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10. 釣り人たちのクラブ

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釣果ゼロ、手ぶらの僕を乗せたボートが、「ペインターズ・ロッジ」へと戻ってきた。

桟橋には、釣り上げたサーモンのサイズを測ったりする台があって、ハッチェリーで見たあの「missing fin??」と「keep the head!!」のマークも青色でしっかりと描かれていた。

釣った中に背びれのないサーモンがいたらハッチェリー生まれだ。ここで頭を切り落とし、「HEAD DEPOT」に入れておかなければならない。

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この模型のように大きなサーモンが釣れていたら、僕もこの桟橋で意気揚々とサイズを測ったり、記念撮影をしたと思う。

そして頭を切り落として「HEAD DEPOT」に入れたりと、なかなか忙しいはずなのだが、手ぶらなのでとりあえずここでは何もすることがない。

本当に釣れるんだろうか、などと思っていたくせに、実際に釣れないとそれはそれで少しガッカリするというのは、人間の性(さが)というものだろうか。

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それはともかく、素人の僕の面倒を見てくれたペインターズ・ロッジのガイドさんは、昔は、この写真のような感じで、夏はサーモン釣りのガイド、それ以外の季節は木こりの仕事をしていたそうだ。

ロッジの創業者はガイドをやっていたネッド・ペインターさんと弟のジョーさん。

1940年の創業だ、お2人とも既に亡くなっているが、弟のジョーさんの名前をそのまま受け継いだ息子のジョー・ペインターさんが今もご健在なんだそうで、キャンベル・リバーでは時々、「ジョー・ペインターが生きているって??」と楽しい誤解を招いているらしい。

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もともとキャンベル・リバーにサーモン釣りにやってきていたのは、イギリスやアメリカの、今ふうに言えばセレブの人たちだ。

そしてここ、ペインターズ・ロッジには、ハリウッドやブロードウェイのスターがたくさん訪れたりしたことで、サーモン釣りの愛好家の間でもかなり知られるホテルになったようだ。

館内にはそんなスターたちの写真がところ狭しと飾られていて、ジョン・ウェインが歓迎のキスを受けていたり、ボブ・ホープが普通に記念写真におさまっていたりと、往年のスターが勢ぞろいしている。

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お互いに夫と妻がありながら、ここで「密会」をしていたという大スターの話も聞かされたけれど、ネタ的にはちょっと古すぎるかもしれない。

建物も本当に雰囲気があっておしゃれとしか言いようがない。

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さて、このロッジを有名にしているもう1つの理由、TYEE CLUBのメンバーに会うことができた。Norm Leeさん。1990年まで50シーズンにわたってガイドを務め、今は地元のミュージアムでボランティアをされている。

実は2016年シーズンに、最初に30ポンド超の「TYEE」を釣り上げたのはNormさんなんだそうだ。そして服の胸にはTYEE CLUBのマークが縫い込まれている。ガイドは引退しても釣り人としてはまだまだ現役のようだ。

TYEE CLUBのメンバーになるためには、事前にクラブハウスに行って定められた道具であるかどうかの確認を受ける。乗るのはローボート、つまり手漕ぎだ。釣りが終わったらサーモンをクラブに持ち込んで見てもらう、というのが大きな流れだ。

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そして1年に1度、素晴らしい釣果をおさめたメンバーにはピンがプレゼントされる。

例えばそのシーズンに最も大きなサーモンを釣り上げたメンバーには「ダイヤモンド」というランクのピン。いわばチャンピオンベルトのようなもので、翌シーズンが終わるまで、ピンは帽子でその輝きを放ち続けるのだ。

Normさんはガイドからクラブのメンバーになったけれど、1925年の設立から64年までの間は、ガイドがメンバーになることは禁じられていたそうだ。

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「ガイドにそれをさせてしまうと、クラブを乗っ取られるのではないかという懸念があったようだ」とNormさん。

そしてもう1人、話をしてくれたのは現役ガイドのBruce Aikmanさん。お祖父さんもお父さんもガイドで、自身も15歳の頃にガイドの道を歩み始めたそうだ。

「有名人のガイドもたくさんやったけれど、それが誰かは言ってはいけないことになっている。60年代、70年代のころは、ガイドは釣り以外のことはお客と話してはならないときつく言われていたんだ」

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ガイドは昔、ただの漁師のように見られていたけれど、今ではみんな、まるで友達のように毎年、Bruceさんをご指名で釣りにやってくるそうだ。

「昔はただの漁師。今は釣りのガイドだし、ネイチャーガイドだし、川や島のことなどたくさん解説しないといけない。間違ったことを話すとすぐにインターネットに出ちゃうけどね」とBruceさんは笑っていた。

BruceさんはTYEE CLUBのメンバーではないけれど、昔と違って和気あいあいと談笑しながら釣りのガイドをしているのだろう。そしてガイドだったNormさんはメンバーとして今も「TYEE」に挑み続けている。

ハッチェリー生まれのサーモンも増え、資源管理のためにみんなが「keep the head!!」に協力するようなご時世だ。釣りの風景も今らしくて、なんだかいい感じだ。

文・写真:平間俊行

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