バンクーバー 海と風と森と

19. 巨木の森

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観光スポットとしてはあまり知られていないけれど、バンクーバーには市民から愛されている自然豊かな「ライトハウス・パーク」という公園がある。いや、公園というより、鬱蒼とした「巨木の森」と言ったほうがいい。

一生懸命、自分の足で森を歩き通したあと、最後の最後にライトハウス=灯台に出会うことができるのだ。

それにしても木々がとてつもなく大きい。日本で見る「森」とはちょっと違う感覚の太さだ。

南方から流れてくる「黒潮」、日本では日本海流と呼ぶけれど、この海流は日本列島の南側を通って太平洋を北東へと進んでいく。

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最後に行きつくのはブリティッシュ・コロンビア州(BC州)沿岸あたりで、ここで陸地にぶつかって海流は左右へと分かれていくのだ。

東日本大震災の後、津波にさらわれたたくさんの漂着物がカナダ沿岸に流れ着き、BC州の人たちに迷惑をかけてしまったことを覚えているだろうか。たぶんあれも「黒潮」の流れによるものだと思う。

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この南からの海流のおかげで、BC州そしてバンクーバーは緯度のわりには暖かい。また海流がもたらす栄養分のおかげで豊かな海の幸の恩恵にあずかることもできる。

さらには、海からの湿った空気が山脈の手前に大量の雨を降らせることで、ここに「巨木の森」が生み出されるのだ。

大きくて柔らかくて加工しやすいレッドシダーの巨木は、先住民の人たちがつくるトーテムポールの材料となるだけでなく、その樹皮は衣類や赤ちゃんのおむつ、帽子やコートにも変身したんだそうだ。

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ところで、話が急に変わって恐縮なのだが、「キャプテン・クック」という名前を聞いたことがあると思う。クック船長はイギリス人で、日本ではハワイを発見した人物として知られている。

しかし同時にクック船長は、現在のBC州沿岸に到達し、ここで暮らす先住民の人たちと接触した初めてのヨーロッパ人でもあるのだ。もちろん、記録に残る事例として、ということだろうけれど。

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僕はこの原稿を書くにあたり、クック船長の航海記を読んでみたけれど、実は非常に気になる記述があった。

クック船長の一行が初めて先住民の人たちと出会ったとき、彼らは鉄の「のみ」やナイフを持っていたというのだ。

それだけではなく、彼らは船に乗り込んできては、しきりに鉄を欲しがり、油断すると船体に取り付けられた鉄を勝手にはがして持って行ってしまったんだそうだ。

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彼らは最初、どうやって鉄を手に入れたのだろうか。もちろん、イギリス人やフランス人と接触していたカナダ内陸部の先住民との交易を通じて、という可能性はある。

しかし僕以外にもその可能性を指摘している人がいるように、難破した日本や中国の漂流船が今のBC州沿岸に流れ着いたのではないか思うのだ。

確たる根拠もないけれど、日本からの漂着物を考えても、あるいは白木に黒い鉄板がはられた江戸時代の船を思い浮かべても、そう「思いたい」という気分になってしまうのだ。

海流が運んできた「鉄」でナイフや「のみ」を作り、ヨーロッパ人との接触の中でさらに鉄を手に入れ、先住民の人たちはより大きく、より精巧な彫刻を作り上げていったのではないだろうか。

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しかしだ、とりあえず僕の期待と想像は脇に置いておいて、ライトハウス・パークの巨木群に話を戻さなくてはならない。

公園内にはたくさんの切り倒された巨木が転がっていた。樹齢を重ねたりして斜めに傾いた木は、切り倒してナース・ログ=Nurse Log、つまり森の看護師にするのだそうだ。

切り倒された巨木はスポンジのようになり、新しい森の命を生み出してくれるという。

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温暖な気候と大量の雨、そしてサーモンによってもたらされる栄養分を吸収した巨木の森もまた、「命のサイクル」の中で再生を繰り返していくのだろう。

灯台が見えてきた。機会があればぜひ、この豊かな森と、「命のサイクル」の一端に触れてもらえたら、と思っている。

文・写真:平間俊行

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