バンクーバー 海と風と森と

05. 人間にできること

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桟橋へと引き返す途中でも、グリズリーは川の対岸に姿を見せてくれた。

近くならばゆったりとノッシノッシ、という感じだろうけれど、遠くから見るグリズリーはなんだかポツリポツリと、まるで散歩でもしているかのようだ。

そして、「グリズリーの王国」への訪問を終えた僕を乗せ、ボートはキャンベル・リバーへと引き返していく。

来る時に目の前にそびえていたあの白い頂きも、ボートの後ろの方で徐々に小さくなっていった。

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頭上には相変わらず青い空が広がっている。この状況で僕が改めて思うのは、言わば「命のサイクル」の中で、人間はなんと“役立たず”なんだろう、ということだ。

食べたり食べられたり、森や大地や川の栄養となったり、そんなサーモンを中心とした「命のサイクル」。

その中で人間がやっていることと言えば、サーモンを食べたり、クリズリーに向けてシャッターを切ったり。人間だけが何の貢献もしていない。

ボートが進んでいくこの辺りは本当に豊かな海で、サーモンだけではくタラや巨大なオヒョウ(ハリバット)、タコやウニといった水産資源の宝庫だと聞いた。

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タラやオヒョウと言えば、キャンベル・リバーに来た時に食べた、あのフィッシュ・アンド・チップスの「フィッシュ」だ。どおりで美味しいわけだ。

本当に豊かな海だからこそ、ここではオルカやクジラにも出会うことができる。

運良く僕が乗るボートの近くにオルカが現れてくれた。ほんの少しだけ、特徴ある白と黒の模様を見てとることができた。

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息つぎなんだろう、時折、「プシューッ」という大きな音を立てて、水面に水しぶきをあげてみせる。

こんなふうに背びれをまっすぐ立てて迫ってくると、なかなかの迫力だ。

そしてクジラまで、僕の前にその姿を現してくれた。クジラといえば当然、その尾びれを見ないことには始まらない。

そんなこちらの気持ちに応えてくれるかのように、尾びれをすうっと持ち上げるようにしてクジラはゆっくりと水中へ消えていった。

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「グリズリーの王国」も豊かな森だったけれど、ここは本当に豊かな海だ。

僕が乗るボート以外にも、周囲ではオルカやクジラに歓声を上げているボートが見える。こんなに豊かで、スケールの大きな自然に触れることができるのは、本当に幸せなことだと思う。そして当たり前だけれど、オルカやクジラに出会う機会はそうそうない。

それが可能になるのも、ここが豊かな海だから、だと思う。オルカやクジラにとっての食べ物が豊富にあること、つまり「命のサイクル」がしっかり機能しているからこそだ。

だから僕は次に訪れる場所を、サーモンの孵化場「ハッチェリー(hatchery)」と決めた。

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サーモンを増やすために、人間が手を貸して卵を孵化させて放流したり、資源状況の把握のための作業を行っている施設だ。

日本でも30年以上前に、「カムバック・サーモン」という運動が始まった。札幌の豊平川で、水質をきれいにし、稚魚を放流したりして鮭に戻ってきてもらおうという取り組みだ。

サーモンが減ったのは日本でもカナダでも、人間が「命のサイクル」にダメージを与えたからだろう。だからハッチェリーでの仕事もカムバック・サーモン運動も、 ちょっと“罪滅ぼし”みたいな部分もある。

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でも、人間というのは自分でダメージを与えながら、一方で懸命に“罪滅ぼし”をするような、常に矛盾を抱えた存在だとも思う。

そして、さらにもう1つ矛盾なのは、「命のサイクル」に貢献したいなあなどと思いつつ、やっぱりきょうも美味しくサーモンをいただいてしまう、ということだ。

でも、矛盾だらけのところが人間らしいとも言える。

せっかく絶品のサーモンを食べるのだ。美味しさと幸せを存分に感じなければ、サーモンに申し訳が立たない。それでいいのだと思う。

文・写真:平間俊行

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