01. カナダの森のまもり神

ブッシュプレーン01. カナダの森のまもり神

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息子たちがまだ小さかった頃、夏休みになるとトロントからクルマで北へ3時間ほど走った先にあるオリリアの森に向かうのが年中行事だった。小さな湖の際にある簡素なキャビンを借り、家族で週末を過ごすためだ。

ハイウエイを降り湿地帯を通る道を抜け、深い森へと通じる私道が木漏れ日の降り注ぐ森の先に続き、その終点に施設がある。ここは携帯電話の電波が届かないので、昼間はカヌーや釣りをし、夜はキャンプファイヤーをして過ごす。

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ある週末の午後、湖を見るともなく見ていると、遠くからプロペラ機の音が近づいてきた。風に揺れる蜘蛛(くも)が糸を頼りに着地するように、それは一直線に湖面に向かって降りてくる。フロートと呼ばれる浮きがつけられた小型水上飛行機は滑るように着水し、遠くのコテージのある浜へと向かい、しばらくすると水しぶきをあげて再び飛び立っていった。この小型機にブッシュプレーン(Bushplane)という名が付いていることを知ったのは、かなり後のことだった。

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このブッシュプレーンをテーマにしたカナダ最大の博物館が、スー・セント・マリーという東部カナダ・オンタリオ州の街にある。トロント・ピアソン国際空港からだと飛行機とレンタカーで約2時間、距離にして約700キロの道のりだが、あの夏の思い出に背中を押されて早朝便でトロントを出発することにした。空港で待っていた機体はわずか37席のカナダ・ボンバルディエ社 Dash 8-100(ダッシュ8)。カナダ全国で地方空港を飛び回るこの飛行機の設計は、ブッシュプレーンから発展した。旅はすでにカナダならではの空の物語に引き込まれている。

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カナダのアイコン(象徴)といえば、誰でもまず国旗のデザインとなるカエデの葉、森の働き者ビーバーを思い起こす。カナダの森を飛び回る小型飛行機ブッシュプレーンも、カナダの誇りだ。ふわりと浮き上がるような乗り心地は、ジェット機とは違う昔懐かしいものが詰まっていた。まもなく紅葉が始まる9月初旬。オンタリオの森を機上から眺めながら博物館に到着すると、そこは毎年恒例の Bushplane Days(ブッシュプレーンの日)イベントで沸き返っていた。

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森や草原、湖や湿地帯が広がるカナダでは、小回りの効く小型飛行機は有効な交通・運搬の手段だった。車輪の代わりにフロートと呼ばれる浮きをつけて水上で離着陸できるからだ。「そり」への付け替えに成功するとついには雪原にも対応できるようになり、パイロットたちは燃料が続く限り目的地を目指して飛んで行き、どんな場所でも離着陸したのだ。

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北緯49度線から遠く離れた遠隔地のダムや鉱山の建設のために活躍したブッシュプレーンは、資源国カナダにとって欠かすことができない。パイロットたちはファーストネーションズ(カナダ先住民族)の人々の急病人搬送や生活用品の運搬も行い、貴重なワイルドライスなどを持ち帰り燃料費の代わりにすることも日常だった。

森林で火災が起きると、そこに暮らす動物たちが住処を奪われ、元に戻るまでには長い年月がかかる。 川を頼りに上空からの目視で飛ぶ彼らは森のことを熟知していたから、遠隔地の測量や航空写真撮影に加え、森林火災のパトロールと消火活動にも果敢に挑んだ。

こうして都会から何百キロも離れた広大な地域を飛び回るブッシュプレーンは、カナダの森のまもり神となっていったのだ。

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