カナダ国立博物館巡り

05. 国立戦争博物館②

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国立戦争博物館には一般人はもちろんのこと、様々な見学者がやってくる。13歳から17歳の子供向けの見学プログラムもある。訪ねた当日は、たまたま若いカナダ兵士の一団にも出会った。迷彩服を着た二十歳代の若い兵士たちだ。入隊してからまだ間もない兵士たちなのだろうが、博物館に来て戦争とはどういうものなのか、先人たちはどのように戦争に関わったのかを感じ取っていくのだろう。ここには、子供たちの質問に答える元兵士のボランティアもいる。

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実は、カナダは国連の平和維持活動(PKO)の提唱者で、「国連平和維持活動の父」と呼ばれるレスター・B・ピアソン(第14代首相、ノーベル平和賞を受賞)を生んだ国で、積極的にPKOに参加してきた。死者を出すたびに様々な議論を重ねてきたが、それでも続いてきたのは、世界の縮図のような多民族国家を束ねる価値観の一つに、国連重視と国際主義を掲げてきたからだろう。博物館にはそうした活動中に被害に遭った生々しい展示物もある。

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これは、PKOでユーゴスラビアとクロアチアの中間地点で監視に当たっていた兵士が銃撃された時のジープ。兵士は国連軍を示す白い色の車に乗っていたが、1994年12月31日、大晦日のパトロール中に銃撃を受けた。兵士は背中と頭を撃たれたが、運転を続けて監視所までたどり着き助かったという。銃弾を受けたガラスや座席に食い込んだ弾痕が生々しい。

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さらには、2005年にアフガンで展開中に地雷に触れて破壊されたジープも展示されている。これには、2人のカナダ兵が乗っていたが、ヘリコプターで運ばれて助かったという。

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負傷した兵士がカメラに向かってOKサインを出す当時の写真も展示されている。この2つのケースは死者を出さずに済んだが、カナダは50人以上の犠牲者を出したアフガンも含めて、現在までに119人の兵士が国連平和維持活動で亡くなっている。若い兵士たちも、こうした戦争の現実を見学しながら、国際平和に貢献する意味を自分に問うことになる。

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アフガニスタンでの平和維持活動は、カナダの歴史の中でも最も長く続いた戦争と言われるが、その傷はまだ癒やされておらず、博物館にはアフガンで息子を失った女性も来る。設計者のモリヤマ氏は、そうした戦争の傷を癒やすヒーリング・ポイント(癒やしの場所)として、この博物館を設計したというが、戦争で傷ついた人々や家族が会話し、悲しみを分かち合う事が出来るように様々な工夫を建物に凝らしている。

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その象徴的場所が、博物館の中心にある「メモリアルホール」だ。まるでピラミッドの内部に足を踏み入れたような感じがする、斜めになった石壁の間をすり抜けるようにして曲がると、天井が高く、四方をコンクリート壁で囲まれた大きな空間に出る。床の片側に水面が設けられているが、残りは厳粛なまでにシンプルな四角の石の部屋である。この全体が一つの大きな墓をイメージしていると言うが、ここが戦争で亡くなった兵士たちを追悼するホールになっている。

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案内のゴーバンさんは、その奥の壁面に一つの墓石が埋め込まれているのを教えてくれた。フランスで死亡した兵士の墓で、無名戦士の墓として置かれていたものをここに移設したのだという。カナダでは、第1次大戦以降、第2次大戦、朝鮮戦争、そして国連平和維持活動で、現在までに11万6千人の戦没者を出している。この無名戦士の墓はその全員を代表する墓としてここに設置された。 

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墓の反対側の壁の上部に、外につながるスリットが開けられている。毎年、戦没者追悼記念日「Remembrance Day」の11月11日午前11時になると、そのスリットから一筋の光が射し込み、無名戦士の墓を照らす。設計者のレイモンド・モリヤマが考えた荘厳な演出である。そして、その一筋の光が差し込むホールで、毎年、戦没者の遺族、関係者を招いての記念式典が行われるのだそうだ。その光がまっすぐに無名戦士の墓に向かって差し込む感動的な映像は、戦争博物館のサイトを見て頂きたい。

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展示で戦争の現実を知ると同時に、建物に込められた戦争に対する様々なメッセージも受け取る。設計者のモリヤマ氏が、この博物館に込めたそのメッセージは、戦争で傷ついた人々に対する「癒やし」だけではない。この博物館は、未来に希望を見いだしていくためのさらなる工夫も用意している。次回は、それを見ていきたい。(つづく)

文・写真:軍司達男

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