05. 氷上の決戦

2015~16年フィギュアスケート、カナダ大会撮影記05. 氷上の決戦

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大会は順調に進み、男子はパトリック・チャン選手が地元カナダの大声援を背に、優勝を飾るという結果に終わった。
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彼は終始自信に満ち溢れた滑りを見せていた。フリー演技の最後、リンクの左側にひざまずくと左手を大きく掲げ、人差し指の先まで神経を行きわたらせると、この日の完璧な演技を締めくくった。音楽が止まった瞬間の表情が、今でも心に刻まれている。両手で顔を覆った後に天を仰ぎ、満面の笑みで会心の演技であったことを観客に伝えたのだ。
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ファインダー越しに見る羽生選手の表情は、バリー大会とは 違っていた。特に今シーズン2度目の『SEIMEI』は、鬼気迫るという表現が最もふさわしい言葉のように思えるほど、体全体から力がみなぎるようだった。競技結果は2位だったが、フリーの演技終了直後に見せた、まるで命を注ぎ出すような表情には、胸が刺される思いだ。
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2016年1月28日に発行された「フィギュアスケートマガジン2015-2016 フォトアルバム」では、その瞬間を記録した一枚が「伝説の序章。」というタイトルのもと見開きで掲載された。一連の写真を見てゆくと、彼の額に汗がしたたり始めたのはプログラムの後半からだった。全力を出し切ったプログラムのフィニッシュ。さすがにこの瞬間には、シャッターを切る指が震えるほど惹き込まれたのを思い出す。
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実は公式練習の際に、何度も氷上で立ち止まることがあった。私は審判席に向かって右側のリンクサイドで撮影していた。氷に立ち向かって身じろぎもしない後ろ姿を見ながら、彼が格闘しているものが何なのかを知りたかったが、撮影した 最後の数枚の中に、彼の笑顔が写った一枚があることを発見した。
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フリー演技終了直後のほんのわずかな瞬間。この時彼は、自身にしかわからない確かなものを感じ取ったのだろう。写真では安堵とも受け取れる平穏な笑顔を見せていた 彼は、激闘を物語るかのような荒い呼吸を整えていた最中で、アリーナを埋め尽くした観客は、見事な演技に対する最大の賛辞であるスタンディング・オベーションで応えていた。

写真協力
ベースボール・マガジン社「フィギュアスケート・マガジン」

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