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超お手軽!! トーテムポール大紀行

09. 21世紀の新作 海岸セイリッシュのポール

ブリティッシュコロンビア州

ブロックトンポイントには、8本並んだポールのほかに、今世紀に入って新たに加わった彫刻が何点か展示されている。地元バンクーバー市周辺の先住民、「海岸セイリッシュ」の作家の作品だ。

ロバート・イェルトンのポール

ロバート・イェルトンのポール

海岸セイリッシュとは、「セイリッシュ語族」と呼ばれる言語グループの言葉を話す人たちのうち、太平洋沿岸に住む人たちを、大雑把にまとめた呼び名だ。

海岸セイリッシュにはもともとトーテムポールを彫る伝統はなかった。

あらゆる伝統には、始まりがある。だから、これまでトーテムポールを彫る伝統がなくても、新しく始めて、伝統にすればいいじゃないか、という考え方もできる。

ブロックトンポイントに、ひとかたまりの8本から少し離れて立つ、1本のポールは、そんな海岸セイリッシュの一部族、スコーミッシュ族のロバート・イェルトンが、亡き母を追悼して彫ったもので、2009年に立てられた。

スコーミッシュ族は、主にバンクーバー市の北30~40km辺りに住むが、イェルトンの母はスタンレーパークで1913年に生まれ、22歳頃までブロックトンポイントの、まさにこのポールが立っている辺りに住んでいたという。

一方、海岸セイリッシュには、トーテムポールこそなかったが、家の柱や祭具、墓標などに彫刻を施す伝統はあった。それなら、もともと彼らのものではない「トーテムポール」を真似るのではなく、むしろ、伝統的な文化の特徴をいかした、新しい形の作品をこそ制作すべきだ、という考え方もなりたつ。

バンクーバー市の先住民、マスクイム族のスーザン・ポイント(1952‐)が制作し、2008年にブロックトンポイントに設けられた3つの門は、同部族の伝統的な家の柱に着想を得たもので、この地の先住民として来訪者を歓迎する気持ちを表している。

スタンレーパークに展示されているスーザン・ポイント制作の門

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歓迎門(左)セイリッシュのダンサーとシャチの門(中央)祖父母と孫の門(右)

スーザン・ポイントは、現代アートの作家として活躍。1980年代初め頃から、海岸セイリッシュの美術や意匠を復活させる試みに取り組むようになった。

当時、海岸セイリッシュの美術はまだほとんど研究されておらず、ポイントは、BC州の博物館に収蔵されていた海岸セイリッシュの工芸品を調べて、作品制作の参考にした。

バンクーバー国際空港に展示されている、紡錘車を象ったポイントの作品

バンクーバー国際空港に展示されている、紡錘車を象ったポイントの作品

これら博物館は、かつて、トーテムポールなどの工芸品を先住民から収奪した歴史がある。

しかし、その収奪品は、現代の先住民が、自分たちの伝統文化を取り戻す上で、とても大切な役割を果たしているのである。

なお、ポイントの作品はバンクーバー国際空港にも展示されている。

ブロンズ作品「岸から岸へ」

ブロンズ作品「岸から岸へ」

2015年、ブロックトンポイントに、またひとつ彫刻作品が加わった。これまで見た作品群と異なり、木彫ではなく、ブロンズ像だ。

作者、ルーク・マーストン(1976-)のルーツは、1860年頃にこの地にやってきたポルトガル人男性と、先住民女性との間に生まれた子どもたち。ブロックトンポイントに展示された作品、「岸から岸へ(Shore to shore)」には、そのような彼の文化的背景が反映されている。

ポイントやマーストンの作品は、私たちが普通考える「トーテムポール」とは随分かけ離れている。けれども、生きている文化は刻々変化するものだ。21世紀、ブロックトンポイントに新たに加わった海岸セイリッシュ作家の作品は、トーテムポールの文化が今も生きていることの証と言えよう。

文:横須賀孝弘

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