バンクーバー 海と風と森と

08. ハッチェリーの役割・その2

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キャンベル・リバーにあるサーモンの孵化場「クインサム・リバー・ハッチェリー=Quinsam River Hatchery」では、放流する前の稚魚に2つの作業を施している。

1つは前回の原稿で書いたように、小さな背びれを切り落とし、ひと目でハッチェリー生まれのサーモンだと分かるようにすること。

もう1つが、まるでピアスでもするかのように、ステンレスでできた細い糸のような「タグ」をサーモンの鼻のあたりに埋め込むという作業だ。

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最初の写真は、その作業場の壁で見かけた貼り紙。こんなふうにサーモンの頭の内部というか、鼻のあたりにタグを埋め込むのだ。

次の写真のリールのように巻かれているのがそのタグで、右のハサミは1つ目の作業、背びれを切り落とすのに使う。

この細いタグには肉眼では見えないような小さな文字でナンバーが記されていて、これを調べることによって、BC州内のどこのハッチェリーで生まれたサーモンなのかが分かるのだ。

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クインサム・リバー・ハッチェリーで誕生するサーモンは年間でコーホーが45万匹、チヌークが75万匹にのぼる。このうちコーホーは100%すべて、チヌークについても15~20%の割合でタグが埋め込まれている。

第1の作業、稚魚の小さな背びれを切り取る作業は、こんなふうに人の手で行われる。ハサミで1匹ずつ、背びれを切り落とすのだ。

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第2の作業、タグの埋め込みは写真にある「タギングマシーン」を使う。

これらの作業が行われるのは11月で、稚魚たちが放流されるのは翌年の5月だ。水が冷たい時期の方が稚魚へのストレスが少なく、また小さいうちにやっておけば傷も治りやすい、ということらしい。

ここで、前回の記事でも登場したこの写真を見てほしい。「missing fin??」はハッチェリー生まれの証し。そして大事なのは「keep the head!!」だ。

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川を遡上してハッチェリーに上がってきたサーモンのうち、小さな背びれのないハッチェリー生まれは頭を切り落とされ、その頭はバンクーバー島のナナイモの施設に送られる。

そこで、鼻に埋め込まれたステンレスのタグが調べられるのだ。

そしてもう1つ、スポーツフィッシングで釣り上げられたサーモンについても、背びれがなかったら頭を切り落とし、ナナイモに送るよう広く協力を呼び掛けている。

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ちょっとグロテスクかも知れないけれど、この写真を見てほしい。釣り船が出る桟橋にはこの写真のような「HEAD DEPOT」が設けられている。

ハッチェリー生まれのサーモンを釣り上げた人は、情報を記載したペーパーとともにサーモンの頭を「HEAD DEPOT」に入れておく。

BC州内の「HEAD DEPOT」に投じられたすべてのサーモンの頭がナナイモに集められ、タグが調べられる。この取り組みによって、サーモンの資源状況を把握できるのだ。

カナダ人には、立派な理想を掲げ、しかも馬鹿馬鹿しいとは決して思わず、地道に、生真面目に、その取り組みを続ける、そんな気質があると僕は思っている。

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さて、海で大きく成長して川を遡り、ハッチェリーにたどり着いたサーモンは、卵を採取されれば死んでしまうし、産卵前に力尽きて死んでしまうものもたくさんいる。

そもそも、産卵を終えたサーモンはそこで一生を終える運命にあるのだ。

このページのトップ写真、そしてこの2匹の写真は、ハッチェリーで死んでしまったサーモンだ。でも彼らには最後の「役割」がある。

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彼らはハッチェリーに上がってこなければ、この写真のようにお腹を上に向けて川の浅瀬に沈み、そこから動物に食べられたり、分解されて川や森の栄養になるはずだったのだ。

そこで、ハッチェリーで死んだサーモンは、大きなトラックで川の上流に運ばれ、人の手によって川に流される。彼らが本来担っていた「命のサイクル」における最後の「役割」を果たしてもらうために、だ。

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人間が、ハッチェリーが、「命のサイクル」の中で担うことができるのは、サーモンを減らしてしまったことへの“罪滅ぼし”と、彼らの「役割」を手助けしてあげること、その程度なのかもしれない。

だとしても、“役立たず”の人間だって、なかなか捨てたもんじゃないと僕は思っている。

文・写真:平間俊行

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