09. ブランケットのポイント

永遠のカヌー09. ブランケットのポイント

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もう、こうなるとオールスターキャスト、とでも言えばいいんだろうか。

3頭のムースの三角関係を目の当たりにしたと思ったら、今度はこの旅の主役でもあるビーバーが突然、湖面に顔を出してくれた。

睡蓮の花びらもそろそろ「店じまい」という佇まいで、陽も少し陰り始めた時間帯のことだ。ビーバーは濡らした毛をべったりと頭になでつけたまま、せかせかと泳いでいる。

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この外側の堅そうな毛は、高級帽子ビーバーハットの材料にはならない。この状態では内側に隠されて見ることができない、ふわふわの柔らかい内毛をからみあせてフェルトにし、ビーバーハットが作られるのだ。

でも安心してほしい。僕はビーバーの過去について同情している立場であって、決して捕まえて毛皮にしようなどとは思っていないから。

かつてビーバーを捕まえるのは先住民の人たちの役割だった。罠でビーバーを捕獲するのは男性で、彼らは「トラッパー」と呼ばれた。その毛皮を先住民の女性がなめしたり伸ばしたりして「製品」にする。

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「ファー・トレーダー」と呼ばれたフランス人やイギリス人は、この「製品」を物々交換の形で先住民から入手していた。

これがビーバーの毛皮交易であり、入手した大量の毛皮を積んで運ぶのに使われたのが、白樺の樹皮でできたバーチ・バーク・カヌーだった。

ああ、いったん沈んで見えなくなったビーバーが、今度はあっちに顔を出した。レンズを覗いた状態ではなかなか追いきれない。

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ただし、こちらを警戒しているという感じでもなく、ちょくちょくと平気で水面に顔を出してくれる。

やはりもう、毛皮交易の時代とは異なり、ビーバーも危険を感じることなく平和に暮らしているということだろう。

当時、ビーバーの毛皮と交換する品々としては、ヤカンとかビーズとか鉄砲や火薬、ブランデーに砂糖など、さまざまなものがヨーロッパから持ち込まれたけれど、それらは必ずしも先住民の人たちとっての必需品ではなかった。

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そんな中で、今でも毛皮交易の時代の面影をとどめているのが、ハドソンベイの「ポイント・ブランケット」という毛布だ。

カナダの主要都市には「ザ・ベイ」というデパートがあるけれど、かつてのハドソンベイはビーバーの毛皮交易を生業とした会社だった。

この緑、赤、黄色、そして黒がハドソンベイの特徴的なデザインで、ハドソンベイが冬季五輪のカナダ代表団のおそろいのコートを作った際にも、この色使いが採用された。

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ただし、気になるのはこの色使いの方ではなく、ブランケットに記された数本の黒い線のようなものだ。この線が実は「ポイント」と呼ばれている。

大抵の人が、デザイン的にはポイントがあったからといって特段、格好いいとは思わないだろう。けれど、どのブランケットにも必ずこのポイントはついている。

かつてこのポイントは、ビーバーの毛皮とブランケットを交換する際の「レート」を示していたんだそうだ。

ポイントの数によって、このブランケットを入手するのに必要な毛皮の枚数が分かるという仕組みだ。先住民の人たちが英語やフランスが分からなくても、毛皮交易が成り立つというなかなかのアイデアだと思う。

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こんな写真も残っている。先住民の女性がはおっているポイント・ブランケットの端には、しっかりとポイントらしき黒い線が見えている。

もう夕方だ。呑気そうに我が家へと帰っていくこのビーバーも、まさかブランケットの黒い線が自分たちの毛皮の枚数を示していたなんて、思いもよらないだろう。

一方の人間の方も、なぜ「ポイント・ブランケット」という名前なのか、もう誰も気に留めないような時代になっているようだ。

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そのままの名前で、そのままのデザインでこのブランケットは愛され続けている。ポイントの意味するところは、何かの機会に薀蓄として披露する程度でいい。

それだけビーバーにとって平和な時代になったということが、何よりだと思う。望遠レンズの先にビーバーを見るぐらいがちょうどいいんじゃないだろうか。

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