バンクーバー 海と風と森と

14. オーシャンワイズ

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バンクーバーで始まり、今、カナダ全体に広がりつつある「食」についての取り組みがある。「オーシャンワイズ」と呼ばれている。

キーワードは、最近よく耳にする言葉だと思う、「持続可能な」という意味の「サステイナブル=sustainable」だ。

僕なりに「サステイナブル」を説明すると、僕らの子供や孫、将来世代が必要とする自然や食糧や資源や、そういったものを僕らの世代で使い切ったり、あるいは駄目にしてしまうことなく、ちゃんと未来に引き継いでいこう、ということだろうか。

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この「サステイナブル」の考え方をシーフードで実践する「オーシャンワイズ」の提唱者、シェフのRob Clarkeさんの店、「The Fish Counter」を訪ねた。

壁のメニューにあるフィッシュ・アンド・チップスには「WILD SALMON」の文字もある。天然サーモンのフィッシュ・アンド・チップスって、なかなか贅沢なんじゃないだろうか。

店内はお客であふれかえっていて大忙しだ。Robさんの手が空くまでの間、自慢の料理を味あわせていただく。手前はサーベルフィッシュ=太刀魚だそうで、2列目の右がチヌーク、左がソッカイのスモークだ。もう覚えてもらえただろうか、チヌークはキングサーモン、ソッカイはベニザケだ。

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やっぱりカナダでは、サーモンの種類をきちんと頭に入れておかないと、食べる楽しみも半減してしまう。「もぐもぐ」やりながら味の違いを確かめつつ、頭の中ではサーモンの名前を繰り返しつぶやいて、ぜひ覚えてほしい。

「もぐもぐ」ついでに説明しておくと、「オーシャンワイズ」とは、レストランでは環境にダメージを与えないような方法、つまりサステイナブルな方法で捕ったシーフードを使うようにしよう、という取り組みだ。

つまり、網でごそっと根こそぎにしたり、目的としない魚も一網打尽にして結局、捨ててしまうとか、そんなやり方で捕った魚を店で使うのはやめよう、という呼び掛けなのだ。

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「オーシャンワイズ」の特徴は、一般の人ではなくレストランやシェフを対象としていること。そして、店で出すシーフードを一気に切り替えるのは難しいけれど、少しずつでいいから、サステイナブルなシーフードに切り替えていこう、ということだろう。

少し店内のお客さんが減ったようだ、Robさんが来て僕の前に腰掛けてくれた。

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「自分は2つの観点からオーシャンワイズのプログラムを考えている。1つは、世界に対しての責任を持つということ。もう1つはビジネスとして失敗しないようにすることだ」

Robさんの言う世界への責任とは、年齢を重ねるにつれて、自分が大好きなシーフードを次の世代が食べられなくなってしまわないようにしたいと考えるようになった、ということ。同時に、ビジネスとして成立していないと、「オーシャンワイズ」の考え方は広がりを持たなくなってしまう、ということだ。

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だから食材の切り替えはいっぺんにでなくていい、徐々にやっていこうというスタンスをとっている。

そんな話を聞きながら、サステイナブルなやり方で捕られた天然チヌークのグリルをほおばった。

驚きだった。僕が知っているサーモンとはまったく味が違っていた。何だろう、おかしな表現だけれど一瞬、「カツオのたたき」のような、脂を感じない味がした。

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グリルの香ばしさと、サーモンそのものの味だけがあって、それをレモンの酸味が引き立てている。それだけだ。でも「それだけ」がこの上なくおいしい。サーモンの養殖についてRobさんの考えを聞いてみた。

「自分は生物学者ではないので、シェフとしてコメントするけれど、サーモンの養殖はまったく意味がない。サーモンは海を回遊して生まれた川に戻ってきてくれるのだから、人間は何もすることはないんだ」

カナダの先住民の人たちも、北海道のアイヌの人たちも、毎年、川に帰ってきて自分たちに「食」をもたらしてくれるサーモンを「神の魚」と考えていた。

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Robさんによれば、サーモンはふるさとである川がどこかによって味もクオリティも違うんだそうだ。

それを1カ所に集めて養殖することは、「神の魚」をふるさとや「命のサイクル」と切り離し、単なる「食糧」として扱うことなのかもしれない。

ただし僕は一方で、養殖によって食糧が増えれば、結果的に天然サーモンが守られるのでは?とも思ってしまう。しかし同時に、養殖サーモンが世界を席巻してしまえば、次世代の人たちすべてが天然サーモンの味を忘れてしまうかもしれない、と危惧したりもする。さっきの天然サーモンの味を知る人がいなくなったら、どうなってしまうだろう。

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「そうなったらすごく悲しい。そうなってほしくない。ただただ、それは悲しいことだ」とRobさん。

でも、例えばこの写真、僕がちょっと奮発して買ったお高めの養殖アトランティック・サーモンだけど、これが食べられなくなるのもやっぱり悲しいことではある。

僕に答えなど分かるはずがない。天然サーモンを「もぐもぐ」、養殖サーモンも「もぐもぐ」、回転寿司に行っても「もぐもぐ」やりながら、グズグズ、グズグズと考えるぐらいしか僕にはできそうもない。

文・写真:平間俊行

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