06. 魔法の薬

ビーバー カナダを創ったスーパー・アニマル06. 魔法の薬

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ガティノー公園はハル川のほとりにある

ライディングマウンテン国立公園のほかに、ケベック州のガティノー公園でも野生のビーバーを観察した。ライディングマウンテンは、カナダ西部への入り口とされるマニトバ州ウィニペグから西へ250キロ離れているのに対し、ガティノー公園は首都オタワに隣接し、オタワ市街から車で20分の近距離にある。

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活動中のミシェルさん

人里近くに住むガティノー公園のビーバーは、しばしばやっかいな問題を引き起こした。道路際にダムを造り、道路を水浸しにするのだ。そんな時、ビーバー対策専門家が出動する。私が会ったミシェル・ルクレアさんは、ビーバー対策歴十数年のベテランだった。問題のビーバー・ダムを壊し、ダムに管を差し入れて水位を一定以上上がらないような工作などを施す。

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カストリウム

ミシェルさんが、珍しいものを見せてくれた。生乾きの肝のような茶褐色の塊で、茄子のような形と大きさ。嗅ぐと異臭を放っている。正体は「香嚢(こうのう)」と呼ばれるビーバーの臓器だ。香嚢は肛門付近にあり、匂いのある分泌物を出す。香嚢を乾燥させたものは、「カストリウム」とか「海狸香(かいりこう)」と呼ばれる。カストリウムは、処理すると、バニラやイチゴに近い味を醸し出すことができるので、香料(フレーバー)の原料となる。また、香水にも使われる。
香料や香水に使われる以前には、薬として使われていた。その薬効は、痛みを止め、熱を下げ、病的な興奮を鎮め、癲癇や結核を緩和し、しゃっくりを止め、蚤を退治し、視力を向上させ、血圧を上げ、睡眠導入剤や胃薬にもなる…と考えられていた。カストリウムは、ビーバーの毛皮と並ぶ人気商品で、ハドソン湾会社の統計によると、1808年から1828年までの20年間に、カナダ北西部のアサバスカ地方だけで10トン近くものカストリウムを産出したという。

痛み止めや解熱の効果がある医薬品、アスピリンは、サリチル酸を処理したものが主成分だ。ビーバーの体内には、食べ物のヤナギに含まれるサリシンという物質が蓄積し、サリシンはサリチル酸に変わるので、カストリウムにも、アスピリンと同じ鎮痛・解熱効果があっても不思議ではない・・・のかもしれない。カストリウムのその他の薬効については、ナゾだ。

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ビーバーの親と去年生まれの子。げっ歯類には珍しく、子どもを約2年間大切に育てる

カストリウムには、もうひとつ、魔法のような効き目を発揮する分野がある。ミシェルさんがその魔法を実演して見せてくれた。ビーバー池の水に、香嚢をチョンとつける。油膜が水面にパーッと広がっていく。すると、ほどなく、なんとビーバーが現れた。香嚢、即ちカストリウムの魔術とは、ビーバーを出現させることだった!
タネを明かすと、もともと香嚢とは、ビーバーが自分の縄張りを知らしめるために、独特の臭いを分泌するための器官なのだ。だから、他のビーバーの臭いを嗅いだ縄張りの主は、侵入者を撃退しようと、慌てふためいて駆けつける、というわけだ。つまり、ビーバーは、非常に縄張り意識の強い動物なのである。
その縄張りの中にダムを作り、ロッジを設け、子どもを育てる。ビーバーの夫婦は一夫一婦で、1年に産む子どもの数は2頭から4頭ほど。子どもは、2年間、親と一緒に暮す。子どもを生めるようになるには、生後3年かかる。このように、ビーバーは、ネズミの仲間だけれど、ネズミ算で増える動物ではない。少ない子どもを大切に育てるのが、ビーバーの繁殖戦略だ。

ビーバーが縄張りを持つ動物であることや、増え方が遅いことが、カナダの発展と先住民の悲劇をもたらした。

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