02. 自然と共に生きる人々

シートンを育てたカナダの自然02. 自然と共に生きる人々

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シートン19歳頃の自画像

ところで、カナダにもアメリカにも、「シートン動物記」という本はない。戦前、日本での出版にあたって、出版社が彼の動物小説をまとめて『シートン動物記』と銘打ったのだ。既に出版されていた『ファーブル昆虫記』の人気にあやかろうとの魂胆だった。ネーミングの妙もあってか、『シートン動物記』はベストセラーになった。戦後も、『シートン動物記』は、さまざまな人が訳し、絶えることなく出版されている。
かように人気の高いシートンだが、トルストイやヘミングウェーのような世界の文学史に名をとどろかす「文豪」とまでは言えないだろう。せいぜい、多くの子どもに親しまれる「世界の名作文学」中の一作家、といった位置づけではないだろうか。

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76歳のシートン(1936年)

しかし、世の中には、シートンによって人生を変えられてしまった人たちも存在するのである。たとえば、動物学者だ。『シートン動物記』は、日本の動物学に大きな影響を与えた。動物の社会を調べる「動物社会学」は、日本では、「ネオ・シートニズム」を標榜する研究者たちによって打ち立てられたのである。彼らは、科学的な表現だけでは、生き生きとした動物の姿を描くことはできないことに気づいた。そして、動物の側に立って動物の行動を見つめたシートンの手法を受け継ぎつつ、シートンを越えることを目指して、フィールドワークに励んだのである。
 実は、私も、シートンによって人生を変えられた一人だ。もっとも、私の場合、感銘を受けたのは、『動物記』よりも『赤人の福音書』という著作で、シートンを日本に紹介した内山賢次氏の訳による「シートン全集」に収められていた。「福音書」とはいっても、宗教がかった本ではなく、「赤人」こと北米インディアンが、肉体的にも精神的にもどんなに優れた人たちであったか、いかに正直で、勇敢で、親切で、体格も体力も抜群だったかを、豊富な事例をもとに力説した本だった。当時私は中学生。それ以前に小説『モヒカン族の最後』によってインディアンへの関心を抱いてはいたが、シートンの『赤人の福音書』を読み、すっかり彼らに心酔してしまったのだった。そして、自分も彼らのような人間になりたいと願うようになったのである。

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同じ内山賢次訳「シートン全集」中の『二人の小さな野蛮人』にも、大きな影響を受けた。「インディアンのように暮らした二人の少年の冒険とその学んだこと」という副題通りの作品で、シートンの子ども時代の自伝的小説でもある。つまり、彼が少年時代を過ごした、1870年代のトロントと、その近郊の開拓地が舞台だ。

同著には、シートンの分身である主人公ヤン少年の体験を通して、インディアンの天幕(ティーピー)の作り方、弓矢の作り方、靴の作り方、火起こし棒で火を熾す方法、鴨の種類の見分け方など、シートンが「森技」とよぶ野外生活のノウハウが満載されていた。私はすっかり夢中になり、この本を参考に弓矢や靴を作ったり、火起こし棒で火を熾したりしたものだ。こうして私は、北米インディアンの暮らしや歴史を調べることを生涯の趣味とする「インディアンおたく」になったのだった。

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