10. 人と犬の共同作業

「1000万平方キロ」の奇跡

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ブッシュ・プレインが定期的に物資を運んでくれることで、そのライフラインが支えられているワチ(Whati)村。

僕は、カナダと非常に関係が深い移動手段である犬ぞり、そしてスノーモービルについて知るため、先住民の人たちが住むこの集落を訪ねることにした。

僕にいろいろと教えてくれたのが、トップ写真の人物、ジョセフさんだ。家の前にはカナダらしく、大きなピックアップトラックが停められている。

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そしてその奥には、日本で言えば「ママチャリ」ぐらいの軽い感じで、当たり前のようにスノーモービルがエンジン音を響かせていた。

ここでのスノーモービルは、レジャーやモータースポーツのものではなく、まぎれもなく「生活の足」なのだ。

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一方で犬ぞりはと言うと、観光用やレース用に使われてはいるものの、さすがにこのワチ村でも、生活のために犬ぞりを使っている人はもういないそうだ。

でも、1960~70年代にアイスロードができるまでは、カヌーや犬ぞり、そして日本で言う「かんじき」のようなスノーシューしか移動手段はなかったのだ。

ジョセフ家の物置小屋の青い壁には、かつて冬に大活躍したであろうスノーシューが飾られていた。

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そして子どもの頃、ジョセフさんは毎年冬、犬ぞりとスノーシューを使い、おじいさんとともに罠猟に出かけていたんだそうだ。

猟の獲物はウサギやキツネ、イタチなど。それにカリブー(トナカイ)の中でも大型の「ウッドランドカリブー」なども獲っていたという。

「罠猟ではまず、自分たちと犬たちの食べ物を確保するため、湖で魚を捕ることから始めるんだ」とジョセフさん。

つまり、凍った湖に網を仕掛けて魚を捕る、あのアイスフィッシングだ。猟に出発する前、まずはこの魚を捕る作業だけで1週間ぐらいは必要になるという。

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そりを引く6頭の犬はそれぞれ、1日に1匹半ずつ魚を食べる。だから6頭の1日分は魚9匹だ。

「猟は11月初旬から1カ月半ぐらい。クリスマスの前には帰ってくる」というから、猟だけの期間を仮に5週間とすると、魚の数は犬の分だけでも300匹以上にもなる。

魚を捕るだけで1週間かかるのも頷ける話だ。

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ジョセフさんによると、移動する時はまずスノーシューを履いた人間が犬ぞりの前を歩き、雪を踏み固めて犬が歩きやすいよう道をつくりながら進むんだそうだ。

僕も犬ぞりに乗ったことがあるけれど、それは短時間だったし、犬たちも結構なスピードで走っていた。

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また犬ぞりレースだとかなりのスピードで走り続けている印象があるけれど、考えてみればフカフカに積もった雪の上では犬だってそうそうスピードは出せない。

それにそもそも罠猟なんだから、早く移動することを競っているわけじゃない、ということだろう。

ジョセフさんがスノーシューで雪を踏み固め、おじいさんがワイヤーの罠を仕掛けていく。

そんなふうに移動し続け、戻ってきた時にはその罠にウサギがかかっていたりするんだそうだ。

休憩の時は焚き火で凍った魚を溶かし、犬たちに与える。ジョセフさんたちの食事は犬のあとだ。人間と犬の共同作業のようで、なんだかいい感じだ。

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春になると今度は、ビーバーや、マスクラットという大きなネズミみたいな動物を捕りに行ったそうだ。その際の移動手段はカヌーだ。

そして今度は罠ではなく、銃で撃つ。「体を撃ってしまうと毛皮の価値が下がってしまうので、頭を狙うんだ」とジョセフさん。

「弾が片方の耳から入って、貫通して別の耳から出ていくように撃つんだ。そうすると毛皮に穴が開かないから」と言うので、そりゃ神業だと思ったけれど、ジョセフさんがニヤニヤしている。ジョークだ。できるはずがない。

で、この毛皮の写真が、博物館に展示されていたマスクラット。横には「celebrating spring with muskrat」と書かれていた。

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ジョセフさんは「マスクラットは肉も美味しいんだ」と言うけれど、今度のはジョークじゃない。本当に春を感じさせてくれる味覚なんだろう。

僕自身は、マスクラットとともに春を祝うのは、ちょっと遠慮しておきたいと思う。

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