永遠のカヌー

16. カナダとともに永遠に

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先住民の人たちが生み出した白樺の樹皮で作るバーチ・バーク・カヌー。

高速で水上を進み、陸では漕ぎ手が担ぐ「ポーテージ」によってさらに遠くへと移動できる。

既に説明したように、このスグレモノの移動手段はやがて、ヨーロッパ人によるビーバーの毛皮交易に使われるようになった。

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より多くの荷物を積めるようにと白樺のカヌーは巨大化し、最大で約10メートル、3トンもの積荷を運べるようになった。

この写真は、毛皮交易の主要なカヌールート「フレンチ・リバー」のビジターセンターに展示されていたカヌー。真下に立っていただいた職員の方と比べることで、その巨大さを実感してもらえると思う。

こうした大型のカヌーは狭い河川ではなく、大動脈である広い川を行き来した。大都市・モントリオールと別の交易拠点を結んでいたことから、「モントリオール・カヌー」と呼ばれたそうだ。

やがてビーバーの毛皮交易の衰退とともに、カヌーは僕らが今、目にするような本来の大きさに戻ることができた。

僕はそれで本当に良かったと思う。

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ビーバーの毛皮交易は経済的な発展という意味でカナダの国づくりに多大な貢献をしたけれど、ビーバーを獲り尽くすような行為とともにあるカヌーって、やっぱりなんだか残念な気がする。

先住民の人たちが生み出した2~3人乗りのバーチ・バーク・カヌーが、本来カヌーのあるべきサイズなんだと僕は思う。

そしてもとの姿に戻ったカヌーは今、誰もが楽しむことができるアクティビティとして世界中で愛されている。

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さて、カヌー・ビルダーのNashさんのバーチ・バーク・カヌーづくりは、博物館から依頼されて昔のカヌーと同じものを作ったり、あるいは展示されている古いカヌーを修繕したり、といった仕事が多いんだそうだ。

工房で納品を待つバーチ・バーク・カヌーのバウ(艇首)には、「NW」の文字が刻まれていた。

「NW」とは、毛皮交易でハドソン湾会社としのぎを削った「ノースウエスト会社」のことで、このカヌーは1750年代の同社のモデルを再現したものだ。

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でも、カヌーが本来のサイズに戻った以上、「NW」とかハドソン湾会社の「HBC」とか書いてあるカヌーは、博物館の中にだけあればいいのだと僕は思う。

Nashさんはもともとアメリカの出身で、カナダの先住民の血を引いているわけでもない。

大学に行くつもりが徴兵でベトナム戦争に行き、戦後、ニューヨークでカメラマンになり、取材を通じてバーチ・バーク・カヌーと出会ったことで、いつしかカヌー・ビルダーになったらしい。

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「らしい」というのは、Nashさんにいろいろ質問しても詳細はよく分からなかった、ということだ。

いわゆる「職人」的な仕事へのこだわりとか、カヌーへの愛とか、いつカメラマンではなくカヌー・ビルダーになったのかとか、いくらNashさんに聞いても原稿にしやすい気の利いた答えは返してくれなかった。

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試しにこんな質問もぶつけてみた。「自分がつくったバーチ・バーク・カヌーに乗ってみたいとは思わないんですか?」

Nashさんは「ブーッ」と吹き出すように口を鳴らしたあと、ニヤニヤしながらこう言ったんだ。

「水道局の人間が、自分が工事した水道から出る水を飲みたいとか、そんなこと思うか?」

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Nashさんの答えは照れのようでもあるし、こんな個性的な人だからこそ、バーチ・バーク・カヌーにのめり込んだような気もする。

そして僕もなんだか、バーチ・バーク・カヌーづくりの技術が継承されるかなんて、どうでもよくなってきた。

だって、カナダの大地で生まれたカヌーは今や全世界へと広がり、レジャーに、スポーツに、ビジネスにと使われていて、狭くて浅い河川を行けるのはカヌーしかないのだけれど、その基本構造は昔のバーチ・バーク・カヌーそのままなのだから。

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僕らはいまだ先住民の人たちの知恵を超えることができていない。つまり、今、世界中に存在するカヌーの中に、バーチ・バーク・カヌーが生き続けているんだ。

カヌーはカナダとともに永遠にあると思う。そして、誰もがちょっとその気になりさえすれば、カヌーはすぐ近くにきっとあるはずだ。

パドルを手に、どこまでもどこまでも、漕ぎ出してみてはどうだろうか。きっとあなただけの「カヌー探検」が待っていると、僕は思っているんだ。

文・写真:平間俊行

コメント

  • ツトムタキグチ

    キャンペーンの「物語を読む」から軽い気持ちで読み始めました。自分でもいつも思っていたことなのですがカヌーと言うと日本ではほとんどがカヤックのことです。なかなかカナディ案のカヌーには出会えません。カヌーの雑誌でもほとんどカヤックの記事ばかりです。こんなに詳しく中身の濃いカナディアンカヌーについての記事は初めてでした。ついつい引き込まれて一気に読んでしまいました。ありがとうございました。

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