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歴史・文化 歴史・文化

カナダ国立博物館巡り

国立人権博物館②

マニトバ州

7層になったフロアの11の展示場へはエレベーターもあるが、上下の階をつなぐ大理石の“光る回廊”を歩いていける。表面が半透明の石膏で覆われたスロープになっていて、内側からその表面が柔らかく光る仕掛けだ。見学者はこの回廊を歩きながら見てきた展示フロアの全体を振り返って俯瞰出来るようになっている。さっき見た内容を反芻しながら次の展示フロアに向う。人権という深くて重いテーマをゆっくりと噛みしめながら見ていくのに適した構造といえる。全部を歩くと回廊の長さは800メートル。そして最終的には高い塔(希望の塔)の入り口にたどりつく。

人権について表現した沢山のパネルを並べた展示場と同じフロアに、博物館で一番広い展示場がある。そこは、カナダが過去に経験してきた様々な人権侵害を振り返るギャラリーだ。これまでカナダ国家が認定したカナダの人権侵害の事例は75件あるが、ここにはその中から18の事例を展示している。

例えば、先住民を強制的に寄宿舎に入れて欧米化しようとした差別的扱い、鉄道建設のために移住した中国人の過酷な労働(写真)、戦時中の日本人の強制収容所、宗教的差別、ハンディキャップを持つ人々への差別、奴隷貿易でアメリカに連れてこられた黒人の受け入れに対する差別、ケベック分離独立運動などで逮捕された無実の人々、イヌイットへの差別との戦いなどである。

こうした18の事例が、残された品々や写真のパネル、大画面の映像や彫刻など、様々な展示法で紹介されている。中には黒人女性が乗車拒否されたり、虐待されたりしたケースを、赤いドレスを林の中につるして並べるという象徴的な表現で示しているコーナー(写真)もある。展示法の一つ一つにアーティストたちの参加が感じられる場所である。

日系カナダ人の強制収容所とは、第二次世界大戦の開戦にともなって当時カナダに住んでいた2万人を超える日系人の6割近くが、敵国人として財産を没収され、ロッキー山脈の東に強制的に移住させられたケースを言う。

ここには、当時の日系人が僅かな手荷物だけで収容所に入れられたことを物語る品々、収容所での人々の生活、そして戦後の権利回復運動の写真などが展示されている。

この人権侵害のケースについては、1980年代になってから、全カナダ日系人協会を中心とした賠償請求運動が始まり、1988年には当時のマルルーニー首相が公式に謝罪し、賠償金を払うことが決定した。この最も広い展示場は、こうしたカナダの人権侵害の歴史を直視し、その教訓を次の世代につなげていくことを目的としている。

4階のフロアには、人類史上最大の人権侵害と言うべきホロコーストの展示場がある。第二次大戦中のドイツ・ナチによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を考えるコーナーだ。

ドイツのホロコーストのもとになった反ユダヤ主義(アンチセミティズム)は、ドイツだけものではなく、ユダヤ人に対する差別はカナダにも見られた。例えば、ユダヤ人を毒キノコだと記した子ども向け教科書さえあった(写真)。

隣のコーナーへ行くと世界の「ジェノサイド」の展示がある。ジェノサイドとは、ユダヤ系ポーランド人ラファエル・レムキンが造った言葉で、「国民的集団の絶滅を目指して、その集団にとって必要不可欠な生活基盤の破壊を目的とする様々な行動全体」を指すと言うが、多くは強制的な排除による民族浄化や同化政策による抹消、そして大量殺戮までも含む。現代になっても世界は、様々なジェノサイドを経験してきた。ここには、カナダが考えた5つの例(ウクライナ、アルメニア、ルワンダ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ユダヤ)のジェノサイドが取り上げられている。展示されているのは飢餓に苦しむ少女の像(ウクライナ、キエフにあるもののレプリカ)。こうした人権侵害の被害に遭うのは、いつも女性と子どもだった。これらのギャラリーは内容が深刻なだけに、見学者も静かに展示に見入っていた。

博物館の展示は、こうした深刻な人権侵害の事例ばかりではない。こうした人権侵害に対抗して、人権を守るために立ち上がった人々の歴史を映像で見るコーナーや、子供たちがお互いに助け合うことの大事さを双方向のゲームで楽しみながら学ぶコーナーなどもある。案内のジョゼフさんによると、この博物館はモノの展示より、むしろこうした映像や双方向の展示などの方が充実していると言う。100時間におよぶビデオやフィルム、2500枚の画像、19の双方向デジタル展示、10万語に上る原典(本)などをそろえている。

そして、深刻な展示の合間に一息ついて考える「熟考の庭(Garden of Contemplation)」が3階に設けられている。ここは、モンゴルから運んできた600トンもの柱状の玄武岩を並べた庭と池になっている。見学者たちは、ここでしばし、平和の大事さを思うことになる(つづく)。

文・写真:軍司達男

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