
「1000万平方キロ」の奇跡
06. 真冬の豊漁

アイスフィッシングという漁法は、凍った湖面に2カ所の穴をあけ、穴と穴の間に網をわたしておくと魚が勝手にひっかかってくれる、というものだ。
長い年月にわたって先住民の人たちが続けてきた漁法であり、ショーンさんを含め、現在カナダで行われているアイスフィッシングもほとんど同じやり方だ。
愛嬌たっぷりの雪上車、ボンバルディアB12でやってきたのは、その網を仕掛けておいたポイント、つまり網をわたすために穴を開けておいた場所だ。

穴を開けておいた、といっても、穴は当然、既に凍って塞がってしまっている。だから網を引き上げるには、小さなエンジンが付いたこの機械で再び穴を開ける必要がある。
ショーンさんは、この機械で氷に穴を開けた後、今度は砕かれて小さくなった氷が再びくっついて固まらないようスコップですくいあげて、穴を確保していた。

実はこの辺りで暮らしていた先住民の人たちは、この写真にある「Ice scoop」というテニスのラケットのような道具を使い、砕いた氷をすくい上げていたんだそうだ。
「Ice scoop」とスコップの違いがあっても、やっていることは基本的に同じだ。ボンバルディアB12に乗ったり、エンジンの付いた機械を使うようにはなったけれど、先住民の人たちの知恵は既に「完成」されていたということだと思う。
凍った湖面に空けられた穴から網を引き上げると、魚が次々に現れてくる。これはホワイトフィッシュ(Lake Whitefish)という魚。日本語では「シロマス」の名で呼ばれている。

この魚の仲間が昔、旧チェコスロバキアから日本の長野県に輸入され、完全養殖化された結果、今では「シナノユキマス(信濃雪鱒)」という名の特産品になっているんだそうだ。
イエローナイフの湖では、ホワイトフィッシュだけでなく、ピッカレル(Pickerel)とかパイク(Northern Pike)とか、あまり日本ではピンとこない名前の魚が暮らしている。

どうだろう、せっかくだから観光振興のために、イエローナイフならではの「ユキマス=雪鱒」みたいな愛称を考えてみたらどうだろうか。せっかく「オーロラ」という鉄板の観光資源もあることだし。
まあ、それはともかく、網から外された魚は凍った湖面にポーンと放り投げられ、みるみるうちに凍りついていく。

それにしてもだ、どうやって凍った湖面の下を通し、遠く離れたもう1つの穴に網を到達させるんだろうか。
実はその方法も、「デネ族」と呼ばれる先住民の人たちがあみ出してくれていた。この写真にある、ジガーとかアイスジガー(Ice jigger)と呼ばれる道具がそれだ。
現代に生きるショーンさんが使うのも、まったく同じもの。

2枚のスキー板がくっついたようなこのジガーには、真ん中にもう1つの板があって、そこに爪のような金具が上向きに取り付けられている。
このジガーを氷に開けた穴から水中に押し込み、真ん中の板に結びつけたひもを引っ張るとシーソーのように上下し、て凍った湖面の下側に金具が引っ掛かる。
この引っ掛かりを推進力に、ジガーは湖面の下をキックするようにしながら進んでいくのだ。

先住民の人たちの知恵のおかげで、“デロリン”としたお腹が印象的なピッカレルとか、たくさんの魚が水揚げ、というか「氷揚げ」というか、まあ捕まえることができた。
普段どれぐらいとれるのかは分からないけれど、これは豊漁と言っていいんじゃないだろうか。
ショーンさんはこのあと、とった魚をイエローナイフのレストランに「納入」しなければならない。
さあ、急がないと。再び雪上をひた走って移動するボンバルディアB12の出番だ。