バンクーバー 海と風と森と

03. グリズリーの王国

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きょうはいよいよ野生のグリズリーベアが暮らす場所へと足を踏み入れる。「グリズリーの王国」への訪問だ。

とはいえ、もしかするとグリズリーに会えない、なんてこともあるかもしれない。その時、原稿はどうしよう、などという小さな不安を抱えながら、僕はボートに乗り込んだ。

キャンベル・リバーから目的地まで、およそ2時間かけて水上を移動する。ボートは勢いよくバンクーバー島と大陸の間の海峡を、北へ北へと進んでいく。

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後方のデッキにいると風が強くて寒いけれど、ボートが作り出し続ける白い波しぶきをぼんやり眺めているのもなんだか楽しい。

前方に雪をかぶった山々が見えてきた。大陸側の端を南北に連なる山脈だ。実に雄大で綺麗な眺めだ。

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そう言えばボートに乗り込む前、ガイドの人からこれからのツアーについて説明があった。

大事なのは、ここはグリズリーなど野生動物が暮らす場所であって、人間は「お邪魔」する立場だ、ということだ。

だからグリズリーと出会った時は、声を出すにしても囁くようにしゃべらなくてはならないし、写真を撮る場合はフラッシュを使ってはならない。食べ物の持ち込みもNGだ。

そして、ここは先住民の人たちの土地であることも念押しされ、出発前には書類に署名もさせられた。僕らは「よそ者」だ、ここを離れるまでの間、謙虚でなくてはならない。

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さあ、到着した。桟橋には大きな看板があって、ツアーはここからグリズリーの国へ入っていくことを僕らに告げていた。

今度は小型バスのような車に乗り込み、舗装どころか石がゴロゴロしているような道を進んでいく。

結構揺れるなあ、などと思っていると早速、川の向こう側にグリズリーが現れた。もしかしたら会えないのでは、という僕の心配は早々にどこかへ吹き飛んでいた。

小型バスはグリズリーが出没してくれそうなスポットを順番に回っていく。とはいえ、いきなりこんなに簡単に見ることができるなんて、ちょっと驚きだ。

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次にバスが到着したのは、川を遡上してくるサーモンがたくさんいるため、それを狙ってグリズリーも集まってくるというポイントだ。

想像以上にサーモンがいっぱいいる。なんだかバッと手を突っ込めば1匹ぐらい運よく捕まえられそうな気もする。

もちろん人間にはそんな芸当はできないけれど、グリズリーはいとも簡単にサーモンを捕まえるのだろう。

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と思っていたら、向こうの方でバシャバシャっという水の音がした。捕まえる瞬間は見逃したけれど、サーモンをくわえたグリズリーの後ろ姿だけはなんとかとらえることができた。

サーモンを口にくわえたままグリズリーは川の中を走り去っていく。そのまま川岸を上り、森の中へと去っていってしまった。

川で生まれたサーモンは海へと向かい、たっぷりと海を栄養を吸収して大きくなると、生まれ故郷の川に戻って産卵する。

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なぜそんなことが可能なのかはひとまず置いておくとして、無数のサーモンが次から次へと川を遡ってくるおかげで、グリズリーは容易に食べ物にありつくことができる。

グリズリーが食べ残して岸辺に放置したサーモンは、鳥などほかの動物たちの餌となり、森に放置された食べ残しは分解され、森の栄養となる。

この森の川で生まれ、旅立ったサーモンが、海から持ち帰ってくれた栄養素が、森をさらに豊かなものにしてくれるのだ。

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それは知識として知ってはいたけれど、目の前で展開されているのはまさしく、カナダの大地で繰り広げられる、言わば「命のサイクル」なのだ。

まあ、そんな大事な役割を担っているという自覚もなさそうで、グリズリーたちは結構のんびりした感じで僕ら人間を見つめていたりする。

おまえ達がおかしなことさえしなければ、俺たちからは何もしないさー。王国の主は闖入者を前に、そんな余裕すら漂わせていた。

文・写真:平間俊行

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