01. カナダのシートン
アシボソハイタカ(部分)。シートン画(1876年)

シートンを育てたカナダの自然01. カナダのシートン

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ハドソン湾に面し、多数のシロイルカやホッキョクグマを見ることのできる、マニトバ州チャーチル。州都ウィニペグから、鉄道で行こうとして、エラい目に遇った。2日後の朝9時に着く予定が、夕方4時近くにまでずれこんだのだ。その路線は「世界最遅の列車」と揶揄されている。それももっともだと痛感した。まあ、これも、カナダの自然がまだまだ人の思い通りにはならにことの表れかもしれない。

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『ウィニペグ狼』の挿絵。シートンの本職は画家。小説の挿絵も自ら描いた

この程度で腹を立ててはいけない。1882年、後に動物小説で知られるシートンが、トロントからウィニペグまで鉄路を辿った時には、5日の予定が、なんと15日もかかってしまったという。3月末なのに猛吹雪がつづき、列車が立ち往生を繰り返したからだ。

もっとも、転んでも只では起きないのが、シートンの真骨頂だ。ウィニペグの手前で、一匹のオオカミが多数の犬に囲まれているところを、走る列車の窓から目撃。後に、その一瞬の体験をネタに、小説『ウィニペグ狼』を物している。一人の男の子と、一匹のオオカミとの、ふしぎな絆を描いた感動的な物語である。

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マニトバ州の平原

さて、やっとの思いで、カナダ西部の玄関口ウィニペグにたどり着いたシートンは、そこで列車を乗り換え、さらに西へ向かった。ウィニペグの西150キロ、現在のカーベリー付近に入植していた兄の農場を手伝うためだ。カーベリーは、マニトバ州南西部の平原地帯にあり、入植者による開拓が進められていた。当時、シートンは22歳。カーベリー周辺で過ごした3年の日々は、人生の黄金時代だったと、自叙伝に記している。農場の手伝いもそこそこに、大自然が豊かに残るカーベリー周辺で鳥や獣の調査に没頭。その結果をまとめた『マニトバの鳥類』は、シートンの処女出版となった。また、1892年にはマニトバ州政府の顧問博物学者に任命されている。

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カーベリーにあるシートン・センター

少年時代をカナダ東部のオンタリオ州で過ごし、博物学者になりたいと願いながら、頑固親父に反対されて実現できなかったシートンにとって、マニトバはまさに「夢の地」だったのである。カーベリーには、地元にゆかりの偉人、シートンを記念した「シートン・センター」もあり、彼の遺品や作品を収蔵・展示している。

ここまで読んで、「あれれ?」と思った人もいるだろう。「シートンって、カナダ人だったっけ?」
出世作『ロボー カランポーの王様』がアメリカ南西部を舞台にし、また、後半生は主にアメリカで活躍したため、シートンにはアメリカ人というイメージが強い。事実、晩年にはアメリカ国籍を取得し、アメリカ人として死んでいる。

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シートンがカーベリーの近くで最初に住んだ家。シートン画

しかし、実は、シートンは、1860年にイギリスに生まれ、5歳の時に家族とともにカナダに移住。一家はトロント近郊のリンゼイ(Lindsay)で開拓生活を送ったが、1870年にトロントに越している。本稿冒頭のタカの絵は、彼がトロントで過ごした少年時代に描いたもので、現存するシートンの彩色絵としてはもっとも初期の作品である。当時16歳だったシートンは、市内の森でタカの死骸を見つけ、その美しさに魅了された。
そこで、「死骸を飛んでいるような姿勢に固定する枠」を考案し、2週間がかりで描いた。シートン自身、晩年にこの絵を評して、『今見ると拙い所もあるが、後年の私の仕事と、ものの考え方を、あらゆる点で予見させる』と述べている。「芸術的博物学者」としてのシートンの根っこを育んだのがカナダの自然であることを象徴する作品だと言えよう。幼い頃から鳥や動物が大好きだったシートンは、このように、カナダの自然にどっぷりと浸かって育ち、カナダを舞台にした小説も数多く残している。

たとえば、『ロボー』は、短編集『私の知る野生動物』に収められているが、同書の短編8作品のうち5作品、『銀の星 ある鴉の話』『ぎざ耳坊主 綿尾兎の話』『ビンゴ わたしの犬の話』『スプリングフィールドの狐』『赤襟兄い ドン谷山鶉の話』は、トロントや、トロント近郊の農村、あるいは、カーベリー周辺が舞台だ。

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サンド・ヒル牡鹿像。シートン画。シートン・センターで複製を買える

また、『私の知る野生動物』の翌年に出版された『サンド・ヒル牡鹿の足跡』は、これまた大ヒットしたが、カーベリー周辺の「サンド・ヒル」と呼ばれる一帯が舞台である。一頭の、ずば抜けた牡鹿を追い続ける若いハンターの物語で、シートンの「黄金時代」の体験に基づいて書かれている。前述の『ウィニペグ狼』や、『少年と大山猫』も、開拓期のカナダの物語だ(因みにこの二作品は、ともに短編集『動物英雄伝』に収められている)。

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