Column 2:Life

C.W.ニコル、北極圏 への航海。Column 2:Life

お気に入りに追加

Inuit traditional life and wisdom
イヌイットの伝統的暮らし、生きる知恵
対談:C.W.ニコル×アーユ・ピーター

北極圏に生きるイヌイットほどユーモアを備えた民族はない。

対談の最初は、ニコル氏の次の言葉で始まった。「昔ある人が言った。私たちは過去を変えることはできない、しかし過去についての正しい理解と知識を持てば、未来を変えることは出来るかもしれないと」


C.W.ニコル(以下C)まず、あなたのことを教えてください。

IMG_5729

イヌイットの多くの友人たちとの愉快な思い出を宝物にするニコル氏。アーユさんと話は尽きない。

アーユ・ピーター(以下A)私は1960年、グリーンランド北部の村で生まれました。その年はちょうど、グリーンランド(当時デンマーク領)の先住民イヌイットをデンマークの白人世界に同化させるための法律ができた年でした。そして子どもたちはデンマーク語を習わされ、学校での授業が全てデンマーク語になりました。成績のいい子どもにはデンマークで教育を受ける機会が与えられ、私は教師だった父の希望もあって11歳のときにデンマークの学校に入りました。白人世界で教育を受ければより良い未来が開けると当時は信じられていました。でも18歳のとき、私は自分の意志でグリーンランドに帰りました。私はデンマーク人じゃない、と強烈に思ったのです。故郷に帰ってみると、人々の考え方はすっかり変わっていました。もうデンマーク人の真似をすることはないと皆が考え、イヌイットの言葉ができなければ見下されるようになっていた。

私は、7年間の留学の間に、イヌイットの言葉も文化も、母国とのつながりも失っていました。正しいと思ってやっていたことが否定されて心は痛みました。子どもだったのです。19歳になったとき、イヌイットの大集会がありました。アラスカ、カナダ、グリーンランドからイヌイットが集まった。私はイヌイットというのはグリーンランドだけにしかいないと思っていた。とても感動しました。そのとき時に知り合ったイヌイットの男性と私は結婚し、カナダに移り住んで、イヌイットの言葉と文化を学び直しました。全てが魅力的でした。その後私は弁護士になりますが、その理由はこの感動にあったと思います。私はイヌイットの言葉と文化を守るために生きたい。それらは私が一時取り上げられてしまったもの。同じことが他のイヌイットに起こらないようにしたいという思いです。

C 私はイヌイットの人々が持つ深い知恵と優しさと力を敬愛してやみませんが、ユーモアのセンスも素晴らしいですね。世界でイヌイットほどユーモアセンスを発達させた民族や国はない。あなたたちは、逆境を愛し、全てを笑い飛ばしてしまう術を知っている。


IMG_6996A
 そうですね、イヌイットはいつでも自分たち自身を面白がり、茶化します。なぜなら、もし自分のことを真剣に考えすぎたら、このあまりにも厳しく過酷な自然と生活環境の中で生き残ることができないからです。常に笑いと柔軟性を持っていなければ、すぐに死んでしまうでしょう。私はイヌイットについて今でも勉強をしていますが、その強靭な精神力にはいつも感動を覚えます。イヌイットはご存じのように肉体的に強靭ですが、生き残るためにもっと大切なのは心の強さのほうです。心の強さこそが生き残る力を支えているのです。

C 心の強さについて、もう少し説明してくれますか?


IMG_7106N
 私は1981年以来、イヌイットの古老たちの話を聞き集めています。心の力はとても強い、とてもパワフルだ、それに対して肉体はまるで羽毛のようだ。簡単に吹き飛ばされてしまうと彼らは言いました。私は自分が強靭な身体を持っていますから、どうすればこの肉体以上に自分の心を強くできるの? と思いました。その古老たちの言葉を本当に理解するまでに何年もかかりました。彼らは、半分満たされたコップを見て、半分空だというふうには決して思わない人たちでした。彼らは常に半分が一杯だと考えます。彼らの心にはとても力があるので、他者に対して決して悪い考えを持ちません。例えば私が、もしあなたに対して悪いことを思ってしまったとしたら、言葉に出していなかったとしても、私はすぐに行って謝らないといけない。でなければ、その悪い考えは、必ず相手に作用してしまう。昨日訪れたキミルトでも、コミュニティの人たちは皆私を助け、そしてありがとうと言ってくれた。さらに私たちが良い旅を続けられるようにという思いも抱いてくれた。イヌイットの文化では、心はとても強く、伝わるもの。だから人は最良の思いを他者に対していつも抱くようにするのです。

N とても大切なことですね。

IMG_6364A もう亡くなってしまいましたが本当に素晴らしい古老がいました。膨大な知恵を持つ真の賢者でした。私たちが法律のことを尋ねたとき、白人たちの法律とはこれだ、と言って本を破りました。それは簡単に無になってしまう。イヌイットの法は、例えばあなたが誰からも遠く離れてたった一人の時、他には誰もいないときでも、常にあなたとともにある。自分の環境や、動物たちや、太陽や、人間や、そのほか全てのことについての法を、あなたは常に守らなければならない。そうしなければ、あなたは他人に不幸を招き、苦難を与えることになる。それはとても印象深い言葉でした。確かに、白人の法律のもとでは、腕のいい弁護士を雇えば、黒が白になり得る。イヌイットの世界にそんな法はありません。善悪は己の中に確かにある。もしそれを破ってしまったら、常時告白をして、心と身体を清浄に保っていました。

 


過酷な環境で数千年の時を生き抜いてきたイヌイットの知恵には、現代人が耳を傾けるべき大切な教えが、たくさんあるはずだ。ニコル氏がイヌイットに深い敬意を持つ理由が少しわかった気がした。

コメントを残す