カナダ国立博物館巡り

06. 国立戦争博物館③

お気に入りに追加
06. 国立戦争博物館③-イメージ1

メモリアル・ホールで無名戦士の墓に差し込む一筋の光もそうだが、設計者のレイモンド・モリヤマ氏は、この建物に様々な工夫やメッセージを込めている。例えばこの写真、斜めになった壁の片側は、兵士たちが自分の戦闘機に描いた絵の一部を切り取って展示しているコーナーになっている。

06. 国立戦争博物館③-イメージ2

その照明の一部は反対側の壁にくりぬかれたスリットから差し込んでくるが、不思議な並びで開けられたそのスリットは、実はモールス信号。「忘れないで」という意味だそうだ。時間経過の中で、ともすると忘れがちになる戦争の記憶を、後の世代にまで継承していくという思いなのだろう。

06. 国立戦争博物館③-イメージ3

戦争の記憶を継承しようというモリヤマ氏の思いは、サメの背びれのように空に突き出ている三角形の「Regeneration Hall」(復活再生のホール)に凝縮されている。ここの壁も垂直ではなく斜めに立ち上がっている。

06. 国立戦争博物館③-イメージ4

ここを中2階の廊下から見下ろすと、壁面の床に5つの像が並んでいるのが見える。これらは第1次大戦時にドイツ軍との戦いで大きな犠牲を出したカナダ兵士たちを追悼するモニュメント(フランス)に設置されている像のレプリカ。それぞれ希望、犠牲、平和、正義、慈悲を意味するという。このホールは、戦争の記憶を継承しながら、人類平和と未来への希望を祈るために造られた。

06. 国立戦争博物館③-イメージ5

ホールの一番奥には、細長い三角形のガラス窓を背に「希望」を現す像が据えられている。中2階のある位置に立って、この像の背後に広がる景色をみると、窓越しに国会議事堂に付設された「平和の塔」が見えるように設計された。この「平和の塔」もカナダの戦没者を追悼するために建てられた塔だ。モリヤマ氏は、せっかく平和になっても油断するとすぐに平和を見失い、戦争が忍びよって来るので、努力して平和と希望を見失わないようにと、塔が見える位置に希望の像を据えたのだという。

06. 国立戦争博物館③-イメージ6

さらに、もう一つの特徴は、このホールの天井から流れて来る風の音である。BC州出身で、1929年生まれのモリヤマ氏は日系カナダ人と言うことで、第2次大戦中に両親と共に収容所で暮らした経験がある。戦争博物館の工事中に天井の壁の穴から聞こえてきた風の音が、収容所で聞いた音と同じに聞こえたというので、録音して常時その風の音がホール全体に響くようにした。死者を悼むような懐かしいような音。それを、見学者たちはどのように聞くのだろうか。

06. 国立戦争博物館③-イメージ7

博物館には、カナダ軍がドイツ軍に敗北した戦場の様子や、武器の進化によってその被害も大きくなってきたことを示す展示、さらには原爆の写真と共に時代は原子爆弾の時代に入ったことを伝える展示もある。第1次大戦の肉弾戦から、大量殺戮の兵器が使われる現代の戦争まで。戦争のありのままの姿を出来るだけ客観的に伝えるように心がけているように見える。

そうした博物館には普段はオタワ地域の子供たちが中心だが、5月、6月の修学旅行の時期になるとカナダ全土から子供たちが見学にやってくる。5つの「Kids program」があって、戦争の歴史(英仏戦争、第1次、第2次世界大戦)、戦争と国民・女性、戦争と子ども、と言った内容になる。案内つきの見学だが、幼いと理解が難しいので最年少でも10歳以上と決められているそうだ。子供たちは元兵士のボランティアに「人を殺したことはあるか?」とか、「なぜ普通の人が兵士になるのか?」といった率直な質問をぶつけるが、元兵士は、「戦争になるのは普通ではない、異常な時だということ。特別なときに、国を守り、家族を守るために兵士になることを決めたのだが、殺してはいけない、殺したくない。そういう状況にならないようにすることが大事だ」などと、こちらも率直に答えるのだそうだ。

06. 国立戦争博物館③-イメージ10

案内のゴーバンさんも、「兵士になることは、犠牲になること。国がそういう状況になった時に自分を犠牲に出来るかどうか。戦争があったという悲しい事実、犠牲になってくれた兵士のことを知るとともに、二度と起きないように希望して欲しい」と言う。そして、博物館の見学で子供たちに何を一番感じて貰いたいか、という私の質問にこう答えた。「War is bad」。それは、世界でもユニークなこの国立戦争博物館が最終的に伝えたいメッセージなのかも知れない。(おわり)

文・写真:軍司達男
ジャーナリスト、ライター、テレビ番組制作会社の企画アドバイザー

コメントを残す