バンクーバー 海と風と森と

18. 「再生」の物語

お気に入りに追加
18. 「再生」の物語-イメージ1

これは何か、と聞かれたらみなさんは何と答えるだろうか。まずほとんどの人は「お面」と答えるに違いない。しかしそれは不正解だ。

なにしろ、このお面っぽいもの、かなり巨大で、実は長さは1メートルぐらいある。顔にかぶれるはずがないし、無理にかぶれば首が折れてしまう。正解は「蓋(ふた)」だ。

何をたわけたことを、と思うかもしれない。でもこれが真実なのだ。では、次の写真はどうだろうか。

18. 「再生」の物語-イメージ2

即答は難しいと思う。大きな人形とか、人が寝ているオブジェとか、そんな答えになるだろうか。正解は「器(うつわ)」なのだ。

読者の皆さんはイライラしているかもしれない。しかしこれらが、料理を盛り付ける「器」であり、その上にかぶせる「蓋」であることは紛れもない事実なのだ。2つとも先住民の人たちによる「ポトラッチ」の際に使われていた。

18. 「再生」の物語-イメージ3

トーテムポールを建てる際、たくさんの客を呼んで食べきれないほどの料理を振る舞い、お土産をプレゼントする。もう家計が傾くぐらいの浪費を平然とやるのがポトラッチだ。

だからわざわざ巨大な「器」を作り、料理を満たして「蓋」をした。お面っぽい蓋の目や口からは温かい料理の湯気が立ち昇るという、もうとんでもないパーティーの演出なのだ。

よく見てほしい、こっちの「器」なんてご丁寧にも車輪がついている。料理を山盛りにしてガラガラ引いてくるという演出なんだろうか。楽しいのか?、これは。

18. 「再生」の物語-イメージ4

とにかく、こんな興味深い展示に出会えるのが、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の人類学博物館だ。バンクーバーを旅する際にはぜひ足を運んでほしいと思う。

これなんかは権力を誇示する目的で作られたのだろうか。これでもトーテムポールなんだそうで、屋内の柱、つまり家柱の一種らしい。

族長らしき人が乗った台を、はいつくばった奴隷らしき2人の人が担いでいるように見える。これを作った時にもポトラッチをやったんだろうなあ、と思うと、浪費にもほどがあると頭がクラクラしてしまう。

18. 「再生」の物語-イメージ5

博物館の中だけでなく、屋外展示もなかなか興味深い。ハイダ族の集落をイメージして設計されている。

手前には海に見立てた池があって、海から見たハイダ族の集落、という設定だ。

特別に住居の内部を見せてもらうことができた。もちろん、本物を模してつくったもので、新しいからだろう、たちこめるレッドシダーの香りが心地よい。

18. 「再生」の物語-イメージ6

この中でみんなが族長を囲んで暮らしていたのだろう。真ん中では火が燃えさかっていて、暖を取るとともに、上には燻製にするため魚が吊るされていたと思う。

さて、このUBCの人類学博物館、実は博物館としてはずいぶんと変わったつくりになっている。お分かりだろうか。実は展示スペースがガラス張りなのだ。

18. 「再生」の物語-イメージ7

太陽の光によって展示物が痛むのを防ぐため、博物館は薄暗いのが常識だ。しかしUBCは、ハイダの集落を模した屋外展示との一体感を重視し、あえて痛みの恐れがあるガラス張りにしたんだそうだ。

そもそも屋外に展示されているものだって、今はレッドシダーのいい香りがする住居だって、あるいはトーテムポールだって、いずれは痛み、朽ち果ててしまうはずだ。

しかしそれは、若い世代が新しくポールなどをつくって技術を身に付ける機会にもなる、ととらえているんだそうだ。

18. 「再生」の物語-イメージ8

そして屋内と屋外の展示に一体感をもたせるためガラス張りにする時も、先住民の人たちと相談したんだそうだ。彼らの結論はこうだったらしい。

傷んだら新しいのを作ればいいじゃないかー。

そもそも先住民の人たちが作っていた本物のトーテムポールは修復などせず、朽ちて土に帰っていくのが前提だった。

賛否はもちろんあるし、博物館で修復を担当する人は大変な苦労だと思う。しかし、新しくつくることで技術が継承される、というのもいい考え方だ。これこそが「命のサイクル」の中から生み出されるトーテムポールにとって、本当の「再生」の物語なのかもしれない。

文・写真:平間俊行

コメントを残す