06. トム・トムソンの湖

永遠のカヌー06. トム・トムソンの湖

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アルゴンキン州立公園でのキャンプには、いくつかのルールがある。

例えば出発の前に見た展示にあったように、熊を寄せ付けないよう食料は木に吊るしておかなければならない。臭いを発する石鹸なども同じように木の上だ。

そのほか、ガラス瓶や缶入りの食品なども持ち込みが禁止されている。人の痕跡を極力残さないようにすることで、自然を守り続けていこうということだろう。

そうそう、アルコールは厳禁だ。理由は…なぜなんだろう。バカ騒ぎするヤツがいるから、ということなんだろうか。

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手を洗ったりする水は、このような折りたたみ式の容器に湖の水を入れて使う。なかなか便利なグッズがあるもんだと思う。

便利、と言えば、僕は今回のキャンプで初めて存在を知ったのだけれど、湖の水を濾過(ろか)して飲み水に使うグッズがあって、これなんかは日本でも災害時に役に立つような気がする。

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カナダではアウトドア用品店で、普通にこうした手動の濾過器が売られていた。

取っ手を引っ張ったり押したりして水を濾過する。風呂の残り湯などを飲料水として使えるのなら、もしもの時に結構、活躍するんじゃないかと思う。

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それから、林の中へと続く道の入口に置いてある、この荷物。中にはトイレットペーパーなど、用を足す時に必要なものが入っている。

この荷物がなければ誰かが林の奥にあるサンダー・ボックスを使っている目印になる、というわけだ。

それならそれでバターン!と雷を鳴らす必要なんて最初からないんじゃないかと思うけれど、ちょっとしつこい感じもするので、この話はこれぐらいにしておきたいと思う。

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さて、僕がインテリアキャンプを体験した湖の名前は、「レイク・トム・トムソン」という。

トム・トムソンは、カナダで最も有名と言ってもいい、1900年代初頭に活躍した画家だ。この像のハンサムな男性がトム・トムソンだ。

1912年にアルゴンキン州立公園にやってきたトムは、カヌーで公園内をめぐり、キャンプをしながら、大胆な色使いと荒々しいタッチでアルゴンキンの自然を描いてみせた。

残念ながら40歳の誕生日を目前にした1917年7月、釣りに出かけたまま「カヌー・レイク」という湖で水死体で発見される。今回のキャンプで、僕がまずカヌーをレンタルした、あの湖だ。

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公式にはカヌーでの事故、ということになっているけれど、トムがカヌーの名手だったことなどから他殺説も唱えられている。

トムの死の原因はともかく、彼の絵はヨーロッパ絵画の模倣が中心だった当時のカナダ芸術界に大きな影響を与えることになる。

そして1920年、彼に触発された芸術家たちが「グループ・オブ・セブン」を結成したことで、トム・トムソンはその死後も大きなインスピレーションを与え続けることになった。

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トムとグループ・オブ・セブンの作品と活動が、ヨーロッパともアメリカとも違う、カナダの文化的ナショナリズムを定着させたと言われている。

つまり、カナダ人が、カナダという国や、カナダの大地を見る、その見方を変えさせた、植民地意識から脱却させた、ということなのだろう。

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アルゴンキン州立公園を訪れる際の拠点となる街、ハンツビルの中心部にはトムの像があって、在りし日のトムの姿に思いをはせることができる。

そのトムの像は、ノートパソコンのような道具を手にしていた。

これでアルゴンキンの自然を小さく写しとり、あとでキャンパスに大きな絵画として描いていったのだろう。

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この便利な道具を積み込んだカヌーを自在に操り、アルゴンキンの自然をめぐり、気に入った場所でカヌーを停め、絵を描き、テントを張って眠りにつく。

それはそれは、本当に静かな時の流れなんだろうと思う。

トム・トムソンの名前がつけられた湖のほとりにテントを張った僕は、時計ではなく、太陽の光の具合や、流れていく風が肌に当たる時の、その感覚で時間の移ろいを感じていた。

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もしアルゴンキン州立公園でカヌーを体験する機会があったら、トム・トムソンが生きた頃と何も変わらない、静かな時の流れを感じてほしいと思う。

現代風の「アウトドア」なんて言葉が少々、薄っぺらく感じられるんじゃないだろうか。僕はそう思う。

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