05. カウボーイとフェンス

アルバータの物語05. カウボーイとフェンス

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カウボーイと牧場主というのは、そもそも違う職業というか、違う仕事を指していたのだと思う。

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カウボーイはというと、馬や幌馬車に乗って牛の大群を引き連れ、長い旅を経て、街や鉄道駅に牛を届ける、というのが本来の仕事だった。

この、牛を輸送する長い旅は「ロングドライブ」と呼ばれていて、西部劇では旅の途中で牛が逃げたり、インディアンに襲撃されたり、といった事件が起きるけれど、無事に仕事を成し遂げれば報酬はたんまり、ということになる。

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これに対し、牧場主を表すキーワードを挙げるとすると、それは「フェンス」ということになるだろう。フェンス、つまり木の柵などで囲いを作り、その中で牛を飼い、育てるという仕事だ。

一攫千金を狙う荒くれ者のカウボーイに対し、「フェンス」に象徴される牧場主は、ある程度の資金をもとに土地を購入し、牧場経営を始めた人、というイメージだろうか。

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カルガリーのあのウエスタンブーツの店で教えてもらった知識だけれど、馬に乗るためのブーツは写真の左のようにヒールが高い。一方、右のブーツは地面を歩きやすいようにヒールが広くできていて、牧場での仕事に適している。

もちろん、今では「ロングドライブ」を生業とするカウボーイはいないので、牧場経営者を含め、もう少し広い範囲を人たちをカウボーイ、と呼んでいるわけだ。

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さて、「Trails & Ranch」の4代目、Rachelさんに、家族の歴史について話を聞かせていただいた。

牛を放牧している丘の麓のこの建物は、Rachelさんの曽祖父が1882年にアルバータにやってきた頃のもので、手前は増築だけれど、奥の方はオリジナルだそうだ。

イギリスからの移民としてカナダにやってきたという一家がもともと暮らしていたのは、あの「赤毛のアン」の島、プリンス・エドワード島(PEI)だ。

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当時、PEIで銀行や船舶のオーナーをしていたというのだから、既にある程度の財産を築いておられたのだろう。

曽祖父がカナダの西部に興味を持っていたことに加え、カナダ政府がそのころ、牧畜業を営む人をアルバータに呼び寄せるため、土地利用を有利にする政策を打ち出していたことが、PEIからの移住につながったようだ。

東から延びてきたカナダ太平洋鉄道がカルガリーに到達したのは1883年。だから移住にあたっては、途中から馬や幌馬車を使った、まるで「ロングドライブ」のような旅だったのだと思う。

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「この建物は曾祖母がきりもりしていた頃のもの。大恐慌があって経済が落ち込み、第二次世界大戦が始まると、アルバータの南部では爆撃機のパイロットの訓練が行われていたんです。彼らが休暇の時に馬に乗りに来るのをゲストとして受け入れたりして、牧場を維持したんだそうです」。

Rachelさんと、もともと隣のサスカチュワン州の農家の出身だというご主人との間には、息子さんと娘さんがおられる。

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お子さんたちは、牛を放牧するこの丘の湧水が大好きで、家族の間では「Ranch Water」と呼んでいるそうだ。

この豊富な湧水が牧草を育ててくれるし、平地は雪でもこの丘では雨だったり、といった放牧に適した条件が備わっているという。

建物の中には、ファッションではない、使い込んだカウボーイハットがずらりと掛けられていたし、これまた履き込んだ、という感じのウエスタンブーツも並んでいた。

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ベッドルームでは、Rachelさんの祖母が作ったというキルトのカバーがベッドを暖かくくるんでいる。

以前、取材したPEIにもキルトづくりの名人のようなお母さんがいて、寒い冬にはこれが一番、と言っておられたのを思い出した。

この建物、そしてこの丘からは、遠くPEIからやってきて牧場を守ってきた、家族の息遣いを感じさせられる。

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「この土地とのつながりを強く感じるようになってきています。それは自分の血の中に何かがあるんだと思います。自分自身がすべてをやっていかないといけないし、食べ物がどこからやってくるのか、子供たちにすべてを見せることだってできる。土地とのつながりを強く感じることができるんです」

「お子さんたちに、この牧場を継いでほしいですか?」と聞くと、Rachelさんは「自分自身が好きなことをやればいいと思うけれど、もちろん子供たちが継いでくれたらうれしいですね」と答えてくれた。

一族を見守ってきたこの丘は、5代目をどんなふうに受け入れてくれるんだろうか。

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