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「1000万平方キロ」の奇跡

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僕は前回の原稿で、今や犬ぞりはスノーモービルに取って変わられた、と書いている。

実は僕の頭の中にはかねてから、スノーモービルは犬ぞりをイメージして作られたのではないか、という漠然とした想像があった。

つまりスノーモービルとは、犬の力をエンジンに置き換えた「そり」。ジョセフさんは、犬ぞりは壊れないからいいと言っていたけれど、燃料さえ補給すればもっと早く、もっと長時間走ることができる犬ぞり、それがスノーモービルだと僕は思っていたのだ。

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でもそうではないらしい、というのがいろいろ調べた上での結論だ。

スノーモービル発祥の地はカナダだとされている。

もちろん、何をもってスノーモービルだと規定するのかによって発祥の地は違ってくる。だからここからは、あくまでカナダが発祥の地だという前提での、僕なりの説明ということになる。

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カナダが発祥の地だとする根拠となる最初のスノーモービルは、日本では航空機メーカーとして知られる「ボンバルディア社」によって作られた。

というより、ボンバルディア社の創業者であるジョセフ=アルマンド・ボンバルディア氏が、小さな工場から生み出した1台のスノーモービルによって、ボンバルディア社がスタートしたのだ。

つまりボンバルディア社はもともと、スノーモービルのメーカーだった。ちなみに今のボンバルディア社は航空機のほかに鉄道の車両などを作るカナダを代表する世界企業だ。

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1937年に誕生した1台目のスノーモービル「ボンバルディアB7」は、今われわれが目にするスノーモービルよりもずっと大きかった。それは雪上車と言った方が理解しやすい。

この「ボンバルディアB7」を発展させる形で登場したのが、あのアイスフィッシングに使われていた「ボンバルディアB12」だ。どちらもワゴン車の前輪をスキーに、後輪を無限軌道、いわゆるキャタピラにしたような形状だ。

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つまりスノーモービルの出発点は、エンジンで動く犬ぞりではなく、雪上でも走ることができる自動車だった、ということになる。

なぜ雪の上を走る自動車が必要だったのか。理由は極めて簡単だ。冬は普通の自動車では移動することができなかったからだ。

自動車で移動できないから、病気になっても病院に行けない、病人がいても医者は駆けつけることができない。

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現代に生きる我々は、道路網が張り巡らされていて雨でも雪でも移動ができる、それが当たり前だと思い込んでしまっているのかもしれない。

でも、道路や移動手段がなかった時代はほんの少し前まで確実にあったのだ。

今だってカナダではブッシュ・プレインやアイスロードがライフラインを支えているし、日本だって急病人を見てくれる医者がいない離島や山間部の集落はいくらでもある。僕らがピンときていないだけだ。

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そんなふうに人々の生活を支えていた雪上車=スノーモービルにもある時、転機が訪れた。

道路整備が進み、厳冬期でも自動車での移動が可能になったことで、自動車の代わりを務めていたスノーモービルの役割は失われてしまったのだ。

そのため、ボンバルディア社のスノーモービルはぐっと小型化され、もっと短距離の移動や物資の運搬、そしてレジャーとして楽しむ乗り物へと変化していった。

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この時、スノーモービル全体の代名詞のようにもなっている「ski-doo」という名前がボンバルディア社によって世に送り出されることになった。

ただしこの名前、実は「doo」ではなく「dog」、つまり「ski-dog」にするつもりだったらしい。

それがなぜか「g」を「o」に取り違え、「ski-doo」になってしまったのだという。

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この時、僕が思い描いていた犬ぞりとスノーモービルがしっかりと繋がったわけだけれど、「dog」は「doo」になり、なんだか犬っぽいなあ、という名前で定着することになった。

しかもボンバルディア社は経営不振に陥った際、スノーモービルの製造部門を手放しているので、もうスノーモービルは作っていないのだ。

そりから解き放たれた犬が駆け回るように、「ski-doo」が世界中の雪原を疾走しているなんて、かなり愉快な話だ。

「dog」を「doo」に取り違えた人は今、どんな思いでいるんだろうか。

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