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歴史・文化 歴史・文化

カナダ国立博物館巡り

国立人権博物館③

人権博物館は、テーマがテーマだけに多くの専門家の議論が戦わされ、国民もその議論に参加する形で展示物の選定や展示法が決められてきた。国民から人権についての多様な意見を募集することも行われた。それは、今でも続いている。展示場の一角には見学者が自由に人権についての意見をビデオに残せるブースがある。

これには既に数千人の声が収録されていて、見学者は誰がどんなことを言っているのか、見ることが出来る。あるいは、メッセージをカードに書いて残していくコーナーもあり、数万のカードが寄せられているという。こうして、博物館は多くの人の意見に耳を傾け、あるいは多くの人々の参加によって、ともに人権とは何かを考えようとしている。

それを象徴的に表した作品が博物館の天井から吊り下げられた「Trace」(レベッカ・ベルモア作)だ。これは、博物館が建てられた「先住民の聖なる土地」の赤い粘土(建設残土)を一人一人が手で握って作ったビーズを結んで吊り下げたものだ。

このビーズ作りには1万人以上が参加したと言うが、粘土に自分の手型を残しながら、各人が人権について話し合うという趣旨の作品になっている。その膨大な量感に圧倒される。

後日、人権博物館の広報担当者のモリーン(Maureen Fitzhenry)さんに、博物館が目指すところを聞いた。彼女は、「カナダは、今は世界の中でも人権意識が高い国だと思われていますが、過去には大変な過ちも犯してきました。先住民や日本人に対する差別、あるいはユダヤ人の入国拒否などの過去も抱えています。その事実を直視して世界にメッセージを発したい。そしてカナダはその先駆的な存在になりたいのです。人権がなぜ大切なのか、どうしたら守っていけるのか、ともに考え、理解し、教育に役だって行きたいと思います」という。

また、「展示では、カナダ中の問題を扱っています。内容によっては、暗く、気持ちが沈むものもありますが、希望やインスピレーションを得るなど、バランスも考えています」、「人権について、押しつけるのではなく、事実を見ることによって考えてもらう。あるいは、違う見方や違う意見を議論して欲しいと思います。そういう場になって欲しいと思います」。

さらに、「世界で唯一の国立の人権博物館として、ここが人権を考える上での(ネットワークの中心に位置する)“世界の中のハブ”になりたいのです」という。そのために「随時、新しい問題にも取り組みます。例えば、先住民の権利問題などは、この夏に取り入れました。ただし、ニュースメディアではないので、ある程度時間をおいて評価の見通しがついてからになりますが」とも。人権博物館の志(こころざし)の高さがうかがえる言葉だった。

その一つの表れだろうか。博物館は現在、女性の教育を受ける権利を主張して銃弾を受けた、マララ・ユスフザイの血染めの制服を2017年3月までの期限付きで提供を受け、展示している。ご存じのように、マララはパキスタンでイスラム過激派(タリバーン)が支配する地域に住みながら、その主張を持ち続けて過激派にらまれ、2012年10月9日にスクールバスに乗っていたところを襲撃された。15歳の時だった。奇跡的に一命を取り留め、その後ノーベル平和賞を受賞している。世界的に注目された少女が、その時来ていた血染めの制服。それが今、人権博物館に展示されている(写真は博物館のニュースリリースから)。人権に関してメッセージを発する“世界のハブ”になりたいという、熱い思いが伝わってくる展示である。

7階にある最後の展示「Inspiring Change」(変化を触発する、とでもいうのだろうか)は、社会へのポジティブな変化に関して、各人に何が出来るかを問いかけるコーナー。人権に関する様々な展示物や映像を見た人々に、よりよい世界を築くための役割について考えるよう促している。

そのコーナーを巡ると、いよいよ「希望の塔」に上るエレベーターの入り口になる。塔は98メートルあるが、その途中にある展望台からは、ウィニペグの市街とその向こうに広がる平原が見渡せる。その昔、カナダの先住民がここに居住地を設けて暮らした「聖なる土地」が一望できる。

カナダは2017年に建国150年を迎える若い国だが、多様な民族と価値観を受け入れる過程で、様々な“現代的試練”を経験してきた。その一つが現在の人類的課題でもある「人権」というテーマである。カナダはその若い国にふさわしく、過去のしがらみを振り捨ててこの難しいテーマに向き合ってきた。そして、国立人権博物館は、その先頭を切って真正面から人権問題に取り組もうしている。その取り組みの真摯さを見ると、カナダの国立博物館が国のアイデンティティの構築に果たそうとしている、「使命」のようなものが見えてくる気がする。(終わり)

文・写真:軍司達男

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