
STORY
アルバータの物語
03. TVカウボーイ

その店頭には、「WANTED Real Cowboys」の文字があった。
もちろん、ファッションとしてのカウボーイスタイルを楽しむ人もたくさんいるけれど、本物のカウボーイがウエスタンブーツを買いに訪れる店、それがカルガリーのダウンタウンにある「Riley & McCormick」だ。
店内の棚には数え切れないほどたくさんのウエスタンブーツが並んでいて、これはこれでカウボーイハットに負けないぐらい、お目にかかれない光景だ。

現在のオーナーであるブライアンさんが、ウエスタンブーツの「基本」について解説してくれる。
なんでも、もともとウエスタンブーツというのは今よりもずっとヒールが高くて、かつ足の真ん中あたり、土踏まずに近いところまでヒールがあったんだそうだ。

「昔、カウボーイは牛の群れを率いたり、フェンスをチェックしたりと、陽が昇ってから暗くなるまでずっと馬に乗っていた。だからウエスタンブーツも馬に乗りやすい、という観点から作られていたんだ」とブライアンさん。
だからヒールを高く、大きくして足の中心で「鐙(あぶみ)に体重をかけ、しっかりフックできるようになっていた、ということだろう。
それが牛舎でのエサやりなど、馬に乗る以外の仕事も増えてきて、ヒールの形状も変わってきたのだという。
「それに、ウエスタンブーツには紐でしばるタイプのものはないんだ。もし馬に乗っていてバランスを崩した時には、ブーツが脱げて馬から落ちた方が大事故にならない。ブーツが抜ければ、ブーツだけ『鐙』に引っかかって、馬とともに行ってしまうだけだからね」

店内にはダチョウやワニ、ヘビなどさまざまな革で作られたファッション性重視のウエスタンブーツもたくさんあるけれど、確かに紐で縛るものは1つもない。
ブーツに施された縫い目は単なるデザインではない。古くなって革が柔らかくなってきても、この縫い目によって型崩れを防ぐことができる。

また、こうして上の方が二股に分かれているブーツは、ふくらはぎが太い人がはきやすいようにと作られたものだ。
なにもかもが「機能」に裏打ちされている。ウエスタンブーツって想像以上に奥が深い。
一番驚かされたのが、このブーツの底、土踏まずのあたりの膨らみだ。周囲は釘のようなものが打ち込まれ、しっかりと固定されている。

実はこの膨らみのなかには鉄製の板というか棒のようなものが入っているんだそうだ。
これによって、鐙を強く踏みしめても、重みを足全体に分散させることができる。確かに、1点に力が掛かり続けたら足を痛めてしまうだろう。
つまり、このブーツこそが、ファッションではない本当に馬に乗るためのウエスタンブーツなんだ。
ブーツを裏返せば馬に乗るためのものかがすぐに分かる。どこかで披露してみたくなる薀蓄(うんちく)だ。

この店のオープンは1901年。もともとは馬具であるサドルやハーネスを製造・販売していた。
店の長い歴史を物語るように、店内にはカウボーイの祭典、カルガリー・スタンピードで、パレードが「Riley & McCormick」の店舗前を通っていく写真が飾られていた。なんと1948年のスタンピードの時のものだ。

さて、ブライアンさんはブーツに関すること以外にもう1つ、もっと身近なジーンズに関する薀蓄を教えてくれた。
この写真で分かるだろうか。ジーンズの内側、股の部分だ。内側に縫い目があると馬に乗った時に足と擦れやすいため、馬に乗って仕事をするカウボーイは、内側に縫い目のあるジーンズを好まないのだそうだ。
「カウボーイが刺繍やスナップボタンを施したウエスタンシャツを着るというイメージが定着したのは、1950年代のハリウッド映画や、その後のテレビによるものだ。本来、カウボーイは普通の作業着を着ていたんだ」

そんなカウボーイをブライアンさんは笑いながら、「TV(ティービー)カウボーイ」と呼んだ。
今度、暇な時に西部劇のDVDでも見てみよう。馬に乗って何日も移動するのに、ジーンズの内側に縫い目があったり、作業には不向きなファッションをしたカウボーイを見つけることができるかもしれない。
さすがにウエスタンブーツの土踏まずのところが膨らんでいるかどうかは、確認が難しいと思うけれど。
文・写真:平間俊行