04. 砂糖小屋にて=「メープルの謎」1=
温めたシロップを雪の上で固めて作るメープル・タフィ

カナダの歴史を謎解く旅04. 砂糖小屋にて=「メープルの謎」1=

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ビーバーの毛皮を求めて大西洋を渡り、毛皮交易人であるファー・トレーダーとなったフランス人やイギリス人は、氷点下20度、30度が当たり前という、この極北の冬をどのようにして生き抜いたんだろうか。

僕は、メープルシロップが大きな役割を果たしたのではないかと考えて今回の「謎解きの旅」に臨んでいた。

ほら、山で遭難した時に、ポケットに入っていた飴玉やチョコレートで何日間かを耐えしのぎ、救出されたなんてニュースを耳にしたことがあると思う。

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メープルシロップは先住民からヨーロッパ人に伝えられたと言われている。この地の寒さに慣れていないヨーロッパ人たちにとって、メープルシロップによって得られるエネルギーは厳しい冬を乗り切るのに不可欠のものだったのではないだろうか。

メープルシロップは砂糖カエデの樹液=メープル・サップから生み出される。2~3パーセントほどの糖分を含んだメープル・サップを煮詰めていくと、あの甘いメープルシロップになる。理屈は結構、単純だ。

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ただし、砂糖カエデの原生林があるのは、一部の例外を除くとケベックやオンタリオなどカナダ東部の州とアメリカの一部のみ。だから世界のメープルシロップの85パーセントがカナダで生産され、そのうちの90パーセントをケベック州産が占めているんだ。

話が脱線するけれど、以前バンクーバーでお土産にメープルシロップを買った時、店の人が照れくさそうに、こう言っていたっけ。

「本当はこっちじゃメープルシロップなんて採れないんだけどね」。

それはともかく、産地であるケベック州やオンタリオ州の人たちにとって、メープルシロップは生活の中でなくてはならない存在だ。彼らは毎年春になると、できたばかりのメープルシロップをまとめ買いする。その単位はなんと「4リットル」、あるいは「1ガロン」だ。

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例えば、娘夫婦の家の分も買っておこうと、もう「4リットル」―。そんなぐあいなんだそうだ。日本で言うと、東京に住む子供のもとへ親がコメを送るような感覚だろうか。

写真を見てもらえれば分かると思うけど、お土産のカエデの形の瓶と4リットル瓶を比べてほしい。これ、決して「業務用」とかじゃない、「家庭用」なんだ。

だからケベックの人たちのメープルシロップの使い方ってのは半端じゃない。パンケーキにかけるなんて当たり前で、ステーキにだって魚にだって、とにかく料理なら何にでもメープルシロップを使うと言ってもいいぐらい。

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ケベックの伝統料理を味わえるレストラン「オー・ザンシアン・カナディアン」で食べたメープル・シロップ・パイは最高だった。そして、メープルシロップのプディングにいたっては、たっぷりシロップが染み込んだ上にさらにシロップをかけてあるから、口に入れたとたん、もうメープルシロップの樽の中に頭を突っ込んだみたいにメープルの香りに包まれてしまうんだ。

さて、とにかくヨーロッパからやってきた入植者たちがどのようにしてメープルシロップと出会ったのかを突き止めなくてはならない。そこで、まずは砂糖カエデの木からどのように樹液が採取され、メープルシロップになっていくのかを知るところから始めることにした。

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ケベックを車で走っていると、こんな道路標識に出くわす。写真にある下の方の看板、カエデにフォークとナイフ、そして屋根のようなデザイン。これが、メープルシロップを作っているシュガー・シャック(砂糖小屋)だ。

メープルシロップをつくるだけじゃなく、豆の煮込みなどの素朴な家庭料理を出したり、メープルシロップをかけたパンケーキを出したりと、ドライブインみたいな観光施設でもある。まずはここで樹液の採取方法を見せてもらった。

電気ドリルで幹に小さな穴を開け、そこに蛇口みたいな金属の採取口を取り付け、バケツをぶら下げておくと中に樹液が溜まるという仕掛けだ。

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ただし、樹液の採取時期は3月中旬の数週間のみ。残念ながら、僕が訪れた2月上旬は時期が早すぎて、ドリルで穴をあけても当然、何も出ては来なかった。

ところが、この毛皮の帽子をかぶったシュガー・シャックのおじさん、「樹液を流してやるよ」と言うと、採取口に雪を詰めて指で温め始めた。

いやいや、僕はそんなこと要求してないし、日本ではこういうの「ヤラセ」って言うんだ。僕の苦笑いなど意に介さず、「ほら、早く撮れよ」と言わんばかり。

せかされた挙句に撮影してみると、なぜかこういう時に限って大した腕じゃないのに、一応「しずく」が写っている。いやあ、偶然ってのは実に恐ろしい。

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成り行きで「共犯」みたいになってしまったが、まあ、イメージカットということでお許しいただきたい。

実際に今も金属のバケツで樹液を採取しているのは小規模なシュガー・シャックだけ。大規模なところでは、幹に差し込んだ採取口に細いパイプを取り付け、そこからさらに太いパイプをつなぎ、流れ込んでくる樹液をシュガー・シャックの中にある大きなポンプで吸い集めている。

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水のように透明だった樹液を煮詰めていくと、だんだんと水分が飛ばされて、僕らが知っている、あのメープルシロップになる。

温かいメープルシロップを平らにならした雪の上にたらし、少し固まったところでくるくると木のヘラで丸めていくと、メープルシロップのキャラメルみたいになる。

「メープル・タフィ」と呼ばれている。冬のカナダでは、いろいろなところでこのタフィを作っている。

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以前、オーロラの取材でノースウエスト準州に行った時も、ロッジでメープル・タフィをふるまってもらった。

「やってみるか?」と勧められたので、僕も雪の上にメープルシロップを流してみせたら、「おー、さすが日本人、同じ幅でまっすぐだ」と妙に感心されたっけ。まあ、なんだか「ものづくりニッポン」みたいな感じで、多少なりとも日本のイメージアップに貢献できたのなら、これにまさる喜びはない。

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ヨーロッパから来た人たちは、砂糖カエデの樹液からメープルシロップを生み出す方法を先住民から教えてもらったと言われている。

しかし、一般的に先住民とヨーロッパからの入植者の関係は、搾取する側とされる側、奪う側と奪われる側、というイメージが強い。先住民の人々は、アメリカでは土地を奪われ、南米では鉱山で働かされ、カリブ海ではプランテーションでの労働に従事させられた。

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でもカナダでは先住民がヨーロッパ人たちにメープルシロップの作り方を教えてあげたのだとすると、少なくとも最初の頃、両者は結構いい関係にあった、ということなのかもしれない。

そうでなければ、厳しい冬を生き抜く貴重なエネルギー源であるメープルシロップの存在をよそ者に教えるはずがないじゃないか。

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