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アルバータの物語

16. 踊りを受け継ぐ

アルバータ州

ドアを開けて事務所に足を踏み入れると、笑顔とともに日本語での歓待を受けた。

「アリガトウ」
「ハイ、ドウゾ」
「カンパイ!!」

僕が訪れたのは、エドモントン市内にあるウクライナの伝統舞踏のグループ「SHUMKA(シュムカ)」のスタジオだ。

出迎えてくれたのは総監督のジョンさん、そしてテリーさんのコンビ。お二人とも「SHUMKA」の元ダンサーで、現役時代には日本で公演したこともあるそうだ。

どうやら日本では箱根の温泉に泊まったようだ。

「SHUMKA」の歴史を綴った本には、浴衣を着たその時の写真が掲載されている。

この中に若き日のお二人も含まれているようなのだが。

きっと畳敷きの大広間で何回も「乾杯」を繰り返したんだろう。「はい、どうぞ」はお酌された時に覚えられたのだろうか。

エドモントンのウクライナ系カナダ人のコミュニティには、母国の伝統的なダンスを受け継ぐグループが7つもある。

その中でも代表格と言えるグループが、この「SHUMKA」だ。

「SHUMKA」とはウクライナ語で、旋回する風のこと。それも竜巻とかトルネードのような被害をもたらす風ではなく、素早く回り続ける「いい風」を意味しているんだそうだ。

練習を見学させてもらったけれど、まさしくそれは「旋回する風」だった。男性ダンサーは高く飛び上がり、床に片手をついて体全体を浮かせたり、バック転を繰り返したり。

女性ダンサーたちも高く舞い、スタジオいっぱいに素早く、そして美しく回り続けていた。

「SHUMKA」には16歳から30代前半まで42人のダンサーが所属している。彼らは平日の夜3回と日曜日にこのスタジオに集まってダンスの練習をしている。

平日は午後7時から10時半まで。日曜日は午前11時から丸一日。本当に気が遠くなるような長時間のレッスンだ。

この42人以外に、3歳から16歳までの子供たち約220人が、ここと、もう1カ所のスタジオで未来のダンサーを目指し、練習を積んでいる。

ただし、この子供たちが16歳を迎えた時、全員が「SHUMKA」のダンサーになれるわけではない。

オーディションを受け、その才能を認められて初めて、正式に「SHUMKA」のダンサーになれるのだ。

プロのような厳しさだけれど、彼らはプロではない。学生だったり、看護師や学校の先生といった仕事をしながら練習を続け、時には海外遠征にも出かけている。

ウクライナ伝統の踊りを守り続ける、その情熱がなければとても続けられるものではないと思う。

特別にふた組の男女のダンサーに、本番用の衣装を身につけて踊ってもらった。

何と言ってもこの鮮やかな衣装の色づかいにぐっと惹きつけられてしまう。そして、信じられないぐらい軽やかでしなやかな動きに、僕はすぐに圧倒されてしまった。

話を聞いてみると、みんな3歳とか5歳とか、小さな頃からダンスを始めていて、さらに両親も兄弟もダンスをしていたりする。

「踊りを踊ることは自分たちの歴史を知ることだし、週4回も顔を合わせているので、ここはみんな家族のようですね」と教えてくれた。

伝統の踊りはウクライナ語でもウクライナ・ダンスという呼び方しかなく、そもそもが村のフォークダンスのようなものだったらしい。だから地域ごとに少しずつ違う特徴がある。

それがウクライナのいろいろな地方からエドモントンに移民としてやって来たことで、各地の特徴が融合しあい、伝統の踊りはエドモントンで独自の「進化」を遂げてきたのだという。

「われわれは物語を織り交ぜたダンスもやっていて、踊りを通じて自分たちの文化を伝えようとしています。しかし本国には物語性のある踊りはなく、最近は本国がこちらのダンスに興味を持ち始めてるんです」とジョンさん。

「SHUMKA」は州や市による文化振興の補助金のほか、企業や個人の支援、また公演のチケットの売り上げなどで運営しているんだそうだ。

しかし、本当に「SHUMKA」を支えているのは、民族の伝統を次代に引き継ぎ、さらに発展させていこうとしているウクライナ系カナダ人の人たち、一人ひとりの思いなのだろうと思う。

だからここにあるのは、税金で保護されて細々と続いているひ弱な伝統芸能などではない。エドモントンの日々の生活の中で、常に変化を続けていく「生きた伝統」なのだろう。

文・写真:平間俊行

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コメント

  • 佐々木

    華やかな衣装で、とても美しいですね。

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