永遠のカヌー

15. カヌー・ビルダー

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15. カヌー・ビルダー-イメージ1

今、本当に昔ながらの工法にこだわって白樺の樹皮によるバーチ・バーク・カヌーを作れるカヌー・ビルダーは、数えるほどしかいないそうだ。

その中の1人、35年以上も手作りで「本物」のバーチ・バーク・カヌーを生み出し続けているのが、Rick Nashさんだ。

アルゴンキン州立公園への拠点・ハンツビルから車で30分ほど行ったdorsetという街の丘にNashさんの工房はあった。

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Nashさんは1982年、かつての先住民の人たちと同じように1カ月も森の中にこもり、電気もない環境でバーチ・バーク・カヌーをつくった経験もあるそうだ。

このモノクロ写真は1895年に撮影されたもの。オジブワ族のキャンプでの当時のカヌーづくりの様子を伝えている。1982年にNashさんが手がけたカヌーづくりも、きっとこんな感じだったんだろうと思う。

バーチ・バーク・カヌーをつくるにあたっては、まずカヌーの「型」をつくるところから始まる。

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これを地面に敷いた白樺の樹皮の上に乗せ、樹皮を上方向へと折り曲げていく。

折り曲げた樹皮は土に差し込んだ杭で周囲から固定しておおまかなカヌーの形を作り上げるわけだ。

このイラストはカヌー博物館で展示されていたものだけど、この場合、杭は地面ではなく、台となる板に空けられた穴に差し込んでいる。

どちらのやり方であっても、上へと折り曲げた樹皮を回りからがっちり固めることがポイントだ。

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そして、カヌーの船べりである「gunwale=ガンウオール」や、湾曲した内部の肋材(ろくざい)などの骨格部分はヒマラヤスギでつくるけれど、これらはすべて手作業によるものだ。

使用するのはこんな工具。手前に引きながら木を削っていく。先住民の人たちはカヌーだけでなく、スノーシュー(かんじき)などいろいろなものをつくるのに使っていたけれど、白人の世界では「カヌー・ナイフ」という呼び名もあるそうだ。

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この工具、間近で見せてもらったけれど、装飾が施されていてなかなか味わい深い。これ自体が1つの作品と言ってもいいぐらいだ。

パドルなどはオノで全体の形を削り出していく。僕も試しにオノを持たせてもらったけれど、そう簡単に削れるもんじゃない。すぐに諦めてNashさんにオノを返すことにした。

Nashさんの工房を見渡しても、電動の工具などは見当たらない。文字通り、昔と同じようにすべてが手作りなのだ。

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その代わりに、工房の中にはこんな木の「つる」のようなものが丸めてぶら下げられていた。

これは「トウヒ」の根っこだそうだ。お湯で煮たあと半分にさいてある。カヌーをつくるための紐というか、締め上げて固定する役割を果たす。

これでぐいっと縫い合わせるようにしながら、船体の骨格部分と白樺の樹皮などをしっかり結びつけていくわけだ。

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白樺の樹皮の縫い目などは、「トウヒ」の樹脂、松ヤニのようなものを煮てつくる粘着剤で防水加工を施す。

それにしても、このバーチ・バーク・カヌーの細部をじっくり見てほしい。

それぞれがしっかりと役割を果たしながらも、全体としてその姿がまるで1つのデザインのようにすら見える。

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肋骨のように船体のふくらみを内側から形作る肋材(ろくざい)は、こんなふうに紐で縛って「クセ」をつけて準備しておく。

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こうしたパーツを使いながら出来あがったカヌー内部のこの構造美と言ったら、なんと表現すればいいんだろうか。

きれいに揃いつつも、機械による寸分たがわぬ揃い方とは明らかに違う、手作りによる微妙な「ゆらぎ」のような不揃い感がたまらない。

このバーチ・バーク・カヌーづくりの素晴らしい技術は、今後もちゃんと受け継がれていくのだろうか。

僕は何だか、急に心配になってきてしまった。

文・写真:平間俊行

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