの美術品を中心に1万9千点を収蔵している。設立資金の60%は地域住民からの寄付で、地元アーティストの個展を開くなど、地域のコミュニティーセンターのような存在にもなっている。

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訪ねた日に案内してくれたのは、ジョアン・ルーイさん(72歳、写真左)。大学で30年間キャリア教育に携わった経験を生かして、近年はエミリーが描いた場所を案内するアートツアーも行っている。芸術に関心が深い家庭に育ち、子どものころからエミリーに影響を受けたアーティストたちとの交流もあったという。画家としてのエミリーを深く尊敬している彼女は、一見して、絵本から抜け出て来たような個性的なおばさんだ。

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■エミリー・カーのギャラリー
早速、エミリー・カーの絵を集めたギャラリーに案内される。ここには、例えば彼女が20歳の頃に姉たちのために描いたユリの花(写真)など、絵の技巧としてはかなり確かなものを持っていたことを示す絵もある。

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また、30歳半ばに姉とアラスカを旅して描いたトーテムポールの絵(1907年)もある。これらのトーテムポールは実は観光用に並べられたもので、これを見てエミリーは先住民の文化が消えないうちに記録しておこうと思ったという。案内のルーイさんによれば、この後、彼女は先住民との付き合いを通して自然の魂を感じる感覚を研ぎ澄ましながら、先住民の文化や森の中に立つ様々なトーテムポールを描くことになる。

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そうして55歳でローレン・ハリスたちに見出されるまで、彼女はカナダ西海岸に住む先住民の文化を描くユニークな画家として一部に知られていたらしい。その時代の絵は、例えばオタワの国立美術館(写真)や同じビクトリア市にある州立博物館(別途紹介)の方で見られるが、この美術館はむしろローレン・ハリスに出会った以降の森の絵の方が充実している。

■カナダの森や木々を描くようになったエミリー
1927年、エミリーは国立美術館で開催されたカナダ西海岸の先住民文化の絵画展に出品するよう招待され、その機会にグループ・オブ・セブンの画家たちと初めて会うことになる。

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当時、新たな絵画の潮流を作りだしていた彼らにとっても、エミリーの伝統に捉われない画風は魅力的で、ローレン・ハリスは彼女を仲間のように扱って、遠く離れた彼女を手紙で励まし続けた。「あなたの絵はまさに芸術作品であり、創造的な生命があふれ、息づいています」。そして同時に、彼女に先住民のモチーフばかりでなくカナダの自然を描くように勧めた。
エミリーは「エレファント」(写真)と名付けたキャンピングカーを運転してスケッチ旅行に出かけるようになった。

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好きな犬を連れて、様々な森の表情を描いた。心臓を患った晩年は、近くの森に出かけて。その結果が、この美術館の中心をなす「Light Swooping Through」(写真、1939年)のような森や木々の魂を描いた絵になったのである。(次回に続く)

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